219.攻撃できない城
33章のあらすじ
登場人物:佐々木(31歳、男性)、リベラ(AI、女性)、サラ(29歳、外科医、女性)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)、ギルバート(30代、商人、男性)、グレイソン(50代、元市議会議員、男性)、バロウズ(50代、エイドスの裏の顔役、男性)、カミーユ(30歳、後方支援者、女性)、ハリソン(エイドス大統領、男性)、ミラー(大統領補佐官、男性)、ミネルヴァ(AI、女性)、エドワード(20歳、男性)、アード(81歳、設計士、男性)、リーナ(22歳、ロボット工学者、女性)
惑星エイドスに到着した佐々木たちは、サラの不当逮捕という窮地に直面するが、佐々木は50億クレジットの供託金を即座に支払い彼女を救出する。リベラたちは元議員グレイソンを介して真犯人を追いつつ、襲撃してきた裏社会の顔役バロウズを圧倒的な武力と財力で屈服させた。その後、教育係の先生やカミーユを加え、組織の浄化と「第2アヴァロン計画」による大規模な惑星再開発に着手。ギルバートは大統領らと接触し、巨大ステーション建設を提言する。佐々木は寄付という形で街の復興を支援し、後任の代表としてエドワードを指名。支配体制を盤石なものへと塗り替え、熱狂するエイドスを後目にアヴァロンへの帰還準備を整えるのだった。
朝食の席で、リベラが静かに切り出した。
「佐々木様、そろそろ一度、アヴァロンへ戻ろうかと考えております。よろしいでしょうか」
実際には、長引く滞在に疲れ果て「帰りたい」と切望していたのは佐々木の方だった。
だが、自分から言い出すのをためらっていた佐々木を察し、リベラが代わりにその場を整えたのである。
「あ⋯。うん。そうだね⋯⋯。それがいいと思う」
佐々木は、まるで今初めてその提案を聞いたかのように、少しオドオドしながら頷いた。
佐々木の向かいに座っていたギルバートが気さくな調子で口を開いた。
「俺はもう少しココに残ることにする。ミネルヴァへの引き継ぎもまだ残ってるしな。軌道に乗るまで見届けてやりたいんだ。⋯その代わり、娘のリノをよろしく頼む」
「ああ、分かった」
佐々木は、ギルバートの信頼に応えるようにうなずいた。
一方で、自由の身となったサラは、複雑な表情で視線を落としていた。
リベラはそんなサラの気持ちを察し提案をした。
「サラさん。私たちはこの後、またエデンに向かう予定です。それまでの間、このエイドスいても構いませんよ」
リベラの助け舟に、サラは意を決したように顔を上げ、佐々木を真っ直ぐに見つめた。
「佐々木さん。わがままを承知でお願いしたいんだけど。セレノグラフィアで助けた子供たちの面倒を、私に見させてくれないかな。私も何か、⋯誰かの役に立つことがしたいの」
今回の事件で、サラの中の何かが変わったのかもしれなかったが。
佐々木は、サラが「やりたいこと」を見つけたことをむしろ応援したいと思った。
その子供たちの中には、アイリスの弟も含まれている。
アイリスは、隣に座る佐々木の袖を、引っ張った。
普段はあまり意見を言わない彼女が、佐々木を見上げ、舌足らずな声で懸命に言葉を絞り出した。
「ささき⋯。それ、おねがい⋯」
アイリスもサラが弟の面倒を見てくれる事を歓迎していた。
「分かった。サラ、そうするといい。僕も全力で支援するよ」
佐々木が穏やかに微笑んで頷くと、食卓には温かな空気が流れた。
しかし、その輪の中で一人だけ、所在なげに立ち尽くしているカミーユがいた。
⋯
佐々木からは「ついてこい」とも「残れ」とも言われていない。
今の彼女には帰るべき場所も、果たすべき明確な役割も見当たらなかった。
「あの⋯⋯佐々木さん。私は⋯⋯?」と、問いかけようとした、その時。
バタバタと騒がしい足音と共に、部屋の扉が勢いよく開いた。
「リベラ! ちょっと聞きたいことがあるんだが!」
入ってきたのはアードだった。
着席するなり、リベラに向かって身を乗り出した。
「今回の宇宙ステーションの設計案を見たんだが。なぜ移動機能や攻撃機能を外してるんだ?アレでは外から攻撃されたらひとたまりもないぞ」
リベラは慌てる風もなく、質問に応じた。
「アードさん、ここはあくまで交易用の宇宙ステーションです。アヴァロンほどの移動機能は不要です。それに、攻撃機能についても同様です。我々はあくまで商人として、この場所で腰を据えて仕事をしていく予定です」
しかし、と反論しようとしたアードを制し、リベラは続けた。
「防衛に関しては、外注しようかと考えているところです」
「外注だと? どこかの護衛隊でも雇うつもりか?」
アードが怪訝そうな顔で問い返すと、リベラは首をふった。
「ただ、単に誰かを雇うのではなく、むしろ我々が星間警備会社を運営するのはどうでしょう」
「星間警備会社か。⋯なるほどな」
リベラの提案にギルバートは面白そうに賛同した。
「攻撃する手段を我々が持てば、エイドスの人々はわれわれを脅威に感じる。ならば、我々が武装するのではなく、傭兵を雇ってアヴァロン商事が安心を売ればいい。しかし、事業が安定するまではどうする?」
「それは今まで通り、自爆装置付きの特攻船を影で使えば問題ないのでは?」
アードは感心したように笑った。
「たしかに。その手があったな。」
一同が納得する中。
会話の輪に入りそびれたカミーユが困ったような表情を浮かべていた。




