215.新星の鼓動
そこからの1週間で、状況は激変した。
ギルバートが惑星開発局へアヴァロン商事の拠点開設を申請すると、通常なら数ヶ月を要する手続きが、驚くべきことに即日承認された。
エイドスの宇宙空間で始まった建造は、異常な速度で進み、さらに1週間後にはステーションの中心核が地上からも視認できるほどに組み上がった。
この絶好のタイミングで、ギルバートはセレノグラフィアでアヴァロン商事の社長をつとめるミラをエイドスに呼び寄せ、大々的な記者会見を執り行うことにした。
会場のスクリーンには、最新のシミュレーション映像が流された。
出来上がった中心核を包み込むように、直径80キロメートルに及ぶ巨大な赤道円が広がり、同じく中心核から上下に40キロずつ軸が伸び、それを骨格として装甲が表面を覆っていく。
やがて映像の中で、完全な球体へと姿を変えた宇宙ステーションの姿がリアルに映し出された。
登壇したミラは、会場に集まった報道陣と、中継を見守るエイドスの市民へ向けて、穏やかで包容力のある声で語りかけた。
「この宇宙ステーションは、エイドスの皆さまと近隣の惑星を繋ぐ『未来への架け橋』です。私たちは、このプロジェクトを半年間で、完遂させることをお約束いたします。共に、新しい銀河の景色を作り上げましょう」
彼女の誠実で市民の心に寄り添う言葉は、巨大な建造物への畏怖を抱いていた人々に、静かな期待と深い好感を抱かせた。
1週間後には、夜空を見上げれば誰の目にもそれと分かるほどのスピードで、巨大な「新たな星」の建築が着々と進んでいった。
⋯
エマのニュースが流れたその日のうちに、グレイソンから連絡が入った。
「ミラーからだ。大統領が急遽予定を変更した。あいつら、さっそく点数稼ぎに動きやがったぞ。ミラのイメージを利用して、友好をアピールするための公式会談を開きたいそうだ」
会談の要請を聞いたミラは、少し苦笑した。
「私、自分がただの『張り子の虎』だってことは分かってます。でも、アヴァロンの顔として、しっかり役目を果たしてきますね」
そんな彼女を、ギルバートは真っ直ぐに見つめ、力強く首を振った。
「何を言っている。お前はセレノグラフィアでしっかりと実務をこなしてるじゃないか。コッチは副業程度に考えておけばいい。お前の仕事は、誰にでもできるものじゃない。これはお前の持つ才能だ。もっと自分に誇りを持て」
ギルバートの言葉に、ミラは頬を少し赤らめながらも、深く頷いた。
⋯
「佐々木様。バロウズさんから通信が入っております」
リベラはそう言って画面を立ち上げた。
画面に映し出されたバロウズは、いつになく背筋を伸ばし、極度に緊張した面持ちをしていた。
その背後には、先生の姿が見切れていた。
バロウズはチラリと背後を気にしてから、不自然なほど丁寧な口調で話し出した。
「佐々木さん、リベラさん。以前よりご依頼いただいておりました件について、ご報告させてください。⋯例のエマ⋯、エマさんの店で働いていた、受付の女性と男性職員の居所がようやく判明いたしました。詳しい情報は後ほどデータで送信しておきます。それでは、失礼いたします」
一礼し、通信を切った⋯つもりになったバロウズが、大きく肩の力を抜いた。
「ふー。緊張したぜ。先生、今のはどうでしたでしょうか?」
背後の先生が、満足げに小さく頷く。
「なかなか良かったです。言葉遣いも所作も、及第点と言えるでしょう」
「へへ、よかったです」
「⋯ですが、通信がまだ切れていませんね」
「えっ?」
バロウズが凍りついたように画面を覗き込み、こちらと目が合った瞬間、顔中から滝のような脂汗が吹き出した。
「ひ、ひえっ! し、失礼しましたあああ!」
慌てふためくバロウズの手によって、今度こそ通信は真っ暗になった。




