214.規格外の裏金
翌朝。
朝食の最中にグレイソンから連絡があった。
「今日の昼、指定のレストランに来い。本丸に会わせてやる」
通信はそれだけを伝えて一方的に切れた。
昼に指定されたレストランの入口に着くと、そこには既にグレイソンが待ち構えていた。
グレイソンは、佐々木たちを呼び寄せて小声で尋ねた。
「現金は持っているか?」
「それほどはないが⋯」
ギルバートが、無造作にポケットから20枚ほどの札束を取り出すとグレイソンはその札束を受け取った。
「コッチだ、付いてこい」
一行は、建物の脇の狭い路地へと導かれた。
たどり着いたのは、関係者以外立ち入り禁止と書かれた裏口の扉だった。
グレイソンがその扉を、2回叩く。
わずかな沈黙の後、扉が開き、中から屈強な体格の男が姿を現した。
男は無言でグレイソンを睨みつけたが、グレイソンは動じることなく、先ほどギルバートから受け取った紙幣から5枚を男の手に握らせた。
男は手元の紙幣を確認し、少しの間、思案するように佐々木たちを眺めた。
「⋯2人だ」
グレイソンは、交渉事に強そうなギルバートを指名した。
佐々木たちを残し、グレイソンとギルバートは店の中に消えた。
厨房を抜けた通路の先にある個室の扉を開くと、2人の男が神妙な顔で話し込んでいた。
グレイソンの顔を見た2人は、驚きを隠せなかった。
「貴様、なぜここに来た! だれか!」
片方の男が椅子から立ち上がり大声を出す。
その瞬間、2人のボディガードが部屋へやってきて、グレイソンとギルバートの肩を力任せに掴み上げた。
羽交い締めにされ、苦しそうに顔を歪ませながらも、グレイソンは必死に口を開いた。
「ま、待て! ここで話を聞かないと、この星は大損をするぞ⋯」
その様子を黙って見ていたもう一人の男、ミラーが静かに声を掛けた。
「ハリソン。コイツはこう見えて、エイドスのことは考えている。少しだけ話を聞いてみよう」
ミラーの冷静な進言に、激昂していたハリソンも少しだけ心が揺らいだようだ。
「⋯わかった。3分だ。それを過ぎれば、つまみ出せ!」
そう吐き捨てると、ボディガードたちは2人を乱暴に放し、腕時計のタイマーを3分にセットした。
「さすがに嗅覚だけは敏感だな、ミラー。お前のそういう所が、俺はキライだ!」
「ほら。貴重な時間をムダにするな」
グレイソンは隣に立つギルバートを紹介した。
「この男は、アヴァロン商事の大番頭のギルバートさんだ。アヴァロン商事は、この星を起点に周辺の惑星をつなぐ、超大型の物流倉庫を作りたいと考えている」
「ふん。そんなもの、勝手に作ればいいだろう!」
ハリソンは興味なさげに鼻を鳴らした。
ギルバートが前に出る。
「超大型と言ったろう。この惑星の上空に、全長80キロの宇宙ステーションを作る予定だ」
ハリソンは嘲るような目を向けた。
「ハッ。何をバカげたことを。そんなモノが作れるものか!」
ミラーは頬を3本の指でかきながら、静かに口を開いた。
「ああ。そんなものができるというのなら、勝手に作ればいい」
その目は一切笑っていなかった。
「わかった。そのうち表立って公表する」
「せいぜい夢物語で終わらないようにな」
ハリソンはそう吐き捨てると、ボディガードたちに顎で指示を出した。
レストランの入口で、二人はようやく解放された。待ち構えていた佐々木とリベラが、2人に駆け寄る。
「大丈夫でしたか?」
「ああ、たぶん何とかなりそうだ。⋯ところでグレイソン。さっきのハリソンとミラーだったか?あの2人は一体何者なんだ」
ギルバートが尋ねると、リベラが驚きを込めて問いかけた。
「⋯まさか、エイドスの大統領と、補佐官ですか?」
グレイソンはニヤリと笑い、満足げに頷いた。
「ああ、その通りだ。本当に『本丸』に繋いでやったろう?」
ギルバートは一瞬、呆気に取られたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「大統領と補佐官か⋯。なるほど、面白いことになってきたじゃないか」
グレイソンは、ギルバートの反応を見て薄笑いを浮かべると、右手の3本の指を立てた。
そして、さきほどミラーが見せた仕草を真似るように、その3本の指で自分の頬をゆっくりとかきながら言った。
「⋯で、大統領たち了承を得るには、3億クレジットが必要だ。これがこの星の『相場』だ」
「フン。舐められたもんだな。リベラ、ゼノメタルの延べ棒を3本用意してくれ」
「それだと、現在の相場で300億クレジット相当の価値になりますが」
「構わん。それくらい俺たちには金が唸っていると理解させた方がいいだろう」
「おい! これは裏金なんだぞ。そんな額を受け取っても使い道がない!」
グレイソンは立てた3本の指を頬から離し、青ざめた顔で抗議した。
「何を言ってる。受け取りを拒否するような小者なら、俺たちは別の星に行く。さっきの奴にもそう言っておけ。お前にも報酬として1本用意してやる。リベラ、頼んだぞ」
「かしこまりました」
リベラが即座に手配を進める中、ギルバートはふと思い出したようにグレイソンの胸ぐらを軽く掴み、もう片方の手を差し出した。
「それはそれとして、さっき渡した札束の残りを返せ」
「⋯はあ?」
「さっきの門番に5枚払っただけだろう。俺のポケットマネー、15万クレジットは残ってるだろ!」
「あんた、400億の延べ棒をポンと出す男が、たかだか15万をケチるのかよ!」
「当たり前だ。ありゃ俺の金なんだよ、返せ!」
300億を動かす豪胆さと、15万を惜しむチグハグな執念に、グレイソンは呆れ果てながら残りの札束を差し出した。
その日のうちに、延べ棒4本を積んだ小型運搬船がエイドスの港に到着した。




