210.となりで眠る繊細さん
「えーと。何で、こうなったんだっけ?」
佐々木はホテルのベッドで、ぼんやりと隣で眠る裸の女性を見つめていた。
メガネを外したその顔は鼻筋の通ったかなりの美人で、シーツから覗く肩は白く、その規則正しい寝息だけが静かな室内に響いていた。
…
リベラはホテルを出ていく際、サラに小声でお願いをしていた。
「佐々木様とカミーユさんを、2人っきりにしてください」
その意図を察したサラは、自分の解釈を付け加えた。
「たぶんですが、リベラさんはカミーユさんを佐々木さんのハーレムメンバーに引き入れようと考えているんだと思いますよ」
「そんなことお願いしてないよ」
佐々木は慌てて否定したが、サラは「まぁまぁ」と佐々木をたしなめる。
「じゃあ、私はそろそろ寝ようかなぁ」
サラが別室へ行こうとすると、カミーユは不安げに、とぼとぼとサラについていこうとした。だが、サラは足を止める。
「そうだ、カミーユさん。もう少し佐々木さんに、これまでどういった仕事をやってきたかを説明してあげてください。佐々木さんって、すごく聞き上手だから。話すと楽になりますよ」
サラの言葉に、佐々木も穏やかに微笑んで付け加えた。
「僕でよければ、何でも聞きますよ」
サラは有無を言わせず、2人を佐々木の部屋へ押し込むと、手際よくフロントへ電話をかけ、軽いツマミと酒を届けるよう依頼した。
「じゃあ私は寝るわね。アイリスさん、あとはよろしく」
「りょ!」
先ほどまでと違い、緊張の解けたアイリスは端末でゲームをしながら短い返事を返した。
2人が黙って向かい合っていると、ホテルの従業員が軽食とお酒を運んできてくれた。
「じゃあ、せっかくなんで飲みながらお話でもしましょうか⋯」
…それから2時間。
酒が入ったカミーユは、モウレツに語り出した。
この星を絶対的な力で統括していた、あの方のこと。
エマやバロウズ、そして自分もまた、その大きな傘の下で生かされていたのだと。
あの方が亡くなってからというもの、秩序は崩れ、敵対勢力による執拗な報復が始まった。
カミーユはあの方が大切にしていた仲間たちをひとりでも守ろうと、組織の維持に奔走してきた。
しかし、次第に暴走を始めるバロウズのやり口に、彼女は心底嫌気が差していた。
バロウズが自滅して捕まるまで、自分はあえて軽い罪で拘置所に身を置き、静かに嵐が過ぎるのを待つつもりだったのだ。
「大変でしたねぇ」
佐々木はカミーユの話を否定もせず、腰を折ることもなく、ただただ真摯にその苦労を聞き続けた。
佐々木の温かさに触れた結果、カミーユは子供のように泣き出してしまった。
佐々木は彼女を抱き寄せ、その頭を「よしよし」と優しくなでた。
そこで、カミーユのスイッチが入り、佐々木をベッドに押し倒した。
…
その時、隣で眠るカミーユが大きく身悶えした。
「ムリです! もうダメです! たすけてくださいぃぃ⋯!」
大声で寝言を叫ぶカミーユ。
夢の中でも、彼女はまだ終わりのない重責に追われているようだった。
「大丈夫ですよ」
佐々木は寝ているカミーユに優しく声をかけ、そっとその頭を撫でた。
カミーユのことも、みんなと同じように大事にしよう。佐々木は心の中で静かに誓った。




