205.逆転のコーヒータイム
リベラは倒れた男たちを一瞥もせず、戸惑う佐々木を優しく促し、中央のソファーに座らせた。
そして、デスクの上にある内線電話を静かに手に取った。
そして、バロウズの音声をマネて受付に伝えた。
「オレだ。すまんが、コーヒーを2つ頼む!」
受話器を置いたリベラは、1人立ち尽くすバロウズに向き直った。
「さて、バロウズさん。あなたは強硬な手段がお好きなようですが、それが効かない方もこの世界にはいらっしゃいます。この方は、そういった特別な方であるとご理解ください」
「…!」
バロウズは、先程までの威圧感を失い、困惑に震えていた。
「我々はあなたと敵対しようと思ってココへ来たのではありません。もし、敵対するのであれば、セレノグラフィアよりドレッドノートをココへ連れてきました」
ドレッドノート。
その名が出た途端、バロウズの巨躯がビクッと目に見えて震えた。
セレノグラフィアの裏社会を襲った激震。
そして新たな支配者による交代劇は、当然ここエイドスにも届いていた。
目の前の義体の女は、その怪物の名を出し、あまつさえ呼びすてたのだ。
「察するに、あなたは今、お金に関する事で困っていて、その突破口となり得そうなサラさんを拉致しようとしたのではないでしょうか?」
この女は自分たちの弱点をどうやらわかっているようだ。
「どうでしょう、あなたの困りごとをお話しいただけませんか? 我々ならその問題を解決できるかもしれません」
リベラは淡々と、しかし抗いがたい説得力を持って言葉を重ねた。
バロウズはリベラの顔を覗き込んだ。
敵対しようとした自分たちに対し、平然と手を差し伸べようとしているこの女の魂胆は何なのだろう。
それはわからなかったが、今の自分に拒否権などないことも同時に理解していた。
「…わかった」
バロウズは力なく佐々木の向かいのソファーに腰を下ろした。
⋯
さっきのあの電話は何だったのだろう?
受付の女性はバロウズからていねいに依頼されたことがなく、不思議に感じながらコーヒーを運んだ。
そして、扉を開けた女性は、眼の前の光景におどろいた。
屈強な男たちが全員床に倒れていたのだ。
逆に、客人がくつろいでいるという「逆の意味」の異常事態に、彼女の理解は追いつかなかった。
恐怖から落としそうになる盆を、リベラが受け止めた。
「後は私が。ありがとうございました」
リベラは短くそう言い、退出を促した。
彼女はただ従うことしかできなかった。
⋯
リベラはコーヒーをテーブルに並べ、佐々木にすすめた。
室内が少し落ち着き、最初に口を開いたのはバロウズだった。
「さっきのは一体、何をした?」
「時間は有限です。必要な話をまずしましょう」
リベラは彼の問いを軽くいなすと、本題を切り出した。
「あなた方が探しているのは、エマさんの店で管理していた多額の献金ではないですか?」
バロウズの瞳に、鋭い光が宿った。
「そうだ。もともとアレは、俺たちが管理していたものだ」
「それを、誰かが持ち逃げしたのですか?」
「しらばっくれるな! お前たちだろう?」
バロウズが声を荒らげる。
「なぜそう思うのですか?」
「サラを解放するため、俺たちの金を使ったからだ。あのタイミングでそんな大金を用意できるのは、金を盗んだ奴だけだ!」
リベラは小さく首を振った。
「あれは佐々木様のポケットマネーです。全くの別物ですよ」
「何だと?」
隣でコーヒーをすすっていた佐々木が、ふと冷静に尋ねた。
「ちなみに、なくなったのはいくらなんですか?」
「⋯10億クレジットだ!」
バロウズが苦々しく答える。
「えっ、10億? そんなものだったの?」
佐々木の回答にバロウズは絶句した。




