204.静かなる全滅
エレベーターが静かに停止し、重厚な扉が開いた。
そこは、黒い革張りのソファーが中央に置かれた、どこか血生臭い空気の漂う広大な執務室だった。
部屋の中には屈強な男たちが10人、侵入者である佐々木たちを射抜くような視線で迎えた。
佐々木は、リベラの細い背中に隠れるようにして、男たちの間を慎重に進んでいった。
「お初にお目にかかります。バロウズさん」
リベラが淡々と挨拶を述べる。
「…お前ら、何しに来た?」
地を這うような低い声。
この男こそがエイドスの裏を仕切る顔役、バロウズだった。
「それはこちらの質問ですね。どうして私たちの仲間を襲おうとしたのでしょうか?」
リベラの問いに、バロウズの眉が跳ね上がった。
「何だと? なぜそれを、お前が知っている?」
「捕まえた男たちを締め上げたところ、かんたんに教えてくれましたよ。ですので、私たちを捕まえて何をしようとしていたのか、直接お伺いしようかと思い参上いたしました」
バロウズは鼻で笑い、デスクに身を乗り出した。
「フン。お前らは、あのサラという医者を外に出すため、法外な値段を請求されたろう?」
「はい。50億クレジットですね」
リベラが事も無げに答える。
その額を聞いた瞬間、バロウズの顔に驚愕の色が走った。
「ごっ、50億だと……!? ウソをつけ!!」
「なぜウソだと思うのですか?」
「まあ、いい。お前らを締め上げれば分かる事だからな。おい」
そう言ってバロウズが佐々木の後ろに立っていた大男に指示をした。
大男がスッと動き出し、佐々木の肩に太い手をかけようとした。
「お待ちください」
リベラが制止の声をかけるが、大男は止まらない。
そのまま佐々木を組み伏せようとした、その時だった。
大男は糸が切れた人形のように、急にガクンと膝をつき、そのまま気を失って佐々木にもたれかかった。
「わわっ、ちょっと、誰か助けてください!」
佐々木は慌ててその巨体を支えながら、周囲に叫ぶ。
異変に気づいた近くの別の男が駆け寄り、倒れた仲間を確認した。
「…気を失っています」
報告を受けたバロウズの顔が険しくなる。
「ですので、お待ちくださいと言ったでしょう」
リベラの静かな警告が響く。
「おい、調子に乗るなよ!」
リベラの隣にいた男が、激昂して銃を引き抜いた。
だが、その男もまた、急に意識を失い、手元の銃は暴発し、弾が室内をあらぬ方向へ飛んだ。
佐々木を含めた、室内の男たちは軽く悲鳴を上げ、体を強張らせた。
気を失った男は誰も支えに入らなかったため、鈍い音を立てて頭から床に突っ込んだ。
「ぜっ、全員、銃は使うな!」
バロウズが室内の男たちに指示をだした。
目に見えぬ攻撃に、室内の男たちはパニックに陥っていた。
「そうですね。それが懸命でしょう。少しお話をしませんか?」
リベラが優雅に促すが、バロウズはまだ屈する気にはなっていないようで、周囲の部下たちに目配せを送る。
リベラは小さくため息をついた。
「仕方ありませんね」
次の瞬間、佐々木たちを取り囲んでいた男たちが、示し合わせたかのように一斉にその場に倒れ伏した。
「お話をする気になりましたか?」
リベラの提案を1人残ったバロウズは受けるしかなかった。




