201.利己的な真実
中央拘置所の重厚なゲートが開き、よれよれになったスーツを整えながらグレイソンが姿を現した。
佐々木とリベラは、出口のすぐ近くで彼を待っていた。
「さて、どこで話をしようか? 」
グレイソンは自由の身になった開放感から、ゴキゲンな様子だった。
「手間は取らせません。そこの喫茶店で十分です」
リベラが淡々と指し示したのは、拘置所の向かいにある、飾り気のないチェーン店だった。
店内の隅にあるボックス席に腰を下ろすと、リベラは端末からサラの顔写真を投影した。
「あなたは本当にこの女性から手術を受けたのでしょうか?」
グレイソンは投影されたサラの顔をじろじろと眺めた後、鼻で笑った。
「私は医者のことなど知らん。ただその時間手術を受けたと伝えただけだ。言っておくが、今の法律はいびつでな。手術を受ける側は罪には問われない。つまりはその件で私がウソをつくメリットはない」
リベラは、さらに質問を重ねた。
「では、手術に至るまでの話を教えてもらえますか?あなたはエマさんの研究施設のパトロンのひとりだったのですよね?」
「ああ、最近亡くなったあの方の側の人間はみなそうだった」
「もしかして、あの施設はマネーロンダリングに使われていたのですか?」
リベラの問いに、グレイソンは、鼻で笑い視線を逸らした。
「さぁ、どうだろうな。誰がどこで聞いているか分からん場所で、軽々しく口にすることじゃない」
グレイソンはテーブルの上のコーヒーを一口啜り、語り始めた。
「アンタ達には貸しができた。私に不利にならない範囲ならなんでも質問には誠実に答えよう」
「では、手術について教えてください」
「もともと、エマという研究者から、法的な問題で今後は手術は受けれないと告げられていたんだ。近々、培養中の組織も廃棄するし、必要であれば金も返すとまで言われた」
グレイソンが語るエマは佐々木達がはじめて会ったエマと一致している。
「しかし、その連絡のすぐ後に私の体に不調が見つかり、助かるには義体化するか、適合する組織を移植するしかないと医師に宣告された。私はどうしても、生身の体を捨てたくなかった」
グレイソンは苦い記憶を反芻するように眉間に皺を寄せた。
「ワラにもすがる思いでエマに連絡を取ったが、やはり法に触れることは出来ないと断られた。ところがその後、施設の方から連絡が来たんだ。『危険手当を払うなら、対応可能だ』とな」
「エマさんからですか?」
「いや、アレは受付の女だったと思う」
佐々木とリベラは顔を見合わせた。
佐々木たちは、ひとまず現時点で聞き出せる重要事項はすべて得たと判断した。
「また、何か他にも思い出したら、追って連絡させてもらうよ。その時はアンタたちの『誠意』に期待させてもらうよ」
グレイソンはそう言い残し、喫茶店を出ていった。
後ろ盾を失った元議員が、佐々木たちを『再起の踏み台』にしようとする計算が透けて見えていた。
「どうやら、その受付の女性に話を聞くのが早そうですね」
リベラの投げかけに、佐々木がうなずいたその瞬間、リベラの動きが止まった。
「佐々木様、緊急事態です。ホテルのアイリスさんから連絡です。現在、侵入者と交戦中のようです」
「何だって!?」
静かだった喫茶店の中で、佐々木の声が鋭く響いた。




