200.堕ちた公僕
佐々木たちは中央拘置所からホテルへ戻った。
「佐々木様。サラさんはお休みになりました」
シャワーを浴びたサラに、リベラはあらかじめ用意していた薬を服用させた。
極限の緊張状態にあったサラは、吸い込まれるように深い眠りについた。
「ありがとう、リベラ。サラさんにはそのまま休んでいてもらおう」
ホテルのリビング、リベラが虚空をなぞると、空間にいくつものホログラムウィンドウが展開された。
リベラが宇宙港の管理システム、司法省のデータベース、そして警察署の内部サーバーから強引に引き抜いたさまざまな情報が表示されている。
「現在、このエイドスにおいて、サラさんとエマさんは重要指名手配の対象となっています。容疑は、法改正後の移植手術への関与です」
リベラは次々とデータをスライドさせていく。
「身に覚えのない手術がなぜ記録されているのか。考えられるのは2つです。手術を受けた患者が虚偽の証言をしたか、あるいは実際に執刀した医師が、自分の罪を2人になすりつけたか、です」
「警察が逮捕に踏み切った、具体的な証拠はどっちだったんだろう?」
佐々木の問いに、リベラはある男の取調記録を表示した。
「きっかけは、先の選挙で落選した元市議会議員、グレイソンの供述でした。彼は収賄疑惑で取り調べを受けていた際、アリバイを主張するために、その時間は極秘で、手術を受けていたと自白したのです。」
「そのグレイソンという男に会えば、何か分かるかもしれないね」
「同感です。幸い、彼は証拠隠滅の恐れがあるとして、現在も中央拘置所に留置されています。面会を申請しましょう」
⋯
佐々木とリベラは、冷たい空気が停滞する中央拘置所の面会室にいた。
強化ガラスの向こう側に現れたのは、かつての威光はどこへやら、高級スーツをよれよれにした初老の男だった。
グレイソン元議員は、充血した目で二人を睨みつける。
「どこの馬の骨だ。私は弁護士以外とは話さんと言っただろう」
「あなたが受けたという移植手術について、教えていただきたいのですが」
佐々木が静かに切り出すと、グレイソンは自嘲気味に鼻で笑った。
「フン、そんな事をして、私に何の得がある。さっさと帰れ」
「見返りならご用意できると思いますよ」
リベラは事務的なトーンで告げた。
「あなたがココを出るための保釈金をこちらで負担します」
グレイソンの目が、飢えた獣のように細められた。
「⋯金か。いいだろう。だが、私を外に出して、そのまま逃げ出してもいいのか?金は帰ってこなくなるぞ」
リベラは感情の排された瞳で、グレイソンを真っ直ぐに見据えた。
「ご自由に。我々が関心があるのはあなたでもお金でもありません」
「⋯いいだろう、その提案を受け入れよう。ま ずは私をココから出してくれ」




