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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
名を捨てた星
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過去への旅立ち


 「母は私が生まれた時、すでに死んでいた。

 母はお腹の中にいた私と一緒に死のうとしていたようだが、私は生き残った。

 私が生まれた時、私は首を吊った母の身体から(あふ)れ出た汚物に(まみ)れた(きたな)らしい姿だったそうだ」



 「母は机の中に手紙を(のこ)していた。 お腹の中にいた私に対する謝罪――そして、私の名前がその手紙に書き記されていたそうだ。


 『“呪われた子”なんてこの世には居ない』


 手紙にもそんな言葉が書いてあったそうだが、私はその言葉をお腹の中で聞いた気がした」



 「母は水道業者を装った男達に自宅でレイプされた。

 そして、私を身籠もったのだが、母さんは私を堕ろさなかった。


 『生まれてくる子に罪は無い』


 母はそう言って父を説得しようとしたが、当然父は母の願いを受け入れず、それから母は父に暴力を振るわれるようになったそうだ」



 「母は父の暴力に耐えかねて、お腹の私と一緒に死のうとした。 ところが、私だけが生き残った。

 ――これが地獄の始まりだった――」



 「……“呪われた子”。 私は生まれた時から父にそう呼ばれていた。

 物心ついたときから、周りは常に青白い景色だった。


 陰気くさい暗く、青く、寒い家……。


 食事は一日に一度だけ。 姉が残した残飯を新聞紙の上にバラ撒かれ、私は犬のようにその残飯を食べて生き延びてきた」



 「……何度も死のうと思っていた。 誰も私の助けを呼ぶ声など聞いてはくれなかった」



 「学校へは通わされていた。 痣だらけの身体で……。

 でも、先生は何も言わなかった。 近所のオバさんも……何も……。

 ……ただ、一言だけ私の背中に向って言葉を投げた。


 『――醜い子――』


 家へ帰っても、学校にいても結局は同じ……。

 私に近寄る者など居やしない。 近寄ってくる者は私に暴力を振るった。

 冷たい拳で打ち付けられると、身体が熱くなった」

 


 「姉は赤くなった鉄の棒で私を殴った。 何度も、何度も……。


 『“呪われた子”は罪深い』


 そう言って姉が私を殴っている後ろでは、父が私を見つめていた。

 満面の笑みで……」



 「薄暗い部屋の中、窓から見える星の輝きと、穏やかな月の明りは綺麗だった。


 『貴方の隣で輝く星のように美しくなりたい……』


 雪の降る寒い夜、家から放り出された時に月に願うと、少しだけ身体が温かくなるように感じた」



 「私は月に祈った。


 『愛されますように……』


 そう願ったけど、月はいつものように穏やかな微笑(ほほえ)みのような光を浮かべているだけだった」


 「痛み……身体の痛みと心の痛みで燃えるように身体が熱かった。

 月は教えてくれた。

 その熱さが『憎しみ』だという事を……。

 人を憎めば寒い冬に耐えられるのかもしれない。 私は人を憎むのも良いかもしれないと思うようになった」



 「私は月に祈った。


 『私を嫌う人達が全員死にますように……』


 そう願った時、月はまるで太陽のように輝いた気がした」



 「……憎い……何もかもが憎い……。

 私を産んだ母……。 私を嫌う父と姉。 私を(いじ)める生徒達。 私を無視する近所のヤツ等。


 ……そして……“呪われた子”が憎い」



 「私は月に祈った。


 『……私の事、忘れないで……』


 月は何も答えなかった。

 ただ、眩いばかりの光りを私の顔に照らしているだけだった」



 「忘れないで……私の事……」



 ――



 中学生になったステラはSNSを始めた。 スマホは知らない中年親父から(もら)った。

 ステラが股を開けばすぐにスマホを買ってくれた。 彼女は知らない男にヴァージンを捧げたのだが、それは彼女にとって『どうでも良い事』であった。


 「お前はブサイクだが良い体をしている」


 オヤジにそう褒められ、()()()()()()事が嬉しくて仕方なかった。


 味をしめたステラはオヤジ達を相手に援助交際を始めた。 スマホの通信費を稼ぐ為に。 オヤジ達の好みを研究し、化粧も覚えた。

 初めての整形手術は細い目を大きくしただけだった。 マスクを付けて街に出ると、初めて男にナンパされた。 ステラは喜びのあまり、ナンパ男と一夜を共にした。


 自撮りの技も覚え、SNSのアカウントは徐々にフォロワーが増え始めた。 時々、ステラの成功を妬んだ同級生が、過去のステラの顔を晒して「ブス」だの「整形」だのと誹謗中傷した。

 初めはその度に塞ぎ込み、邪魔するヤツ等を憎んでいた。 しかし、整形を繰り返し、自分の顔が美しく生まれ変わって行くにつれ、彼等の声は聞えなくなった。

 

 自分が投稿したコメントが初めて“バズ”ったのは、人の容姿を罵倒した時であった。

 明らかに整形しているにもかかわらず「整形なんてしていない」と言い張る女を罵倒し、“論破”した。 ステラのコメントには賞賛の声が相次ぎ、ステラのアカウントは目を疑うほどのフォロワーが付いた。

 それから一週間後、ステラが罵倒した女は“IG”のアカウントを削除し、自殺を遂げた。


 『人を罵倒し、人を侮辱する事で金稼ぎが出来る』


 ステラはその忌まわしい事実に気が付くと、過激な発言を次々と投稿するようになった。

 しかし、所詮はまだ中学生であった。 フォロワーは増えたものの、過激な発言をし過ぎた為に多くの敵を作った事に気付かなかった。

 ステラのアカウントは頻繁に荒らされるようになった。 アカウントは何者かにハッキングされ、彼女は“IG”のアカウントを閉鎖せざるを得なくなった。


 「クソッ……クソッ……憎い……アイツ等が……」


 散々他人を誹謗中傷した報いである事を棚に上げ、ステラは“アンチ達”を憎んだ。 殺してやりたい程であったが、彼等の素性など中学生のステラには調べようもなかった。

 新たにアカウントを開設し、ハンドルネームを変えてもすぐにステラである事がバレてしまい、再びアカウントが荒らされた。


 高校生になったステラは“IG”や“ミーチューブ”からしばらく身を引いた。 他の動画配信サイトで男達を(だま)し、生計を立てた。

 結婚をチラつかせては男達から金を(むし)り取る典型的な“結婚詐欺”――整形を繰り返し、見違えるほど美しくなったステラに籠絡(ろうらく)された男達は次々と金を搾り取られた。 男を(だま)すための『マニュアル本』まで執筆し、詐欺師界隈では人気を博した。


 こうして、ステラは阿漕(あこぎ)な商売と悪辣(あくらつ)な詐欺により莫大な金を手に入れ、ついに()まわしい家を出る事にした。

 とはいえ、そもそも中学三年の時から殆ど家に戻って来なかったので、今更家を出る理由は無い。 それでも彼女が決心した理由――それは『黄瀬(おうせ)家』との決別の(あかし)であった。


 「――父と姉に必ず復讐をしてやる――!」


 耐え難い虐待による悲しみ、嘆き、怒り――心に渦巻く全ての“負の感情”が漆黒の炎になって、“憎悪”という感情に墜ちたのである――。


 家を出る前、ステラは(てのひら)をナイフで傷つけた。 父と姉に“血の決別”を宣言する為に。


 (あの魔術書が本当にあれば良いのに……)


 ステラはその時、整形手術の為に訪れた外国で聞いた魔術書の話を思い出した。


 『――復讐を望む者に力を貸す――』

 

 したたる血のインクで呪いの言葉を書き連ね、リビングのテーブルに手紙を置いたステラ。 もし、そんな魔術書が実在すれば『魂を売ってでも手に入れる』と願いながら、青白く霞んだ“絶望の家”から飛び出して行った。



 ――



 一人暮らしを始めてから間もなく、ステラは男達から命を狙われるようになった。

 「貴方との結婚資金の為」 「家を出て、貴方と一緒に住む為」 「難病の治療の為」 「父と姉が死んだから」――あらゆるウソで男達を騙して金を奪ったステラ。 男達は吸血鬼に人生の全てを搾り取られた。 一文無しになり、借金取りに追われ、妻と離婚し、家庭は崩壊した。

 ステラは男達の怒りをまるでマタドールのように華麗に躱し続けていたが、さすがに度が過ぎたようだ。 男達の怒りがついに峻烈(しゅんれつ)な憎悪へと変わったのである。

 

 男達の憎悪に晒されたステラは“鬼”への階段を一歩上がった。 孤独な彼女がこのまま生活を続けていればいずれ“鬼”となっていたはずだ。

 ……しかし、彼女は“鬼”にならなかった。


 その理由は、ステラがある年下の男性に恋をしたからであった。


 男性との出会いは街でライブ配信をしている最中であった。

 お気に入りのスイーツを紹介する為にライブを実施し、カメラを回しながら店に向っていたステラ。 当然、配信者はステラが現在何処にいるのか手に取るように分かった。

 

 ……ステラはタカを括っていた。

 

 (私を殺そうとするバカ共は“出禁”にした。 ヤツ等がライブを見る事は出来ないはず)

 

 だが、ステラは迂闊(うかつ)であった。

 

 ステラに復讐しようとする男達はあらゆる手段を使い、彼女のライブ配信を見ていたのである。 ステラが『普通の女の子』であれば、そんなリスクなどすぐに思い至るはずだろう。

 しかし、彼女は男達を舐めていた。 男達を馬鹿にし、コケにしていた。


 「あんな間抜けなキモ親父達に殺られるわけ無ぇだろ♪」


 そんな詐欺師の慢心がステラの警戒心を曇らせたのである――。


 ステラはライブ配信中に男達に囲まれた。

 ナイフ、金属バット、スタンガン、ナタ……拳銃以外のあらゆる武器を握りしめた中年親父達は怨念の滾らせた悪意の目をステラに向けた。 憎しみに全身を震わせ彼女の命を奪おうと怒声を上げた。


 「ちょ……ちょっと、タンマ! 待って、話せば分かるから――!!」


 憎悪の炎に囲まれたステラは狼狽し、男達に命乞いを始めた。

 ライブの視聴者達は異常事態に気付き、大騒ぎしている。


 『警察を呼べ!』 『助けてあげて!』


 『演出だろ? 藁』 『ぶっ殺せ、ぶっ殺せ♪』


 お茶の間で煎餅を食べながら緊迫した動画に色めき立つ視聴者達。 彼等にとっては究極のエンターテイメントだ。 もし、ステラが動画配信中に惨殺されれば、事件の目撃者として自分のブログが“バズる”ことは間違いない。

 視聴者達は期待に胸を膨らまし、男達の凶行を見守っていた。


 ……ところが、視聴者達の期待通りにはいかなかった。


 ステラは男達に襲われた拍子にカメラを落としてしまった。 視聴者が怒号飛び交うアスファルトの画像しか確認出来ない間、なんとステラは通りかかった男子高校生によって助けられたのである。

 その高校生は瞬く間に男達を叩きのめし、ステラを救った。 折角、話の“ネタ”が増えるとワクワクしていたのに、視聴者達は肝心な場面を見逃してしまったのである。

 人の不幸を(さかな)にして酒を飲むヤツ等にとって、それは溜息(ためいき)が漏れるほど残念な結果であった。


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