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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
名を捨てた星
224/243

親友


 真裕(まひろ)のバッグに入っているスマホから、着信音が聞えてくる。 恐らく母親が心配をして電話を掛けてきているのだろう。

 希海(のぞみ)と真裕はまだタワーマンションの駐車場で話をしていた。 希海は真裕から(しぼ)り出される言葉を聞き逃すまいと集中しており、真裕の電話が鳴っている事を気に留めていない。 真裕もまた希海に“本当の気持ち”を伝えようと緊張していたので、母親からの着信に気付いていなかった。

 真裕は下を向いたまま『ポツ、ポツ』と希海への想いを素直に語っていた。


 「……希海さんが“堀翔”に推薦入学したと聞いて、正直ビックリした。 本当は希海さんに来て欲しくないと思っていたのに、希海さんから電話が掛ってきた時に本音を隠して喜んだフリをした」


 堀翔女子高へ裏口入学してまで入った真裕。 希海が推薦入試でアッサリと“堀翔(ほりとび)の門”を(くぐ)る事に対して、不満を抱いていたようだ。

 しかも、堀翔女子高への入学が内定した時期は希海がアメリカへ行く前である。 二次面接、三次面接もやらずに一発で……。 希海の合格に真裕が理不尽さを感じてしまうことは無理からぬ事であった。


 「――『堀翔女子高開校以来の逸材』――そんな希海さんがA組になる事なんてバカでも分かる。 ……顔だけじゃない。 私なんかより声も可愛いし、踊りも上手い。 

 

 ……けど、私は私なりにC組からA組に編入しようと頑張っていたの。 頑張って……それなのに、アッサリとA組に入った希海さん。

 うぅ……自分でも“さもしい”と分かっていた。 希海さんは何も悪くないと分かっていたのに……私は希海さんに……希海さんに嫉妬してしまった……うっ……うぅ……」


 真裕は悔しくて堪らなかったのだろう……。 『ポロ、ポロ』と涙をこぼし、言葉に詰まって嗚咽(おえつ)を漏らした。

 もちろん、希海は真裕にA組になった事を自慢した事もなければ、優越感に浸っていた訳でもない。 真裕が希海に嫉妬する事は筋違いである。 そんな事は真裕も分かっていた。

 ……分かっていたからこそ、真裕はステラに影響を受けてしまったのである。



 ――



 「マヒロ、女の子はエッチで可愛くないと“バズ”らないよ♪ ステラに任せて!

 絶対、貴方を“キラキラ”にさせてあげるからっ☆」


 “いいね”が増えずに落ち込む真裕をステラが励まし、地味な真裕に“魔改造”を施した。

 真裕の眼鏡を取り払い、黒い髪を茶色く染め上げた。 そして“ウィッグ”を買ってあげて華やかな髪型へと仕上げ――アイシャドウ、マスカラ、アイラインとホステス嬢顔負けの化粧術を伝授した。 さらには下着が見えるイヤらしい服装を彼女に提案した。

 

 「マヒロ、可愛い♡ “キラキラ”してる☆ もっと自分に自信を持って輝いて!」


 まるで“淫乱なシンデレラ”のように見違えた真裕の姿。 C組のクラスメイト達も真裕の変貌(へんぼう)唖然(あぜん)として口を開くしかなかった。

 真裕が下着姿で動画配信をしたり、猫なで声で卑猥(ひわい)な発言をしたりする度に“スタチ”のスコアは目を疑うほど上昇した。 真裕は半年の間で目標であった100万人のフォロワーを達成し、“真珠”という名誉ある称号も手に入れた。

 

 「私は希海さんなんかいなくても、これだけ人気があるんだ!」


 真裕の変貌は全クラスで話題になっていた。 二年になればC組からB組に編入されるとウワサされていた。 三年になればA組になれるだろう。

 真裕は有頂天になった。 散々自分をバカにしていたC組のクラスメイト達が真裕に畏怖(いふ)の目を向けるようになった。 それが真裕にとって何よりも嬉しく、誇らしかった。


 「それもこれもみんなステラさんのお陰ね♪ もう、()()にも負けないわ!」


 ……ところが3月のクラス替えの発表を迎えた時、真裕は失意のどん底に落ちた。


 真裕はB組になれなかったのである。


 『扇情的な服装や、(みだ)らな言動で人気を得ようとする生徒は評価に値しない』


 “ミー・チューブ”と言った動画投稿サイト、“IG”と言ったSNSが流行する中、堀翔女子高の生徒達も『楽してファンを獲得しよう』と風紀を乱す行動が激増した。

 由々しき事態を重く見た学校は、売春まがいの性的な挑発を行なってファンの獲得を画策した生徒達を排除する決定をした。

 真裕は学校から“不良生徒”のレッテルを貼られ、B組どころかD組に降格する寸前であった。

 

 真裕はステラに泣きついた。 すると、ステラは“IG”上で真裕を擁護する意見を展開し、堀翔女子高を非難した。 ステラのせいで学校にはクレームが殺到し、学校はやむを得ず真裕の処分を取り消したのであった。

 こうして真裕は辛うじてD組への降格を免れてC組に居続けることが出来たが、もはやB組はおろか、A組に上がる事など絶望的であった。

 

 真裕は悲嘆に暮れた。 ()()()()()()()A組として入学を果たした希海を横目に歯ぎしりをした。

 ステラは親友に嫉妬(しっと)する真裕の悲愴な姿に心を痛めた。 そこで、彼女は逆に希海を利用する事で真裕の評価を復活させようと考えた。


 ステラは真裕に『希海に会いたいからライブを企画して欲しい』と提案した。

 ステラは真裕の為に嘘をついた。 ステラは別に希海に会いたい訳ではなかった。 『希海を真裕のライブに参加させる事により、真裕のマイナスイメージを払拭させよう』と目論んでいたのである。

 (希海と会ったときにステラ自身が恐るべき衝撃を受けるとは、その時のステラには知る由もなかった)


 ステラの配慮など露ほども知らない真裕は、ステラの提案に気を重くした。 希海に対する嫉妬が(くすぶ)る真裕はなるべく希海には会いたくなかった。 しかし、尊敬するステラからそう提案されれば、無碍(むげ)に断る訳にはいかなかった。


 真裕は仕方無くステラの言う通りにした。 久しぶりに希海へ連絡をして、彼女にライブ出演を頼み込んだ。

 そしてステラの提案通り、希海とステラを引き合わせる事で注目をさらい、スタチの激増とフォロワー数の獲得を企んだのである。



 ――



 希海は真裕の告白を聞きながら深く後悔し、反省していた。


 (……私は確かに図に乗っていた。

 私に言い寄っていた大輔が(あかり)と付き合うことになって、大輔に対する後ろめたい思いが無くなった。 大好きな(ほむら)さんとも結ばれ、燈のお陰で大輔も幸せになった。

 毎日が楽しくって、真裕とも連絡を取らなくなった)


 (伊奈様に受験の相談をすれば、伊奈様はすぐ学校を紹介してくれた。 私の二人目のお母さん……。 私のワガママをいつも聞いてくれ、私は当然のように伊奈様に甘えていた)


 (……真裕が“堀翔”に入学していた事は知っていた。 でも、私は真裕に合格した事を報告していなかった。

 焔さんとアメリカへ行く事で頭が一杯だったから)


 (……もし、私が面接する前にもっと早く真裕に伝えていれば……アメリカへ行く前に真裕と会って話しをしていれば……もしかしたら……)


 (……真裕に嫌われずに済んだのかも知れない……)

 

 そう思うと、悔しくて涙が溢れて来た。 


 「ウッ……ウッ……真裕……ゴメンね。 私、真裕の気持ちも知らないで自分勝手なことばかり……」


 希海は真裕が望むなら、C組に編入しても良いと思った。 彼女にとってA組だろうがC組だろうがどうでも良い。

 希海が自分の思いを口に出そうとした時、真裕は希海の肩にそっと頭を乗せた。


 「良かった……。 思い切って自分の思いをぶつけたお陰で、私はまた希海さんを好きになれる」


 真裕はずっと自分の気持ちを希海に伝えたかった。 全てが自分よりも優れている希海に嫉妬していた事を。

 そして、その思いを吐露して希海に嫌われたかった。 そうすれば、自分は本当に希海の事をキライになれる。


 そう思ったのだが、希海の身体は真裕が”あの時”に感じた(ぬく)もりのままだった。


 「希海さん、私はずっと覚えている。 お父さんを恨んでいた人を探した後、あの(けわ)しい山道を下っている間、ずっと私を背負ってくれていた温かい貴方の背中を――」


 希海の身体はあの時の温もりのままであった。 希海に対して嫉妬など考えもしなかったあの時のまま……。

 自分が友達に嫉妬しようが、友達を嫌おうが、その友達は変わらず自分の事を愛してくれていたのだ。 そのかけがえの無い事実に真裕は気付いたのである。


 「……希海さん、(ひど)い事言ってゴメンね。 私が貴方に嫉妬していたことは事実なの。

 

 でも、今は違う――。


 希海さんはこんな私の“さもしい”心を受け止めてくれた。 こんなイヤな奴に涙を流してくれた」

 


 「――私はそんな希海さんが大好き――」


 

 真裕の瞳から涙が溢れて来た。 悲しみの涙では無い。 それは安堵の涙。 変わってしまった自分を再び受け止めてくれた親友に対する感謝の涙であった。

 

 希海は真裕の顔を見つめながら言葉に詰まり、唇を震わせていた。


 『――愛する恋人、頼もしい仲間、愛しい養母(はは)――』


 幸福の光に包まれていた希海は自分が放つ光に気付いていなかった。 闇の中で必死に手を伸ばし、助けを求める声が聞えていなかった。


(……今、私には聞えた。 心の闇と必死に戦っていた救いを求める人々の声を……)


 希海の心の中で何かが変わった瞬間であった。 ――いや『何かを思い出した』瞬間であったのかも知れない。

 

 希海の瞳は美しかった。 真裕は何度その瞳に嫉妬したことか。 銀色のカラーコンタクトを付けて希海のような瞳なろうと憧れた事もあった。

 

 ……しかし、今は違う。

 

 希海の美しい瞳を彼女と初めて会った時のように『ただ、美しい』と思える事が出来た。


 「希海さん……もう一度、私の友達になってくれるかな?」


 涙に濡れた真裕の目に笑顔が浮かぶ――。


 その瞬間、希海は真裕を抱きしめた。 彼女の頭を優しく胸に包み込むように抱くと、嗚咽の混じった美しい声で真裕に応えた。


 「うん、ずっと……ずっと友達だよ」


 (……もう、見失わない……)


 ――自分が放つ光は暗い影を照らす為にある――


 希海がそう気付いた時、彼女の運命は宿命のレールに乗り始めた。


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