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イケメン高校生の中に、おばさんが転生しました。  作者: 毬藻 闇雪


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第七話 もう一人の美少女



「ちょっと、七瀬!」

 またしても、教室の出入り口の辺りから声がした。

 少しハスキーな、大人っぽい声。


 振り向くと、茶髪にゆるいウェーブをかけた女の子が立っていた。

 メイクはかなり濃いめ。

鼻筋は白く浮き、目の輪郭よりも大きめなアイラインと、強調された涙袋。


(……いわゆる、整形級メイクってやつかしら?)


 その女の子は、こちらを睨みながら、ずかずかと近づいてくる。

 美依紗ちゃんは慌てて立ち上がり、教卓の方まで逃げて行った。その姿をチラリとも見ず、こちらに向かって、


「お前、他人(ひと)の男に、気安く話しかけてんじゃねーよ!!」


……と、怒鳴った。その声は静かだった教室に響き渡り、私と美依紗ちゃんは、同時に肩をビクッと震わせた。


(び、ビックリした! え、この子……ヤンキーなの?)


 と言うか……他人の男?

その言葉に、私は固まった。


(ってことは……この子が、ひらりくんの本命の彼女!?)


――まずい。


 私は今、ひらりくんの彼女の前で、別の女の子と仲良くおしゃべりしていたのね!?

 完全にやらかしてしまったパターン!

 美依紗ちゃんに綺麗だなんだと褒めまくった挙げ句、名前まで呼んでしまった。


(ひらりくん、ごめんなさい!)

 心の中で謝っている間にも、茶髪の女の子はどんどん近づいてくる。

 そして私の横まで来ると――。


「ひらり」

「……はい?」

「また、よそ見してる……」

 そう言って、私の右袖をきゅっと引っ張る。

(……え、かわいい)

 それから両手をグッと胸元で握り締め、涙目のような表情で、

「……もう。怖かった!」

と、呟いた。


ぷっ。

「……吉本新喜劇か!」


ハッ!!


 思わず突っ込んだ後、私は口を押さえたが、すでに後の祭りだった。女の子は、二人とも固まっている。

(ごめん! ごめんね、ひらりくん! またあなたのイメージを壊してしまったわ!)

 脳内はシンと静まり返り、ひらりくんの気配を感じなくなった。


(ひらりくん、早く起きてよ! わたし今、大ピンチなんだけど!)

 何度も脳内で叫ぶが、ひらりくんは反応してくれない。

「……は? 吉本、何?」

茶髪のヤンキーちゃんが、目をぱちくりさせている。

(ひとまずよかった! 意味は分からなかったみたい!)


「何でもないよ!」

 私はなるべくカッコいい声色で、ひらりくんになりきって返事をした。

 ヤンキーちゃんは首を傾げて、不思議そうに、こちらを見ていたので、誤魔化すつもりで頭の天辺に手のひらを乗せ、やさしくクシュクシュ撫でてみた。

(ひらりくんはあの事故の日、つい癖で、と私の頭を撫でてくれたわ。きっと彼女にもこんな風にやっているはずよね……?)

 頭を撫でながらその表情を伺うと、うっとりとした表情で見上げてくる。


(あら?)

 何か変だっただろうか。

その顔を見ながら、ふと思う。

(この子、化粧が濃いけど……)

 よく見ると、元の顔立ちはものすごく綺麗なんじゃないかしら?

 鼻筋も通っているし、目も大きい。

ちゃんと見れば、かなりの美人だ。

(ひらりくん……あなた、すごい子たちと仲良くしてるのね。類は友を呼ぶとは言うけれど、ひらりくんの周辺はやけに美形揃いね……)

 そんなことをぼんやり考えていると――

 

「七瀬としゃべっちゃイヤだ……」

声のトーンをまるっきり変えて、甘く囁くように語りかけてきた。さっきの威勢はどこへやら。

 目を伏せ、少しだけ唇を尖らせている。

(何これ!? ……仕草まで、かわいいわ! ……いわゆる、ツンデレというヤツね?)

 普段は強気なのに、二人きりになると甘えてくるタイプ。

(まさか、現実で拝める日が来るなんてね……!)

 両手を組んで拝みたくなったので、取りあえず両手だけ口元で組んでみた。

 ニ次元の世界だけじゃなかったのね。

若いって素敵! 尊いわ!!


「……ごめんね」

 私はヤンキーちゃんに謝った。

 すると、彼女は少しだけ目を丸くした。

「……え? ひらり……?」

 女の子が、じっと私の顔を見つめていた。

「な……なに?」


 今、一つだけ言えることがある。

この感じ……どうやら、また対応を間違えたらしい。

フッ

と声を出して笑ってしまった。


「なんか……今日のひらり、変」

 ドキッとした。

(……え?)

 私は笑って誤魔化す。

「そ、そうかな?」

「うん」

 彼女は首を傾げた。

「なんていうか……」

 しばらく私の顔を見つめている。

「いつもと違う」

(…………)


 背中に、じわりと汗が滲んだ。

 まさか――。

 バレた?

いや、そんなはずはない。

(変って……何が?)

ゴクッと喉が鳴った。


「……でも」

 彼女の表情が、ふっと緩む。

「今日のひらり……なんかいいかも。可愛い♡」

「…………」

 私は言葉を失った。

可愛い? この私が?

 いや、違う。これは私じゃない。

ひらりくんか。


 なのに――。


(……なんだろう)

 胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。

頭の中は、相変わらず静まり返っている。

(ひらりくん……?)

 呼びかけても、返事はない。

私は笑顔を作ったまま、もう一度だけ心の中で呼んだ。

(ねえ、ひらりくん!)

『…………』

 やっぱり返事はなかった。


「……変ね」

 思わず言葉を口にしてしまった。

「え?」

 ヤンキーちゃんは、じっとこちらを見上げている。

 教卓のところからは、美依紗ちゃんも、こちらをじっと見ていた。


「……今日のひらり……ううん、何でもない」

 ヤンキーちゃんは、そう言って笑った――


だが、その笑顔が、なぜか少しだけ不気味に見えた。

 ひらりくんは依然として、眠っているようだった。



ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます!

通りすがりの方でも、本当にうれしいです。

またあなたが読みたくなるような展開を考えて待ってます!


闇雪

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