第ニ話 目覚めたら、17歳イケメンの脳内でした
「……ん、うぅ……腰が。……痛くない……!?」
重い瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは天井だった。
でも、見覚えのある我が家のシミだらけの天井じゃない。
やたらとおしゃれな間接照明と、コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンション風の天井だ。
それに、いつもなら朝起きた瞬間に襲ってくる慢性的な腰痛と肩こりが、嘘みたいに軽い。
全身がエネルギーに満ちあふれている。
「あら嫌だ、私の体、若返ったかしら……?」
体を起こそうと手をついた瞬間、視界に入った自分の手に息を飲んだ。
シワもシミもなく、関節もしっかりした、すらりと長い綺麗な男の人の手。
驚いてパッと近くにあった鏡を手に取る。
そこに映っていたのは——
「……嘘でしょ」
通った鼻筋、少し跳ねた茶髪、シュッとしたアゴのライン。
昨日、暴走車から私を助けてくれた、あの17歳のイケメン・黒崎ひらりくんの顔だった。
私が呆然と自分の(というかひらりくんの)顔を触っていると、頭の奥底から、割れるような大音量が響いた。
『うわああああっ!? なんだこれ、体が勝手に動いてる!? っていうか、誰だお前!!?』
「きゃっ!?」
あまりの音量に耳を押さえようとしたが、声は耳から聞こえているのではない。
自分の頭の真ん中から響いているのだ。
「ひ、ひらりくん……? あなたの声なの?」
『な、なんで俺の名前知って……って、その声! 昨日の眼鏡のおばさん!? え、待って、なんで俺の口を使っておばさんが喋ってんの!? キモいキモいキモい!』
「キモいとは失礼ね! 私だって好きでこんなイケメンの体に入ったわけじゃないわよ! ……というか、私たち、あのあとどうなったの?」
私の問いかけに、脳内のひらりくんがハッと息をのむ気配がした。
『……そうだ。俺、おばさんと話したあと、意識が無くなって……』
「……私も、ひらりくんと話したあと……記憶が無いのよ……」
同じ瞬間、二人で記憶を無くした。そして、どういうわけか、ひらりくんの体の中に「第二人格」として、私の魂だけが居座ってしまったらしい。
『……え……第二人格って』
脳内で、ひらりくんの動揺した声が響いた。
「……ひらりくん。もしかして、私の考えが分かるの?」
『……っ。ああ……同じ脳を使ってるんだろうな……』
「えっ……」
(嘘でしょ……意識も、脳内も共用……)
『つーか!……俺、今日から17歳だぞ? 今日も彼女とデートするはずだったのに! なんで頭の中に知らんおばさんが入り込んでんだよ!!』
頭の中で頭を抱えて絶叫するひらりくん。
まあ、彼の言い分も最もだ。
ピチピチの17歳の脳内に、見知らぬアラフォーおばさんが同居しているのだから。
しかし、落ち込んでばかりもいられない。
私はひらりくんの体で着替えをしようと体を起こした。
ベッドから立ち上がろうとした瞬間、体に妙な違和感があった。
「……あら?……ひらりくん」
『……何』
「この体……朝って、勝手に動くものなの?」
『…………』
「ひらりくん?」
『……おばさん……』
「なによ?」
『その話、朝からするな』
「だって私、こんなの初めてなんだけど!」
『俺だって……おばさんにこんな説明したくねーよ!』
「でも、私、今あなたの体なのよ?」
『だから困ってんだよ!!』
私はしばらく黙った。
そして、妙に納得した。
「……なるほど。17歳って……こういうものなのね」
『納得すんなああああ!!』




