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イケメン高校生の中に、おばさんが転生しました。  作者: 毬藻 闇雪


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第十ニ話 君色想い



「のばら! おはよう!」


 ひらりくんの声で目が覚めた。


『……どうしたの?』


 視界に入る窓の外は、まだ薄暗い。

 どう考えても、夜明け前だ。


「弁当作ろう!」

(……いま、何時?)

「朝の五時! 間に合うかな!?」

(……充分)


 ……というか、早すぎでしょ。


『まずはお米を研ぐのよ。朝ごはん用とお弁当だから……三合でいいと思うわ』


 ひらりくんが計量カップを手に取り、お米をすくう。


『……んん? ちょっと待って!』

「なに?」

『その線、越えたらだめかも。一合じゃなくて、一カップになってるわ!』

 ひらりくんがカップを横から覗き込む。

 やはり、200mlのカップだった。危ない。


「180のところ?」

『そう。カップいっぱいだと、硬いご飯になっちゃうわよ』


 ひらりくんが上を向いて考え込む。


「分かった! 母さんのご飯、いつも硬いんだ! これのせいか!」


 思わず、二人で吹き出した。


『その硬いご飯、どうしてたの?』

「食べるよ? かてーな、って思いながら」

『ふふ。言わないんだ?』

「言わないよ。母さんも、何も言わないし。だからこれが好きなのかな?と思ってたし」


 ひらりくんは、不思議そうな顔で笑った。

 本当に、素直ないい子だ。


「お米をどうするの?」

『まず、一気に水を流し込んで、すぐに捨てて。お米が流れないように注意して傾けてね』

「わかった!」

 手のひらで水流を堰き止めながら、上手に水だけ流し出している。

 教えていないのに、勘がいいのかな? なんて考えていると、

「全部出そうとすると、米が流れそう……」と、ひらりくん。

『ごめん、ごめん。そのくらいの水なら、捨てなくても大丈夫よ。また新しく水を入れて、軽くかき混ぜて……また水を捨てる』

「また?」

『そう。水がなくなったら、指を立てて二十回くらいかき混ぜて……』


 シャシャシャシャ……。

 軽快な音がキッチンに響く。


『水を注いだら、白く濁った水が出てくるでしょう? それを流して』

「……どう?」

『んー……もう一回、水を入れて。濁った水を捨てようか?』

「また!?」

『ふふ』


 もう一度繰り返して、ようやく――。


『これで炊飯の準備が整ったわ!』

 炊飯器のスイッチを入れる。

 ひらりくんはソファーへ戻ると、ドスンと腰を下ろした。

「疲れた~」

『ほら、そんなこと言わないの。薫ちゃんが待ってるわよ!』


「薫が!?」

 ひらりくんが、飛び起きる。

さっきまでの疲れはどこへやら。

 嬉しそうにキッチンへ戻っていった。


『次は卵ね。平らなところに軽く打ち付けてみて』

 ひらりくんは慎重に卵を、一個ずつボウルへ割り入れていく。

 殻は、一片も入らない。

『上手』

「当然!」

 ちょっと得意げだ。


 この子は、何をやらせても卒なくこなす。


『白身を箸で持ち上げて、切るように混ぜて』

「こう?」

『そうそう。上手!』

 そこへ、だしの粉末、砂糖、醤油を加える。

 ひらりくんはボウルを持ち上げ、必死にかき混ぜた。


『だし巻きみたいにしたいけど……フライパンだし、どうする?』

「やる!」

『できるかしら? 初めてなのに』

「大丈夫!」


 ひらりくんは自信満々に胸を張った。


『……その自信、どこから来るのかしら』

「薫に食べてもらうんだから、失敗しない!」


 その一言に、私は思わず笑ってしまった。

 

 なるほど。

この子にとって、料理ができるかどうかなんて、大した問題ではないらしい。


 薫ちゃんに喜んでもらえる。

それだけで、できる気がしてしまうのだ。


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