9 厄除け魔除け代わり
「あー……うー……はあ……」
俺は机の上に突っ伏したまま、情けない声を漏らしてうなだれていた。
「ちょっとカイト、何そのうめき声。気持ち悪いわよ」
隣に座っていたフラムが、呆れ顔で椅子を引いて近づいてくる。
だが、今の俺にはそれに対して軽口を叩き返す気力すら残っていなかった。
「それに、頭を机につけて……。ほら、寝ぐせもついてるし、髪がぐちゃぐちゃじゃない」
フラムはそう言いながら、俺の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
……余計にぐちゃぐちゃになるだろうが。やめてほしいものだ。
「なんだっけ、ほら。あんたが言ってた『ばってりー』だっけ? 私が知らないだけかもしれないでしょ」
そう、問題のバッテリーである。
俺はさっそくフラムに尋ねてみたのだ。
魔力を溜めておけるような存在を、何か知らないか、と。
最悪、何も書き込んでいない空の魔導基盤に魔力を詰め込むだけでもいいと考えていた。
だが、返ってきたのは無情な答えだった。
「そんなのあるわけないじゃない。そもそも魔導基盤だって、起動させていなくても魔力は抜けていくものよ」と。
フラムによれば、魔導基盤は放置しているだけで、二日も経てば自然に魔力が空になるという。
テラやクレイマン先生に聞いても、同様の答えが返ってきた。
はぁ……。俺のゲームへの夢が。
少しだけ近づいたと思ったのに、いきなり壁にぶち当たってしまった。
というか、こいつ、いつまで俺の髪を触ってるんだ。
「もう、いつまでうなだれてるのよ」
「……お前こそ、いつまで触っているんだよ」
俺はようやく顔を上げ、言葉を返した。
「いいじゃない、別に減るもんじゃないし」
言ったな? 減るもんじゃなかったら触っていいという理屈だな。ならお前のそのデカいおっぱいも触っていいんだな?
――などという言葉はもちろん口には出さず、心の中にそっとしまっておいた。
だが、まあ、フラムの言う通りだ。いつまでも突っ伏しているわけにはいかない。
俺には世界にゲームを広めるという野望があるのだから。
「そうだな。フラムの言う通りだ」
それに、どのみち資金を稼がないことには、たとえ開発の目途が立ったとしても、実行に移すことすらできない。
「あ、元気になった? じゃあカイト、たまにはあたしに付き合いなさいよ」
ふむ。確かにいつも俺に付き合わせてばかりな気がする。たまには恩返しも必要か。
「わかった。何に付き合えばいいんだ?」
「それは着いてからのお楽しみ、ってことで!」
王立グランアステリア学園は全寮制だが、外出が厳しく制限されているわけではない。
外泊に関しても、事前に申請さえ出しておけば問題なく許可が下りる。それほど自由な校風だった。
そもそも、王国が誇る最高峰の学び舎だけあって、敷地内には広大な公園や巨大な図書館まで完備されている。
生活用品はすべて学内の購買で揃い、食堂の献立も驚くほど豊富だ。
つまり、日常生活のすべてが学園という巨大な箱庭の中で完結してしまう。
生徒にとって、わざわざ校門の外へ出る必要など、本来はどこにもないのである。
俺はフラムに連れられ、学園の正門をくぐった。
大通りをしばらく歩くと、王都のメインストリート――通称「一番街」へと出る。
通りの中央には巨大な噴水が鎮座し、その周囲には多種多様な施設がひしめき合っていた。
立ち並ぶ商店に各種ギルド、さらには酒場や劇場まで。一番街は、昼夜を問わず大勢の人々が行き交う、この国で最も賑やかな場所だ。
「なあ、フラム。一体どこへ行くんだ? そろそろ教えてくれてもいいだろう」
人混みをかき分けるように歩きながら、俺は隣のフラムに声をかけた。
「まあ、そうね。でも、もう着いたわよ」
フラムが指さした先には、象徴的なデザインの看板が掲げられていた。
洞窟の入り口を模した意匠に、闇を照らすランタンと道を示す羅針盤。
ここは王都グランアステリア内に存在する各種ギルドの中でも、二番目の規模を誇る巨大な建物――冒険者ギルドの支部だった。
「ここ、冒険者ギルドじゃないか」
俺はフラムにそう問いかける。
「そうよ。ほら、あたしたち十五歳じゃない。見習いとして冒険者登録ができる年齢でしょ。でも、やっぱり女子一人だと入りにくいっていうか……」
この世界では十六歳が成人だが、学生であっても十五歳になれば見習いとして登録は可能だ。
とはいえ、俺は今まで一度も冒険者ギルドの敷居をまたいだことはない。
フラムの口ぶりから察するに、前世の創作物によくある柄の悪い男に絡まれるといったトラブルを警戒しているのだろう。
いわゆる厄除け代わりに俺を連れてきた、というわけか。
だが、客観的に見て俺はフラムよりも筋力がない。
物理的な防波堤として役に立つとは思えないんだがな。
フラムがギルドの扉を押し開けて中に入り、俺もその後に続いた。
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