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異世界に転生した元ゲーマーだけど娯楽がないのでゲーム作ります!  作者: なすちー


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8 次なる課題

 魔導基盤が起動し、ゴーレムの全身に魔力が渡る。


 これまでのゴーレムのようなガタつきは一切ない。

静かで、驚くほど滑らかな動作で、岩塊(がんかい)がスッと立ち上がった。

 

 ゴーレムは直立すると、自身の腕や足を軽く動かし始めた。まるで、新しい身体の調子を確かめるかのような動きだ。


 ――セットアップの工程は大事だからな。


 変数や関数を使っている以上、メモリ領域にデタラメな値が入っていれば、予期せぬバグを引き起こしかねない。


 最初の初期化こそが、システムの命だ。


 ゴーレムは続いて、自身の可動域を確認するように、肩、肘、足首、さらには指先に至るまで、順番に、かつ正確に動かし始めた。


「……す、すごい! ここまで滑らかに、(よど)みなく動くゴーレムは見たことがないぞ!!」

 クレイマン先生が、勢いよく身を乗り出す。

「うはあ、カイト君! 実に素晴らしい、最高だ! さあ、もっと、もっと動きを見せてくれ!!」


 ……クレイマン先生、熱が入るとキャラが変わるタイプなのか。

オタクってそういうもんだからな、気持ちはよく分かる。


 ゴーレムは一通りの初期化シーケンスを完了すると、ピタリと動きを停止し、次の命令を待つ待機状態に入った。


 うん。ここまでは設定通り、ロジックに問題はなさそうだ。


「なあ。誰かあのゴーレムに向かって、何か適当なものを投げてくれないか」

 俺は周囲を見渡して、そう声をかけた。


「はいはーい! あたしがやるわ」

 真っ先にフラムが手を挙げ、ニヤリと笑う。

その指先が少し熱を帯びたのを見て、俺は慌てて付け加えた。


「おい。わかってると思うけど、炎魔法とかはやめてくれよ。あのゴーレム、普通に焼かれて終わるだけだからな」

 耐久テストをしたいわけじゃない。あくまで「反応(リアクション)」が見たいんだ。


「そんなの分かってるわよ。あんた、あたしを何だと思ってるのよ」

 フラムは心外そうに唇を尖らせると、その辺にあった紙を丸め、紙くずの弾丸を作った。


「いくわよ。えいっ」

 放り投げられた紙くずが、放物線を描いてゴーレムへと向かっていく。


 紙くずがゴーレムに迫る。その直前だった。


 ゴーレムがわずかに膝を沈めて踏ん張り、ぐっと脇を締めるように腕を引いた。


 正拳突きを繰り出すような、最短距離の予備動作。そこから勢いよく伸ばされた手がビュン!と風を切り、フラムの投げた紙くずを真正面から鷲掴みにした。

 

 そして、掴んだ衝撃を逃がすように、ゴーレムの巨体がわずかに揺れる。


「すごい……すごいです! めちゃくちゃ格好いい動きをしますね、このゴーレム!!」

 テラが身を乗り出し、興奮を隠せない様子で声を上げた。


「普通のゴーレムは、もっと動作がぎこちないんです。物を掴むだけなら腕だけを動かして終わりですし、可動域の関係で横からすくい上げるのが限界なのに……。どうして真正面から突き出して掴めるんですか!?」


 テラの熱量はさらに上がっていく。


「それに、こんな無理な負荷をかけたら一瞬で関節が外れるはずなのに……。ねえカイトさん、教えてください! 何が起きているんですか!?」


 俺としては、もちろん教えたい。


 変数や関数の概念を広め、技術を底上げしたいのだ。そうしてこの世界に「ゲーム」という娯楽が蔓延してほしい。すべてはそのための布石なのだから。


「ああ、もちろん。後でじっくり教えるよ」

「いやいやカイトくん、儂にも頼むぞ! この理論、ぜひ詳しく聞かせてくれたまえ」

 クレイマン先生までもが、子供のような目で食いついてくる。


「はい、先生。もちろんです。ゴーレム学がもっと発展して、面白いことができるようになれば嬉しいですから」



「わー、すごい! 同時に二つ投げても、ちゃんとキャッチするわね、このカイトゴーレム!」

 フラムも楽しそうに、紙くずを次々と投げまくっている。

 ……そのネーミングだけは、勘弁してほしいんだがな。


 しかし、そんな騒がしい中だった。


 ブゥゥン……。


 不気味な音とともに、ゴーレムの瞳から光が消えた。


 糸が切れた人形のように、その場でガクリと動きを停止する。


「ん? あれ? もう止まっちゃったわよ」

 フラムが不思議そうに声をかけてくる。

 

 起動してから、まだ十分程度しか経っていない。

ゴーレムというのは、これほど魔力消費が激しいものなのか?


 いや、フラムが充填をケチったとは考えにくい。


「……あたしは、ちゃんと一杯まで魔力充填したわよ。嘘じゃないから」


「ああ、分かっている。フラムのことだ、そんなところで手を抜くはずがないと知っているさ」

 俺が当然のこととしてそう答えると。


「…………そう」

 フラムは短くそれだけ言って、なぜかふいっと顔を背けた。


「うーん、普通なら無理に動かしても一時間は持つはずなのだがね。基盤の不良かな。確か、卸したばかりの新品だったはずだが」

 クレイマン先生が、眉をひそめて首を傾げる。


 通常なら一時間は動く。


 それも、負荷をかけてもだ。

それに対して俺のコードは、わずか十分程度で沈黙した。


 だが、俺にはなんとなく原因の心当たりがあった。


 変数や関数を詰め込んだせいで、基盤とゴーレムの間で、膨大な量の連携と計算が常時行われている。


 これは前世でいうところの「消費電力の増大」ではないだろうか。


 力技で単純な命令を飛ばすときより、比較にならないほど激しく魔力を消耗し、一気にガス欠を起こしてしまったのではないか。


 ゲームを作る上で、変数や関数、条件分岐は必須レベルの要素だ。


 たとえ基盤の枚数を増やして処理を分散させたとしても、今の燃費の悪さでは、焼け石に水だろう。


 まったく、世の中ままならないな。


「もう、紙くずキャッチできないの? せっかく楽しかったのに……。もっと魔力を溜めておければいいのにね」

 フラムが何気なく、不満げにそう呟いた。


 ――それだ!!


 そうか、魔力の「バッテリー」のようなものがあればいい。

魔力消費が増えても、外部ストレージから供給し続ければ問題ないはずだ。


 さすがフラム。お前は天才か。


 俺は湧き上がる興奮を抑えきれず、フラムに心からの感謝を伝えた。

「さすがだなフラム! お前は天才だよ!」


「えっ? ちょっと、急に何よ。意味分かんないんだけど」

 フラムは面食らったように目を丸くし、それから居心地悪そうに頬を赤らめた。


「いいや、断言しよう。フラム、お前は天才だ」

 やはり、自分一人の視野では限界がある。持つべきものは、やはり良き友人だな。


 こうして、俺の初ゴーレム披露は幕を閉じた。

 

 燃費という新たな課題は見つかったものの、ゲーム作りへまた一歩、確実に近づいたと言えるだろう。


 実に有意義な一日。そんな一日だった。

引き続き毎日朝9時更新になります。

よろしくお願いします。

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