6 頼もしい助っ人の参加
ゴーレム専門学科、特別教室内。
そこでは赤髪の美少女フラムと、栗色の髪をした小柄なテラが、激しく口論を繰り広げていた。
「……ふん、あんたがカイトの言ってた『気になる子』ね。いーい? カイトはあんたが思うような立派な奴じゃないわよ。確かに顔だけは無駄に整ってると思うけど、そうじゃなくて! あいつは自分勝手で、わがままで、人のことなんてこれっぽっちも考えてなくて、根っからのクズで……」
ちょっと待てフラム。散々な言いようじゃないか。
俺の評価、そこまで低かったのか?
「い、いえ、そんなことないと思いますよ。カイトさんはゴーレムに対して熱意のある素晴らしい方ですし……もちろん、まだお会いして日は浅いですけど」
そうだそうだ、言え言えテラ! もっと俺をフォローしてくれ!
……現場は、救いようのないほどカオスな状況になっていた。
一体どうして、こんなことになってしまったのか。
今日は待ちに待った日だ。
ついに、基盤に文字を組み込める。
魔導基盤。正式には『第二世代魔導基盤』というらしい。
元々、この基盤はダンジョンに生息する無機物系モンスターのドロップ品だったそうだ。
研修用ダンジョンで戦ったゴーレムもその一種であり、今でこそ『ゴーレム使い』なんて職業があるが、元を辿ればダンジョンの個体を人間が真似て作り出したのが始まりだった。
だが、そのドロップ品をどう活用するかは、長い間不明だったらしい。
迂闊に魔力を流せば火を噴いて爆発するし、かといって金属としての強度は低く、素材としても使い勝手が悪かったという。
しかし、どの世界にもやはり天才はいる。
大量のドロップ品を見比べ、解析し、今の安定した第二世代型を開発した人物がいたのだ。
ただ、その天才エンジニアは短命だったらしく、彼に次ぐほどの存在はいまだに現れていないという。
もし彼がもっと長く生きていたら、ゴーレム学は今よりもずっと発展していただろう……とのことだった。
「ねえ、カイト。……ちょっと、カイトったら!」
凛とした鋭い声に、妄想の海から意識が引き戻された。
俺を呼ぶ声。隣にいるフラムのようだ。
「ん? なんだ?」
俺は普通に反応した。何しろ、今日の俺は最高に気分が良いからな。
「あんたさ……最近、教室にいないことが多いじゃない。どこか行ってるの?」
フラムが、じろりと横目でこちらを伺うように聞いてきた。
「ああ、そうだな。実は、どうしても気になる魔導基盤がいてな。そいつのために、色々と……」
「はあっ!? え……な、何よそれ。そいつ、どの女よ? ……いいわ、私に会わせなさいよ!」
フラムが、綺麗な声を裏返らせて詰め寄ってきた。
なんだ。フラムもゴーレムに興味があったのか? それは実に素晴らしいことだ。
ゴーレムはいいぞ。魔導基盤は最高だ。
「いいだろう。今日、このあと空いてるか? 会わせてやるよ」
俺がそう言うと、フラムは一瞬、毒気を抜かれたように押し黙った。
……が、すぐに何かを決意したような顔で頷く。
「……わかったわ、行ってやろうじゃない! カイトがそこまで気になるっていう『女』に、きっちり会ってやろうじゃないの!」
二人の口論はまだ続いている。
この火花が飛び散る中に割って入るのは至難の業だが、俺は一刻も早く、魔導基盤に文字を組み込みたいんだ。
俺は意を決して、二人の間に分け入った。
「なあフラム。さっきから聞いていれば、何か勘違いしていないか? 俺が『気になる子』って、一体どういう意味で言ってるんだ?」
すると、フラムは顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。
「はあ!? あんたが自分で言ったんでしょ! 気になる子がいて、いつも会いに行ってるって!」
……俺、そんなこと言ったっけか。
記憶を掘り起こしてみても、そんな心当たりは微塵もない。
――あ。
魔導基盤のことか……。
確かに、そんな紛らわしい表現をしてしまったかもしれない。
なるほど、納得した。こいつ、フラムは見かけによらず随分と優しいらしい。
得体の知れない「やつ」に熱を上げている俺を、友人として心配して付いてきてくれたわけか。
これは誠心誠意、謝らなければならないな。
「その、なんていうか……スマン! 俺の言ってた『気になるやつ』ってのは、コイツのことなんだ」
俺は、隅に置いてあった四角い魔導基盤を指差した。
「…………え?」
フラムは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で呆然としている。
……。
……。
あまりにも静かな、数秒間。
「……ちょ、ちょっとトイレ行ってくるわねっ!」
フラムはそれだけ叫ぶと、顔を真っ赤にして猛ダッシュで部屋を飛び出していった。
「何だったんだ、あいつ」
嵐の去った後のような静寂の中、俺は首を傾げた。
ふと視線を感じて振り向くと、そこにはなぜか、優しい笑顔で俺を見つめるテラがいた。
しばらくして、フラムが戻ってきた。
「待たせたわね! ……それからカイト、話は正確に、きちんとしなさい! いいわね?」
フラムに、たしなめるように軽く怒られた。
まあ、確かに俺に悪い部分もあったと思う。だが、勝手に勘違いしたのはあいつだ。
とはいえ、ここで話を長引かせても良いことはない。ここは素直に、もう一度謝っておくことにしよう。
「本当にスマン。次は気をつけるとしよう」
「そうね、気をつけなさい。……それで、あんた、知らない間にゴーレム専門学科を履修したのね。私も入ろうかしら」
フラムが何気なくそう言った。
確かにこいつの学力なら、複数の学科を掛け持ちするくらい余裕だろう。
ええっと、確か総合学科に特魔法士科に冒険者学科……それにゴーレム専門学科か。
ほんとに大丈夫かあいつ。……でも、余裕そうだし、大丈夫か。
それに何より、フラムがいればいつでも魔力の充填ができる。やはりぜひとも入ってほしいな。
「ああ、俺もフラムがいてくれた方が助かる。ぜひ入ってくれ」
「へえ……、そう。……わかったわ。私がいた方が助かるんだもんね。じゃあ、入ってあげるわ」
なぜか、フラムは急に機嫌が良くなったみたいだ。
だが、これで魔導基盤の作業も捗りそうだし、実に順調だ。
「フラムさん、苦労しそうですね……」
「まったくだな」
後ろの方で、テラとクレイマン先生が小さく囁き合っていた。
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