5 熱い奴は大好きだ!
「なあ、おい、そこのあんた! 『ゴーレムVSゴーレム』っていったい何だ? めちゃくちゃ興味をそそられる言葉なんだが!」
俺は、扉を開けて入ってきた栗色の髪の女子生徒に詰め寄った。彼女の透き通るような茶色の瞳が、驚きに丸くなる。
「……いきなり何なんですか? 失礼じゃないですか?」
女子生徒は怪訝そうな顔をして、一歩身を引いた。
む。確かにそうだ。つい勇み足になって、我を忘れてしまったらしい。
「すまん、悪かった!」
俺は素直に頭を下げて謝った。
「いや、別にいいですけど……えっと……」
「ああ、彼はカイトくんだよ。今日からこのゴーレム専門学科を履修することになってね。実に熱意ある、見どころのある若者だよ」
助け舟を出すように、クレイマン先生が紹介してくれた。
「今日からここで勉強させてもらうことになった、カイトだ。よろしく頼む」
俺は改めて、彼女の目を見て挨拶をした。
「そうだったんですね。よろしくお願いします、私はテラっていいます」
フラムとはまた違ったタイプの美人だ。小柄で、どこか小動物のような雰囲気がある。
だが、それよりも……彼女が手にしているのは、魔導基盤じゃないか!
どうやって文字を組み込むんだ? もう書き込み済みなのか? 俺もすぐに触らせてもらえるんだろうか。
興味が尽きないぞ。
「あの……『ゴーレムVSゴーレム』のこと、聞いてましたよね?」
小柄なテラが、おずおずと口を開く。
「ああ、そうだった。それは一体、何なんだ?」
「『ゴーレムVSゴーレム』とは、学生たちの夢の祭典! 王国中の学生ゴーレム使いの頂点を決める大会なんです。決められたレギュレーション内で技術とアイデアを競い、青春のすべてをかけて、魂を込めたゴーレムをぶつけ合う。それは単なる戦いではなく、魂の輝き、あるいは命の灯をも燃やし尽くす生命そのもの……そんな歴史ある由緒正しき大会なんですよ!!」
……すごい熱量だ。
これは小動物なんて生易しいものじゃない。内に熱い情熱を秘めた怪物のようだ。
さすがに命まで燃やし尽くしちゃダメだろうとは思うが、いや、でもこの子も素晴らしい。俺はこういう熱い漢は嫌いじゃない。
むしろ、大好きだ。
「感動したよ、テラ! 俺もぜひ協力させてくれ。できることなら何だって付き合うぞ」
「ええっ!? あ、ありがとうございます……。すみません、つい早口で喋ってしまって」
テラは、先ほどまでの熱狂が嘘のように、はにかみながら顔を赤らめていた。
「いや、全然そんなことはないさ。むしろ、君の説明は素晴らしかったよ」
俺は素直に称賛した。
「だが、俺はまだ『ゴーレムVSゴーレム』のルールも、基本的なことも何も知らないんだ。すまないが、教えてもらえるか?」
「はい、もちろんです! 分かりやすく説明しますね」
彼女は嬉しそうに、俺へのレクチャーを始めた。
彼女の話を要約すると
ゴーレムVSゴーレム……通称『GvG』と略すらしい。
基本的には、ゴーレム同士が一対一で戦う自律型のオートバトルだ。
今回のルールでは、搭載できる魔導基盤は二枚まで。
しかも、すべてゴーレムの機体内に内蔵しなければならない。
また魔導基盤の魔力再充填は不可、試合開始前に魔力を最大まで充填を行う。
ゴーレム本体の持ち込みは不可で、大会側が用意した共通の機体のみを使用するとのことだった。
バトル中に一定時間動かなくなる――魔力切れも、もちろん含む、あるいは決められた範囲外に押し出されると負けになるらしい。
参加人数自体はかなり少ないようで、数回勝つだけで優勝できるのだとか。
あれ? さっきのテラの説明だと、歴史ある夢の祭典とか言っていなかったか。
まあ、俺も今まで聞いたことがなかったし、ゴーレム使い自体がマイナーな職種だ。
現実なんてそんなものかもしれないな。
ふむ。……待てよ。
これ、魔導基盤を複数枚組み合わせて、コントローラーのような入力装置を作れば、格闘ゲームに応用できるんじゃないか?
今回の大会ルールでは「基盤はすべてゴーレム内に内蔵する」という規定があるから、遠隔操作のような真似は難しそうだが。
だが、クレイマン先生が宝箱に基盤を仕掛けたように、条件付け次第ではもっと色々なことができるはずだ。たとえば、音声による操作なんかも可能なのではないか?
というか、そもそも魔導基盤をゴーレムのような人形に組み込む必要なんて、どこにもない。
それこそ前世のコンピュータのように、専用の『箱』に搭載してしまえばいいんだ。
ふふふ……魔導基盤、実に優秀じゃないか。
入力装置や出力装置を増やしていけば、これは絶対にゲーム作りに応用できる。
野望がまた一歩、現実へと近づいたぞ。
「なるほど、とても分かりやすかったよ。ありがとう、テラ」
俺は率直に感謝を伝えた。
「いえ! 同志が増えて嬉しいです。……それで、魔導基盤に組み込む制御や命令について、先生に相談しようと思ってここに来たんですよ」
テラは、手元の基盤を愛おしそうに見つめながら言った。
「ちなみに……今からでも、俺が参加することはできるんだろうか」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
「えっ? ……ごめんなさい、それは無理ですね。参加の締め切り、もう終わっちゃってますから」
テラが、本当に申し訳なさそうな顔で答える。
「いや、いいんだ。あわよくば、と思っただけだからな」
俺は苦笑いして手を振った。
だが、胸の奥が少しだけ、ほんの少しだけ切なかった。
それから俺は、テラとクレイマン先生から、魔導基盤への文字の組み込み方法や基本機能を学んだ。
実に有意義でためになる時間だったが、そこで俺にとって衝撃的、かつ嬉しい事実を知ることになる。
魔導基盤を起動し、維持するためには魔力の充填が必要だ。
そのため、俺のような魔法の才能がない者には、動かすこと自体はできない。
しかし――文字の組み込み作業そのものには、魔力を必要としないらしいのだ。
つまり、俺の手でこのゴーレムの技術を応用し、ゲームを作り上げることは十分に可能だということだ。
魔力の充填についてなら……それこそフラムあたりに頼めばいい。
よし、はっきりと希望が見えてきたぞ。
俺は、最初に作るべきゲームの内容に思いを馳せながら、最高に楽しいひと時を過ごしたのだった。
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