3 ゴーレムの可能性
ダンジョンにやってきた、俺とフラム。
ユーナ先生の説明によれば、ここは二階層だけの小規模な場所らしい。
制限時間二時間の中、道中のモンスターを三体討伐すること。
そして、二階層にある宝箱の中身を持ち帰ること。
それが合格の条件だ。
「さあ、行くわよ。カイト、前衛は任せたわ」
「任せられたくないけど……了解しましたよ」
俺はそっけなく答えた。
こうなってしまった以上、腹をくくるしかない。せいぜい頑張るとしよう。
前世のダンジョンRPGでは、一通りの役割をこなしてきた。
今回の俺は前衛だ。
フラムとの二人パーティーなら、敵の攻撃を引きつけるタンクとしての役割も求められるだろう。
そんなことを考えていると、さっそく一匹目が姿を現した。
小柄な薄緑色をしたモンスター、ゴブリンだ。
もっとも、こいつは『学園専用調教済みゴブリン』という、あまり深くは考えたくない肩書きを背負っている。
装備しているのは、刃こぼれだらけのなまくらの剣と、ふにゃふにゃの皮の盾だ。
こっちの重装備越しなら、まともに攻撃を受けてもダメージは無いに等しいだろう。
ちょっと、タンクの練習でもしてみるか。
ゲーマーをなめるなよ。
まずはゴブリンのヘイトが後衛に向かないよう、全力で挑発する。
「へいへい! ちーび! ちび!」
「あんた、しょうもない挑発するわね。そんなんで怒るやつがいるわけ……いたわね」
俺の言葉を聞いたゴブリンは、一目散に武器を構えて突っ込んできた。
怒りで攻撃が分かりやすくなっている。このタイミングで、盾でただ受けるんじゃなく、軽く弾いて……。
ガキン!
ジャストガードってやつだ。
ゲームによってはダメージがゼロになるやつ。まあ、このゴブリンのなまくら剣なら、普通に受けてもダメージはゼロそうだけどな。
「あんた、うまいじゃない!」
後ろから絶賛する声が聞こえる。ふふふ、前世でワンパン即死級のボスと戦った経験があるんだ。
これくらい朝飯前さ。失敗しても、どうせ痛くなさそうだしな。
「それじゃあ、私は魔法を撃つわよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。こんなに安全なんだ。多段攻撃の連続ジャスガの練習もしておきたい」
「は? あんたの言うこと、時々意味不明よね。……まあ、大丈夫そうだし、少しは待ってあげるわ」
ゴブリンの攻撃を、弾いて、弾いて、押し返す。うん、これ、めちゃくちゃ気持ちいい。
ほんの少しだけ、冒険者になりたがる奴らの気持ちが分かった気がする。
「へいへいへーい! もう新しい攻撃はないのか? 手詰まりかーい?」
俺はさらに挑発を続ける。
するとゴブリンは、あろうことか自分のなまくら剣を投げつけてきた。全力で、しかも意外と速い!
「ちょ、それは聞いてない――っ」
「ファイアボルト!」
ゴオオォォッ!!
後ろからフラムの魔法が放たれ、飛んできた剣もろとも、ゴブリンを焼き尽くした。
「油断するからでしょ」
……調子に乗ってしまった。いや、でもゲーマーとしては仕方なくないか?
こんな絶好の練習相手がいたら、そりゃ色々試したくもなるだろ。
「深く反省するように!」
「はい、ごめんなさい……」
普通にガチで叱られてしまった。
俺たちはそのまま、スケルトンやスライムを同じように撃破していった。
ジャスガ、楽しいね。
すべて訓練用の調教済みモンスターなので、余裕そのものだった。
そして、もう一つの目的である宝箱の前にたどり着いた、その時だった。
地面から土と岩が重なり合い、人形のような巨体が立ちふさがった。
「ゴーレムね! こいつを倒せば宝はすぐよ。どうする? さっそく私の魔法で焼き払っちゃう?」
フラムの提案に、俺は「ちょっと待ってくれ」と手を挙げた。
何か、何か閃きそうなんだ。
ゴーレム……あらかじめ決められた通りに動く、土人形の総称。
こいつはどうやって動作を決めているんだ? もしかして、プログラムのように動きのパターンを組み込まれているんじゃないか?
「ちょ、ちょっと! 戦闘前に考え事しないでよ! ほら、もう動き出したわよ!」
む、ダメだ。これ以上考える時間はなさそうだ。
俺は自然に、タンクとしての動きを取っていた。
……もしかしたら、俺には本当に才能があるのかもしれない。
相手の振り下ろされる腕に合わせて、盾を……ありゃ?
「ちょっと、なにしてるのよカイト!」
どうやら俺は盾で弾こうとしたんだが、そのまま俺ごとゴーレムに掴まってしまったらしい。
まあ、これだけの巨体だ。物理的にどうしようもないよね。
それにしても、さすがは訓練用。掴んで離しはしないが、握りつぶすような真似はしてこないようだ。
「仕方ないわね。ちょっと熱いけど我慢しなさいよ!」
あれ、フラムさん? 今、さらっと不穏なこと言わなかった?
「ファイアストーム!!」
ゴオオォォォッ!!
俺の体ごと、猛烈な熱波が吹き荒れる。
ゴーレムも消し炭、そして俺も消し炭――と思いきや、火力をうまく調節してくれたらしい。ゴーレムの腕だけをピンポイントで焼き払ってくれた。
自由になった俺は、ゴーレムの腕が再生する前に、手にした剣を振り下ろした。
狙うは核、いわゆる『魔導基盤』だ。
パキン、と小気味よい音を立てて基盤が砕ける。
これで再生することもなく、二度と動くことはない。
「あんた、最後はちょっと見直したわよ。前衛、できるじゃない」
「……絶対的な安全が確保されてるからな。冷静に判断できるのさ」
フッ、と少しだけかっこつけてみた。
それにしても、魔導基盤か。
これ、ゲーム作りに応用できないだろうか。
今度専門の先生に聞いてみるしかないな。
新たな発見に、単位の心配も解消。まさに良いことずくめだ。
「さあ、早く宝を持ち帰るわよ、カイト!」
「そうだな。よし、じゃあ開けるぞ」
そう、俺は何の気なしに宝箱を開けてしまったんだ。
「最後まで油断するなよ」と、あのときの俺に言ってやりたい。
ダンジョンで宝箱といえば、事前に罠をチェックするのが鉄則じゃないか。ゲームであれほど叩き込まれたはずなのに。
ドカーーーン!!
大きな音とともに、俺の顔面は黒焦げの煤まみれになった。
ふと見れば、フラムのやつ、いつの間にかちゃっかり後方に避難していやがる。
あいつ、もしや隠しスキルで『幸運』でも持ってるんじゃないか。
こうして俺たちの研修用ダンジョンは、無事?幕を閉じたのだった。
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