22 ルイスとの決戦の日
一週間というのは、過ぎてみればあっという間だった。
ついに、シャルロット商会のルイスとの勝負の日がやってきたのだ。
俺はいつも通りに授業を終え、がらんとした教室にいた。
「新作のボードゲーム」と言っていた以上、ルールの説明は一切受けていない。
だが、正直楽しみで仕方がない。
もちろん、隣には、宣言通りフラムが帰らずに座っている。
そして教室に、特徴的な金色のツインテールが揺れながら入ってきた。
ルイスがこちらに近づき、にこやかな笑顔で声をかけてくる。
「ごきげんよう。準備はよろしくて?」
「ああ。別に準備なんていらないけどな。ちょっとボードゲームを打って帰ってくるだけだ」
俺は椅子から立ち上がり、ルイスに答えた。
「大層な自信ですのね。それでは、行きましょうか」
「ああ、あとこいつ。フラムも連れて行く。俺の同行者だ」
俺が紹介すると、ルイスはフラムの方をちらりと見た。
「ええ、いいですわ。フラムさん、よろしくお願いしますわね。この学園では初めまして、ですわね」
「ええ、そうね。ルイスさん、今日はよろしく」
二人のやり取りを見る限り、どうやら顔見知りのようだ。
ルイスは王都でも指折りの大商会の娘だ。何かの集まりや、社交の場ですでに顔を合わせたことくらいはあるのだろう。
フラムがいてくれるなら、魔法的なイカサマの心配もいらない。
俺は新作のボードゲームを遊べるワクワクを胸に、ルイスの後に続いた。
教室を出て、俺たちは連れ立って廊下を歩き出した。
「それで、どこに行くんだ?」
「もちろん、私の屋敷ですわよ。外に馬車を待たせてありますわ」
ルイスは前を向いたまま、流れるような足取りで答える。
「なるほどな。ルイスは寮じゃないのか?」
俺は何気なく、そう問いかけた。
「……」
だが、返ってきたのは不自然な沈黙だった。
あれ? 俺、嫌われてるのか?
さっきまでにこやかだったこの金髪が、いきなり無言になっちまったんだけど。
「ちょっと、カイト。いきなり名前を呼び捨てにするのは、どうかと思うわよ」
横にいたフラムが、呆れたように、けれど困ったような小声で教えてくれた。
なるほど、確かにそれはそうだ。
テラなんかはそういうのを全然気にしないタイプだったから、ついその感覚で呼んでしまった。
ここは学園とはいえ、相手は初対面に近い令嬢だ。いきなりの呼び捨ては、確かに失礼にあたることだろう。これは素直に反省するべき点だな。
「わたくしは屋敷から学園に通っていますわ。ですから、ここの寮は形だけ登録しているだけで、実際には使っていませんの」
不自然な沈黙を破って、ルイスが答えた。
さっきの呼び捨てについては、あえて触れないことにしたらしい。
「なるほどな、そういうのもありなんだな。あれ? そういえばフラムも、王都に屋敷があるよな?」
俺が何気なく振ると、フラムがうなずいた。
「ええ、そうね。でも、あたしは寮で生活したいって自分から決めているわ。屋敷だと、なんだか肩苦しいのよ」
ふむ、そういうものか。
そうこう話しているうちに、学園の正門前にたどり着いた。
そこには燕尾服を着た執事とメイドが、一台の豪華な馬車の前で直立不動で待っていた。
さすが金持ち、当たり前のようにメイドさんがいる。
(これぞ異世界の大商会……!)
俺は心の中で、そう強く思った。
「待たせたわね。屋敷に戻るわ」
ルイスが二人に声をかけると、すぐに執事が御者台に乗り、メイドが手際よく馬車の扉を開けた。
ルイスが先に乗り込み、続いて俺たちが乗り、最後にメイドさんが中に入る。
馬車の中は向かい合わせの席になっていた。
俺とフラムが隣同士で座っても、まだ余裕があるほど広い。
反対側の席には、ルイスとメイドさんが並んで座っている。
馬車がガタゴトとゆっくり動き出した。
狭い空間での無言は、どうにも気まずい。
そう思った俺は、口を開いた。
「あー、えっと、シャルロットさんの屋敷は学園から距離があるのか?」
「近いですわよ。ただ、屋敷の門をくぐってから遊戯室までは少し歩かなければなりませんの。そんなの面倒でしょう? だからそのまま馬車で向かう予定ですわ」
さらりと答えたルイスが、少しだけ表情を和らげる。
「それと、言い慣れていないなら別に名前でも構いませんわよ。先ほどは、あまり言われ慣れていなかったので驚いただけですわ」
「なるほどな。分かった、ルイス」
本人が良いと言うならと、さっそく呼び捨てにしてみる。
すると、ルイスの隣に座っているメイドさんが、鋭い視線で俺をにらんできた。
(ええー……本人が良いって言ったんだからいいじゃんか。メイドさんって怖いんだな)
俺が内心で冷や汗をかいていると、隣のフラムが呆れたようにため息をついた。
「カイト、とりあえずは『さん』付けくらいから始めるべきでしょ。はあ……」
「うふふ。お二人は本当に仲が良いんですわね」
俺たちのやり取りを見て、ルイスが楽しそうに笑う。
「え? まあ、付き合いは長いしな」
そう。フラムとは学園に入学してから、なんだかんだとよくつるんでいる。
考えてみれば、もう三年くらい経つのか。
「さて、そろそろ着きますわ。楽しみですわね。キングスを改良した人物、どれほどの腕前なのか」
「腕前も何も、ルールすら聞いてないんだけどな」
俺はルイスにそう返した。
(実は体力や筋力が必要なゲームで、駒の重さが一つ二十キロあります、なんていう物理的なオチだけはやめてくれよ……)
「うふふ、ちゃんと説明しますとも」
ルイスが不敵に微笑むと同時に、馬車がゆっくりと止まった。
着いたのは屋敷の離れらしい。本館とは渡り廊下でつながっているようだが、外から直接入れる立派な入り口が目の前にあった。
馬車の扉が開くと、そこはもう遊戯室の入り口の真ん前だ。
本当に一歩も歩かせる気がないらしい。さすがはお金持ちだ。
「さあ、こちらへ」
俺たちはルイスとメイドさんに促され、離れにある大きな扉をくぐる。
まだ見ぬ新作ボードゲームへの期待を胸に、俺たちはついに決闘の舞台――ルイスの屋敷の遊戯室へと足を踏み入れた。
次回バンディットルール説明になります。
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なにとぞ、なにとぞー。




