21 魔法によるイカサマ
ルイスとの勝負の日まで、あと数日。
だからといって、勝負を理由に授業をサボるわけにもいかない。
ここ、学生のつらいところね。
いつものように総合学科の教室で、俺は退屈な講義をやり過ごしていた。
ふと思い立ち、隣の席で熱心にノートを取っているフラムに、声を潜めて話しかける。
「なあ、フラム。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なによ、今は授業中でしょ」
フラムは前を向いたまま、小さな声で答えた。
「シャルロット商会って、知ってるか?」
「ええ、知ってるも何も、王都三大商会の一つじゃない。基本的には何でも扱っているけど……それこそカイト、あそこ『キングス』の元祖でしょ」
やっぱり、そこまで有名な商会だったのか。
そんな大物相手に「どちら様?」なんて言ってしまったのだ。
ルイスがあれほど驚き、そして怒ったのも無理はないかもしれない。
「そのシャルロット商会がなによ?」
フラムが不審そうに聞き返してくる。
「いや、実はな……なんかルイスってやつに決闘を挑まれたんだ」
「はあ!?」
フラムは、授業中であることを忘れたかのような大きな声を上げた。
静かな教室にその声が響き渡る。
「フラムさん、どうかしましたか?」
総合学科の教師、ユーナ先生がこちらを見て、穏やかに声をかけてきた。
「あ、ははは! いえ、何でもありません! すみません、授業を続けてください」
フラムは慌てて取り繕うように答え、それから俺の方をギロリとにらみつけてきた。
いやいや、いきなり大きな声を出して反応したのはフラムの方だろう。
俺のせいにするのは違うだろう。
再び声を潜めて、フラムが耳元でささやく。
「カイト、あとで詳しく聞かせてもらうわ。……覚悟して待ってなさい」
その目は、冗談で済ませてくれるような色をしていなかった。
授業が終わるなり、隣の席のフラムが身を乗り出してきた。
「ちょっと、カイト。さっきの『決闘』ってどういう意味よ。詳しく説明しなさい」
俺は荷物をまとめながら、ぼんやりと答える。
「ん? ああ。いや、俺が勝手にキングスを改造して売ったのが、本家の気に障ったらしいんだ」
「……まあ、それはそうでしょうね」
「それで、どちらが真のボードゲームの覇者にふさわしいか、勝負で決めることになった」
「なるほどね……って、ちょっと待ちなさいよ。意味わかんないんだけど。話、つながってなくない?」
フラムが呆れたように声を上げた。
「まあ、そうなってしまったんだから仕方ないだろ。勝負は五日後。ルイスが迎えをよこすらしいから、たぶんあっちの屋敷かどこかでやるんだろうな。しかも、俺はルールすら知らない新作ゲームだそうだ」
「それ、あんた勝てるの?」
フラムが心配そうに覗き込んでくる。
正直なところ、今はまだ出たとこ勝負な感じは否めない。
「さあ、わからん。けど、物理的に勝てないようにはなってないはずだ。……それよりもだ、フラムに一つ聞いておきたい」
「え? なによ」
俺はフラムの目を見て尋ねた。
「魔法を使って、ゲームで『イカサマ』ってできるのか?」
そう、俺には魔法の才能がこれっぽっちもない。
もし魔法で眠らされたり、心を操られたりしても、抵抗するすべがないのだ。
ゲームの内容やルールそのものよりも、実はこの点が一番気になっていた。
「そうね。やろうと思えば、できるでしょうね」
フラムは指先をあごに当て、冷静に答えた。
「でも、シャルロット商会がそこまでするとは思えないわ。あそこはまっとうな商売で成り上がった老舗よ。それに、当日は私もついて行くし。少なくとも、誰かが魔法を使ったかどうかくらいは私が見てればわかるわ」
(……え? フラム、来てくれるのか。よし、これは勝ったな)
彼女がいてくれるなら、これほど心強いことはない。
ふむ、でも待てよ。
もし相手があこぎなことを平気でする商会なら、フラムを連れて行くのは逆に危ないかもしれない。彼女が人質にでも取られたら、俺には何もできない。
……いや、三大商会が学校の生徒相手にそんな物騒な真似はしないはずだ。
「じゃあ、悪いけど……当日は頼んでもいいか?」
「ええ、任せなさい」
フラムは力強く頷いてくれた。その頼もしい言葉に、俺は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
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