20 金髪美少女ツインテお嬢さま
「まさか、このわたくしを知らないとでもおっしゃるの?」
金髪ツインテールの美少女は、信じられないといった様子で大きく目を見開いた。
いや、本当に知らない。確かにかなりの美少女だとは思うけれど、ただそれだけだ。
そもそも俺は悪いことなんて一つもしていないし、決闘を挑まれる理由なんてこれっぽっちも思い当たらないのだが。
「ええ。どこかでお会いしましたっけ?」
俺が素直に問い返すと、彼女の肩がぴくりと跳ねた。
本当に、記憶の隅を探っても何も出てこないのだ。
あれ、よく見ると彼女、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えているぞ。
「なるほど、なるほど……。わたくしの存在など、一切眼中にないと。そういうことですのね?」
彼女は自分に言い聞かせるように何度も頷くと、今度は射抜くような鋭い視線を俺に向けてきた。
「わたくし、シャルロット商会の次女、ルイス・シャルロットと申しますの。これでお分かりになりますわね?」
彼女は自慢のツインテールを揺らしながら、自信満々に言い放った。
(……ぜっんぜんわかんねぇー)
誰だ、ルイスって。なんだよシャルロット商会って。
自分で言うんだ、大きな商売をしているところなんだろうとは予想できるが、そもそも俺とは何の関係もないはずだ。これは絶対に人違いだろう。
「まさか、ここまで言ってもお分かりになりませんの?!」
俺が首をかしげていると、ルイスと名乗った美少女は、信じられないといった様子で声を荒らげた。
はい、その通りでございます。察しが悪くてすみませんね。
「はあ……もういいですわ。あなたが勝手に作り変えた『キングス』の本家、それがわたくしたちシャルロット商会ですわ!」
……俺にめちゃくちゃ関係してたあ!!
「まあ、あなたの魔改造したキングス……なかなか良かったですわ」
意外だった。
著作権がどうのとか、販売したければ金を払えとでも言われるのかと思ったが、どうやらそういう話ではないらしい。
「ですが、ボードゲームで世界を取るのは、このシャルロット商会ですわ! どちらが真のボードゲームの覇者にふさわしいか、あなたに決闘を挑みますわ」
ルイスは再びビシッとこちらを指差した。
いや、別に俺はボードゲームで世界を狙っているわけじゃないんだけどな。
だが、ゲームで勝負を挑まれたからには、受けて立つしかない。
そもそも前世でも対人ゲームは好きだったし、何よりゲームというものは勝たなきゃ面白くないからな。
「よし、わかった。受けて立とうじゃないか。キングスの本家って言うんだ、勝負の内容はキングスでいいのか?」
俺がまっすぐに見返すと、ルイスは少し驚いたように目を丸くし、それから不敵に微笑んだ。
「あら、逃げませんのね。今ならまだ、棄権してもよろしいですのよ?」
「ゲーマーをなめるな! ゲームでの勝負なら、いくらでも受けてやるぜ!」
威勢よく啖呵を切ったものの、内心では少しだけ冷や汗をかいていた。
実は結構、苦手なジャンルのゲームもあるんだよな。
まあ、対人戦ならなんとかなるだろう。……たぶん。
「実は、シャルロット商会にはまだ発表していない新作のボードゲームがありますの。勝負はそれで行いますわ」
……おいおい、めちゃくちゃ自分に有利な条件じゃないか。
未発表なら、ルールを熟知しているのはあっちだけだ。だが、一度吐いた言葉を飲み込むのはゲーマーのプライドが許さない。
「ああ、かまわないぜ。その新作ボードゲームとやらでも何でも受けてやる」
「あら。思ったより格好いいことを言いますのね。では、勝負は一週間後。授業の後に迎えをよこしますわ」
ルイスが満足そうに頷く。
だが、これはあくまで「決闘」だ。何かしらの対価がなければ、勝負としての熱量に欠ける。
「ちなみに、何か賭けたりはしないのか? 別に俺は賭けなくてもいいんだが」
「ふふふ、そうですわね。あのキングスを改良した腕前ですもの、もしわたくしが勝ったら、将来はわたくしの商会で働いてもらいますわ。もちろん、お給料はたっぷり弾みますわよ?」
正直、束縛されるのはごめんだが、ここで引くわけにはいかない。俺は腕を組んで、彼女を真っ直ぐに見据えた。
「俺は将来、この世界にはまだない最高のゲームを作るつもりだ。優秀な奴はぜひ欲しい。……もし俺が勝ったら、ルイス、お前が俺のところで働け。もしくはゲーム作りに全面的に協力してもらうぞ」
「それくらいでよろしいんですの? ふふ。ええ、いいですわ。受けて立ちますわよ」
ルイスは不敵な笑みを浮かべた。
「楽しみですわね、一週間後。……それでは、ごきげんよう」
「ちょっと待ってくれ。その最新ボードゲーム、名前くらいはあるんだろ?」
立ち去ろうとする彼女の背中に、俺は声をかけた。彼女は足を止め、肩越しに振り返る。
「ええ、ありますわ。『バンディット』ですわ」
バンディット……「賊」がタイトルか。なかなか良いネーミングじゃないか。
一体どんなゲームなのか、がぜん一週間後が楽しみになってきた。
今度こそ、ルイスは優雅な足取りで去っていった。
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