18 フラムの得意魔法、俺の得意武器
王立学園、総合学科教室。
隣の席のフラムが、ふいに声をかけてくる。
「そういえばさ、最近思うのよ。あたし、結構カイトに付き合ってるじゃない? 魔力を補充したり、商業ギルドに行ったり、試作テストも手伝ったりね」
フラムは指を折って数えながら、言葉を続ける。
「でもさー、カイトってあんまりあたしに付き合ってくれないよねー。なんだか不公平というか。まあ、別にいいんだけどねー」
む。
チラリとこちらを伺うような視線。
確かにフラムにはめちゃくちゃ感謝している。
よく付き合ってくれるし、俺みたいな男に惜しみなく協力してくれていると思う。
「……何が言いたいんだ?」
俺が聞き返すと、彼女は待っていましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「あたし、冒険者をやりたいって言ったわよね? だからさー、浅い階層でいいからダンジョンに行こうよ! せっかく冒険者ギルドのライセンスを取ったんだし」
それは、俺にとってまさかの発言だった。
行きたくないぞ。……切実に、行きたくない。
俺は内心で頭を抱えた。
学園の修練用ダンジョンと比べれば、見習い用の浅い場所といっても、その危険度は跳ね上がるはずだ。
とはいえ、フラムには言葉にできないほど感謝しているし、何かお返しをしたいとは思っている。
何より、そろそろ彼女の不満が爆発しそうなのも、肌で感じていた。
(でも、こいつ……確か冒険者学科も取っていなかったか?)
それなら、そっちの連中とパーティーを組んだほうが話は早いし、何より安全なはずだ。
「なあフラム。冒険者学科の方でパーティーを組んだりはしないのか? 俺なんかじゃなくて、もっと腕のいいやつもいるだろう」
俺はおずおずと、探るように聞いてみた。
「え? まあ、いるかもしれないけど……なんていうか、パーティーを組むなら信頼できる人と組みたいじゃない。それに、あたしの友達はみんな魔法士なのよね。魔法士だけのパーティーって、バランスが悪いでしょ?」
確かに、魔法士だけで固まったパーティーなんて聞いたことがないな。
そこで俺は、ふと閃いた。
(高品質な装備でガチガチに固めたら、それなりに安全なんじゃないか?)
相手は冒険者になりたての連中が行くようなダンジョンだ。中には装備もろくに揃っていない状態で潜るやつだっているだろう。
近々、キングスのまとまった収入も入る予定だし、それで装備を買えばいい。
もちろん、これはあくまで「ゲーム作りのための費用」だ。
無駄遣いではなく、これからの開発に活かすための……そう、少々考えていることもあるし、この装備代は必要経費だ。
自分にそう言い聞かせ、俺はフラムに向き直った。
「よし、わかった。今度付き合ってやる。だが、さすがに準備が必要だ。それが整ったら行こう」
俺がそう告げると、フラムの顔がぱっと明るくなった。
「え? 本当!? 絶対断られると思ってたわ。うふふ、やったー!」
フラムは顔を輝かせ、飛び上がらんばかりに喜んでいる。
どうやら、先延ばしにしつつ機嫌を取ることには成功したようだ。
……いや、行くつもりはある。そのうちに、たぶん。
ついでに、これから作ろうと考えているゲームの構想もあったので、俺はフラムに尋ねてみた。
「ちなみにフラム。この前のダンジョン実習を見ていて思ったんだが、お前、炎の魔法ばかり使っていただろ? 他に、たとえば水とかは使えないのか?」
「……まあ、炎魔法って格好いいじゃない。見た目も綺麗だしね」
フラムは少し視線を泳がせながら答えた。
ははーん。……こいつ、さては他の魔法は使えないな。
「なによ、その目は。……ちゃーんと使えるわよ。熱湯なら……」
フラムは唇を尖らせて、気まずそうに視線をそらした。
どういう仕組みなんだ、それは、水魔法なのか? それとも火魔法の応用か? 熱い水限定って、逆に器用な気もするが。
「いい? 人には向き不向きがあるのよ! 水なんて使えなくても問題ないわっ」
フラムは腕を組んで、言葉を強めた。
まあ、そりゃそうだ。得意不得意があるのは当たり前だし、別に責めているわけじゃないんだが。
「それに水なら、あたしの友達が得意だわ。そんなに水魔法が見たいなら、今度連れてきてあげるわよ」
「いや、できるかどうか聞いただけだ。……まあ、見てみたいと言えば見てみたいけどな」
俺が正直に答える。
「別にできるかどうか確認しただけだ。フラムがそれでいいなら、何の問題もないだろ。それに熱湯なんて、モンスターにぶっかけたらめちゃくちゃ効きそうじゃないか」
「ふふん、そうでしょ! 熱湯は結構便利なのよ。あと熱風とかも出せるから、髪を乾かしたりするのにもいいしね」
なるほど、フラムは「熱」に特化しているのか。
熱魔法使いフラム。なかなか面白い。
……というか、魔法使いってのは人によってそんなに特性が違うのか。
そうなると、今考えているゲームの調整が結構難しそうだ。
フラムの友達だという水魔法使いも、一度見ておきたいな。
まあ、今すぐというわけでもない。機会があればでいいか。
「まあ、なんにせよフラム。ダンジョンには付き合う。だが、準備ができるまで待っててほしい。そんなに待たせないからな」
「わかったわ。待ってる」
そんなやり取りもあり、今、俺は高品質の装備を整えるために、鍛冶師ギルドを訪れていた。
「兄ちゃん、本当に冒険者か? ひょろひょろじゃねーか。魔法士ってやつか?」
カウンター越しに、受付のおっちゃんが疑わしそうな目で俺を見てくる。
「いや、その……なんていうか、臨時というかヘルプというか……」
俺が言葉を濁しながら答えると、おっちゃんは鼻を鳴らした。
「まあいい、とりあえず武器だ。一通り持ってみな」
さすがプロだ。俺が持った感じや太刀筋を見れば、何が向いているか分かるのだろう。
俺は言われるがまま、そこに並んでいる武器を片っ端から試した。
剣、大剣、槍、鈍器、刺突剣、斧、弓……とにかく置いてあるものは全部だ。
おっちゃんはずっと厳しい顔をしたまま、一言も発しない。全然うなずいてくれないのだ。
無言のまま、次から次へと「じゃあ次これ」「次はこれだ」と新しい武器を渡される。
ようやくすべての武器を試し終えたところで、おっちゃんが重々しく口を開いた。
「わかったぞ、兄ちゃん。……兄ちゃんは、どの武器も絶望的にセンスがねえな。あえて言うなら、この……盾だ」
……。
嘘だろ!?
盾って武器なんですかー!?!?
鍛冶師ギルドの中に、俺の絶叫が空しく響き渡った。
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