17 大型ロボに乗るのはロマン
商業ギルドでの商談から、三週間。
文字通り、目まぐるしい勢いで日々が過ぎていった。
その間には、テラが心待ちにしていた「ゴーレムVSゴーレム」の大会もあった。
俺がすべてプログラムを組んでしまうのは趣旨が違うと思ったので、今回は教えながらテラ自身に組んでもらうことにした。
構成は、一枚の基盤に全力でコードを叩き込み、もう一枚を完全に魔力供給用にするという、二枚挿しの力業だ。
結果は……惜しくも準優勝。
決勝の相手はなかなかの策士だった。
テラの一回戦、二回戦の動きを冷静に分析し、決勝直前で基盤を「完全耐久型」に入れ替えてきたのだ。
短期決戦型のテラのゴーレムに対し、相手は徹底して逃げに徹し、こちらの魔力が尽きるのを待つという作戦。
これが見事にハマり、最後は魔力切れで動けなくなったところを押し出されてしまった。
「来年こそは絶対に優勝します!」
テラは悔しそうに、けれど前向きに意気込んでいた。
大会のルールは毎年変わるらしいので、次がどうなるかは分からない。
俺としては、もっと好きにカスタムできて、入力デバイス……コントローラなどで自由に操作できるような……格闘したり飛び道具を撃ち合ったりする、
白熱のバトルが見たいところだが、こればかりは運営次第だ。
ちなみに、ふと思いついて「ゴーレムの中に人が乗れるスペースを作って、中から操縦はできないのか」とクレイマン先生やテラ、フラムに聞いてみたことがある。
「そんな発想、よく思いつくわね……」
「カイトくん、それはさすがに……」
三人には呆れたような顔をされてしまった。
現段階では「中で基盤が暴発した際の安全性が保証できない」「そもそもそれなりに基盤は熱を発している」という至極真っ当な理由で却下されたが、俺は諦めていない。
(いつか、巨大なゴーレムに乗って自分の手で操縦してやる……)
そんな男のロマンを、俺は密かに胸に抱き続けている。
キングスの反響は、想像を絶するものだった。事前に商業ギルドが宣伝していたこともあり、俺が納品した初回分は、店頭に並ぶやいなや、あっという間に完売してしまったらしい。
今日は、期待に胸を膨ませながら、発行してもらったばかりの商業ギルドライセンスを初めて使ってみることにした。
そう、待ちに待った初回分の売上が、ついに入金されたのだ。
ギルドの隅にある、石板のような確認用の魔導具にライセンスをかざしてみる。
すると、ライセンスの表面に淡い光が走り、現在の残高を示す数字が浮かび上がってきた。
――大金貨十枚、金貨九枚、銀貨八枚……。
俺は思わず、まばたきをしてその数字を二度見した。
何度確認しても、魔法で刻まれたその数字は変わらない。
大金貨十枚、金貨九枚、銀貨八枚。
計算してみる。通常品十個と、貴族仕様の高級品三個。王族向けは無料だから除外して……。
そこから商業ギルドの手数料を引いた、約束通りの「六割」が、きっちりと反映されている。
(……マジかよ。本当に振り込まれてる)
前世の価値に換算すれば、およそ百九万八千円。
一介の学生としては、とんでもない大金だ。
それも、ほんの数週間で稼ぎ出した金額だと思うと、足が少しふわふわするような感覚になる。
つい先日まで、しがない学園生だったはずが……。
俺は、一気に金持ちの仲間入りを果たしてしまったようだ。
ついでに、いくらか現金を引き出しておくことにした。
石板のような魔導具を操作しながら、ふと考える。
これ、一体どういう仕組みなんだろうか。ダンジョンで見つかった古代の遺物か何かなのか。
これだけ精巧に数字を表示できるなら、もっと簡単に「画面」のようなものを作れそうな気がするのだが。
まあ、今は考えても仕方のないことか。今は、やるべきことがある。
それは、実家の母親への仕送りだ。
俺には父親がおらず、母さん一人で俺を育ててくれた。
高い入学費用や、今こうして学園で暮らしている生活費も、すべて母さんが出してくれている。
「子供がそんなこと気にしなくていいのよ」
きっと、お金を送ればそんな風に笑って言いそうな、とても優しい母親だ。
正直、前世の記憶を持ったまま生まれた俺は、子供としては可愛げがなかっただろう。
普通なら不気味がられてもおかしくない。
けれど母さんは、そんな俺を何ら変わることなく、一人の愛すべき息子として育ててくれたのだ。
その恩は、何があっても返したいと思っている。
俺は手紙に近況を書き記し、引き出したお金を添えた。
もうすぐ、前世でいう「夏休み」にあたる第一次休園期間がやってくる。その時には実家に帰るという予定も忘れずに書き込んだ。
手紙とお金を封筒に入れ、俺はそれを持ってギルドの受付へと向かった。
ここ商業ギルドには、前世の郵便システムによく似た仕組みがある。
だが、そこはやはり異世界。こちらでは「飛竜便」がその役割を担っている。
飛竜はこの世界ではかなり一般的な存在らしく、知能も非常に高い。人間の言葉をよく理解するため、確実な輸送手段として重宝されているようだ。
俺は専用の窓口で、実家への飛竜便を依頼した。
手数料として銀貨一枚が必要だが、安全に届けてもらうための必要経費だ。
惜しくはない。手紙とお金を預け、無事に発送の手続きを済ませた。
(……よし、これで一安心だな)
ちなみに、今回の入金はすべて俺が直接作った「カイトブランド」の売上だけだ。
まだ他社製のライセンス品は一台も世に出ていないため、三パーセントのロイヤリティ収入はまだ一銭も含まれていない。
自分で作った分だけでこれだけの額になるのだから、今後ライセンス品が普及し始めたら、一体どうなってしまうのか。
俺はすべての用事を済ませ、心地よい達成感とともに商業ギルドを後にした。
そもそも魔導基盤というものは、この世界ではそれほど需要がある代物じゃない。
だから、市場に多く出回っているわけでもなかった。
今は商業ギルドの力を借りて、かなりの数を優先的に仕入れてもらっている。
これからキングスの追加分を作るにしても、まったく新しいゲームを開発するにしても、これがないと始まらないからな。
さて、資金も確保したし、素材のルートも固めた。
次に俺が向かった先は――。
「一番良い装備を頼む!」
威勢よくそう言って、俺は熱気と槌の音が響く鍛冶屋ギルドの門を叩いた。
引き続き毎日朝9時更新になります。
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