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異世界に転生した元ゲーマーだけど娯楽がないのでゲーム作ります!  作者: なすちー


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15 商業ギルド副ギルドマスター

 ついに、待ちに待った日がやってきた。俺が心血を注いで作り上げた「最新型キングス」を、商業ギルドへ持ち込む日だ。


 事前の連絡はしっかりと済ませてある。

隣には、もちろんフラムにも同行してもらっている。


 彼女がいないと、この盤面はただの動かない板……ただのキングスに戻ってしまうからな。魔力供給役としてのフラムは、このプレゼンにおいて欠かせない相棒だ。


「カイト、そんなにガチガチになってどうしたのよ。あたしがついてるんだから、どっしり構えてなさい」


「……そうだな。わかってるよ」


 前世で多少のプレゼン経験があるとはいえ、やはり緊張するものはする。


 俺はカバンの中の重みを感じながら、商業ギルドの大きな看板を見上げる。


 予定より少し早く商業ギルドに到着し、受付に声をかけた。


「お待ちしておりました、カイト様。こちらへどうぞ」


 以前対応してくれた女性が、丁寧な仕草で奥へと案内してくれる。


 通されたのは、大きな扉の向こうにある応接室だった。

並んでいるソファや調度品はいかにも高価そうで、このギルドが持つ財力の凄まじさを物語っている。


「担当の者が参りますまで、少々お待ちください」


 そう言って紅茶とケーキが用意され、俺たちは促されるままにふかふかのソファに腰を下ろした。


「おいしいわね、これ!」


 横に座っているフラムは、緊張の「き」の字もなさそうだ。当然のような顔で、目の前のケーキをぱくぱくと食べている。


 この世界の細かいマナーはよく知らないが、出されたものを遠慮なくいただくのが正解……なのだろうか。

フラムの屈託のない食べっぷりを見ていると、案外これが普通なのかもしれないな。


 そうこうしているうちに扉が静かに開き、一人の男性が入ってきた。


 見た目は二十代の後半から三十代の前半といったところで、仕立ての良い服をスマートに着こなしている。


 俺は即座に席を立ち、丁寧な一礼とともに挨拶をした。

「初めまして。王立グランアステリア学園三年のカイトです。本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございます」

「同じく三年のフラムです。よろしくお願いします!」


 フラムも俺に合わせて、手元のケーキを飲み込んでから元気よく頭を下げた。


 入ってきた男性は、俺のあまりに折り目正しい挨拶に少しだけ目を丸くしたが、すぐににこやかな笑顔を浮かべた。


「そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ。はじめまして、商業ギルドで副ギルドマスターを務めております、カーセルと申します。こちらこそ、わざわざ足を運んでいただき感謝します。本日はよろしくお願いしますね」


 少し身構えていたが、物腰の柔らかい、かなりまともそうな人で安心した。


 それにしても、まさか副ギルドマスターが直々に顔を出すとは思わなかったな。

俺が持ち込んだ「新商品」への期待値が、想像以上に高いということだろうか。 


「早速ですが、お話に聞いていた『新しいキングス』を見せていただけますか? ぜひ、その目で確かめたい」


 カーセルさんが身を乗り出すようにして言った。


 もちろん、断る理由はない。俺はカバンから、自作の魔導基盤を組み込んだ特製のキングス盤を取り出した。


 まずは、これまでのキングスと何が違うのかを順を追って説明する。


 しかし何はともあれ、魔力を入れないことには始まらない。俺は隣のフラムに目配せをした。


「まっかせなさい!」

 フラムは元気よく応じると、盤面に手をかざして魔力を込めてくれた。

 

 淡い光が盤面に走り、システムが起動する。俺はそれを見計らって、この盤がいかに使いやすくなっているか、どんな新しい機能があるのかを熱を込めてアピールした。


「なるほど……。面白い、悪くないですね」

 カーセルさんは顎に手を当て、感心したように盤面を凝視している。


 そこで俺は、もしお時間があるのなら、実際にテストプレイをしてほしいと提案した。


「私はルールを熟知していますからね……。そうですね、少し待っていてください」

 カーセルさんは一度部屋を退出し、すぐに一人の女性を連れて戻ってきた。

 その人は、俺たちが最初にこのギルドを訪れたとき、案内をしてくれた受付の女性だった。


「彼女はミリーといいます。ミリーはキングスの経験がまったくないので、未経験者が触ってみてどう感じるかを聞くため連れてきました」


「よろしくお願いします、カイト様」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺はミリーさんに軽く頭を下げ、まずはキングスの基本的なルールを教えた。


 そして実際の駒の動かし方については、俺が自信を持って組み込んだ「アシスト機能」をフル活用して体験してもらうことにした。



 次に行ったのは、各機能の実演を交えた魔力耐久テストだ。


「これは『リプレイ機能』です。さっきの対局を最初から、あるいは特定の場面から振り返ることができます」

 俺が操作すると、盤上の駒がひとりでに動き出し、ミリーさんとカーセルさんの対局を再現し始めた。


「さらに、これが『CPU戦』。対戦相手がいない時でも、魔導基盤が思考して相手をしてくれます」

 一つ一つの機能を切り替えながら、実際に動かして見せていく。


 だが、こうして次々と機能を試しているうちに、盤面の魔力計は目に見えて減っていった。

(……やっぱり、これだけ機能を詰め込むと消費が激しいな)


 結局、すべての機能を説明し終えるまでに、フラムに何度か魔力充填をお願いすることになった。


「もう、結構な勢いで減っていくわね」

 フラムは文句を言いながらも、慣れた手つきで盤面に手をかざして魔力を注いでくれる。


 一通りの機能を実演できた満足感はあるものの、俺はこの「バッテリー問題」という大きな壁を、改めて突きつけられていた。


「確かに『魔力切れ』という点は、今後の改良が必要かもしれません。ですが、これは売れると断言しましょう」

 プロの商人にそう言ってもらえると、やはり自信に繋がる。


「事前の連絡でも伺っていましたが、販売形式は商業ギルドによる委託販売でよろしいのですね?」

「はい、それで構いません。俺は商人になりたいわけじゃないですから」


 俺がそう答えると、カーセルさんは満足そうに頷き、具体的な商談に入った。

「わかりました。では、手始めにどれくらい用意できそうですか?

 まずは一般仕様の通常品を十、貴族仕様の高級品を三。それから、王族に献上できるレベルの特級品を一つ……これくらい、準備できますか?」


(……おいおい、ちょっと待ってくれ)

 俺は内心で冷や汗をかいた。

 魔導基盤にプログラムを打ち込んで調整するだけなら、時間さえあれば可能だろう。

だが、俺ができるのはあくまで中身の『システム構築』までだ。


 王族仕様なんて、どんな高級な木材や宝石を使って盤を作るのか見当もつかない。

そもそも、俺は木工職人でも宝石細工師でもないし、そんな高価な素材を買い揃える資金なんて、今の俺にはどこにもないぞ。


「そうですね……魔導基盤の準備はできますが、仕様に合わせたキングス盤そのものを用意するのは難しいです。俺はまだ学生ですし、そんなツテも資金もありませんから」


 俺が正直に打ち明けると、カーセルさんは事もなげに頷いた。


「ええ、そこは承知していますよ。各種の盤はこちらで手配します。カイト様にお願いしたいのは、魔導基盤の調整と実機テストですね。それから……」

 カーセルさんは少し声を潜め、いたずらっぽく笑った。


「貴族向けや王族向けのモデルには、単に素材が良いだけでなく、何か『特別感』のある追加機能をつけていただきたいのです」


 なるほど、確かに。中身が通常版と全く同じで、ガワだけが豪華というのは、高い金を払う層には物足りないだろう。


(……って、さらっと言ったけど、王族に献上するのか? 大丈夫か、俺。よし、とにかく不具合だけは絶対に起きない『超安全仕様』にしよう。爆発なんて洒落にならないからな)


 俺が内心で冷や汗をかいていると、カーセルさんはさらに破格の条件を提示してきた。


「もちろん、仮に売れなかったとしても、こちらで用意した盤の費用を請求することはありません。売れた場合にのみ、利益から経費として差し引かせていただきます」


 それは、願ってもない申し出だった。売れ残ったら借金まみれにされるのでは……という不安があったが、これならリスクはほぼゼロだ。


 だが、あまりにも好条件すぎて、逆に少し怖くなる。

(本当にそれだけでいいのか? 何か裏があるんじゃ……)


 俺の視線に気づいたのか、カーセルさんは「ははは」と声を上げて笑った。


「そう勘ぐらないでください、カイト様。私たちが商人として、この商品は確実に売れると踏んでいるのは事実です。それに、カイト様はこのキングスだけで終わるような方ではないでしょう? 私たちは、将来を見越して良い関係を築いておきたいだけですよ」


 なるほど、さすがは副ギルドマスター。

今の利益だけでなく、俺という「開発者」の将来性に投資しているわけか。


「わかりました。では、その条件でお願いします。こちらも魔導基盤の調整、精一杯頑張らせてもらいます」

「はい、期待していますよ。こちらこそ、よろしくお願いします」


ふと気づけば、この商談の最中、フラムが一度も口を挟んでいないことに気づいた。

 どうしたのかと思って視線を向ければ、彼女はいつの間にかミリーさんと向かい合って、夢中でキングスをプレイしていた。


(いや、フラム。その猪突猛進な攻め方はやめろって……)

 あー、ほら。ミリーさんの騎士(ナイト)賢者(ワイズマン)が、しっかり後方に控えているじゃないか。

案の定、フラムの突っ込みすぎた駒が次々と削られていく。


 そんな二人の様子を見て、カーセルさんは満足そうに目を細めた。


「ほら、カイト様、見てください。あのように、キングスを触ったこともない人まで熱中させてしまう。もっと自信を持ってください」


 カーセルさんは穏やかに笑ってそう言ってくれた。


 もちろん、商人としての損得勘定で動いているのは確かだろうが、相手を乗せるのが上手い、根っからの「良い人」なのだろう。


「では、次に権利の話をしましょうか」


 カーセルさんの表情が、少しだけ引き締まる。


 開発者としての俺を守り、かつギルドとしての利益をどう確保するか。


 本当の商談は、ここからが本番のようだった。

引き続き毎日朝9時更新になります。

よろしくお願いします。

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