14 キングス
「自軍兵士を右に移動させます!」
栗色の髪をした小柄な少女、テラが元気よく駒を動かした。
「きたわね。じゃあ、アタシは魔法士をここに移動させるわ!」
赤髪のフラムが受けて立つように、自分の駒を前進させる。
「では、その魔法士を私の飛竜で取ります!」
「はあ!? なにするのよ! アタシの魔法士が……!」
二人は盤を挟んで向かい合い、熱心に『キングス』に興じている。
もちろん、これは俺が作った魔導基盤を組み込んだ最新型のキングスだ。
ちなみにテラは、これまで一度もキングスを触ったことがない初心者のはずだった。
それなのに、経験者のフラムを相手にかなりの接戦を演じている。
俺は、キングスの競技人口が少ない理由は、単純に「取っつきづらさ」にあると考えている。
ルール自体は、王を取られるか、王がどこに逃げても次に取られる状態になれば負け。さらに、王以外のすべての駒を失っても負け、という至ってシンプルなものだ。
だが、各駒がどう動けるのかを覚えるのがとにかく面倒で、それが初心者の壁になっている。
そこで俺は、魔導基盤にプログラムを組み込み、目で見て直感的にわかるアシスト機能を搭載した。
駒に指を触れると、その駒が移動できる範囲が「青い光」で浮かび上がる。
さらに、移動した先で相手の駒に取られるリスクがある場所は「黄色い光」で警告が出るようにした。
光が出ていない場所には物理的に動かせない仕様だ。
もちろん、これらの機能は任意でオフにできる。
さらに、自分の側の光は角度的に相手からは見えないようになっている。
これなら自分の手の内をさらさずに済むしバッチリだ。
「ええい、なんでそんなに動きがいいのよ!」
「ふふ、次はこっちですね」
ルールを知っているフラムはアシストをオフにしているが、初心者のテラはフル活用している。
経験者のフラムを相手にテラが互角以上に戦えているのを見て、俺は自分の狙いが正しかったことを確信した。
ちなみに、『キングス』は交互に手番が入れ替わる、よくあるボードゲームのルールだ。
この手のゲームはどうしても先攻が有利になりがちだが、キングスはそのあたりのバランス調整が面白い。
まず、ゲーム開始前に盤面の真ん中に仕切りが置かれ、お互いの手元が見えない状態になる。
この「準備時間」の間に、プレイヤーは決められた範囲内なら自軍の駒を好きなように配置できるのだ。
王の位置だけは固定だが、それ以外の駒をどう置くかは完全に自由だ。
準備が整って仕切りが外されると、ようやくお互いの陣形が公開される。
ここからがこのゲームの最大の特徴なのだが、後攻側は相手の配置を確認した後、最大で三手分まで自由に自軍の駒を入れ替えることができる。
相手の攻め筋を読んで守りを固めたり、逆に隙を突く配置に変えたりと、後出しで対策を立てられるわけだ。
これによって、先攻有利のバランスをうまく取っている。
なかなか理にかなった、戦術的な仕組みだと思う。
さらに俺は、前世のコンピュータゲームでは当たり前だった「CPU戦」のシステムも組み込んでみた。これなら対戦相手がいない時でも、一人で心ゆくまで練習することができる。
CPUが思考して操作するということは、つまり「駒の自動移動機能」も実装したということだ。
魔法の力で駒がスルスルと自律して動く様子は、作っておきながらなかなか壮観だと思う。
俺自身はガチなキングスプレイヤーというわけじゃない。
だから、今のプログラムでは難易度的な手応えはまだ薄いかもしれないが、そこは後々データを取って調整していけばいいだろう。
「なるほど、こう来るか……。ふむ、面白いな」
後ろの方では、試作機のテストプレイを引き受けてくれたクレイマン先生が、独り言を漏らしながらCPU戦に熱中している。
ところで、俺はクレイマン先生に対して、以前に魔導基盤を叩き割ってしまったことを誠心誠意謝罪した。
先生は怒るどころか、拍子抜けするほどあっさりと笑い飛ばしてくれた。
「なんだ、そんなことを気にしていたのかい。あはは、気にする必要はないよ」と
先生の話によれば、破損した魔導基盤や、使いすぎて魔力の通りが悪くなった基盤は、まとめて『錬金術ギルド』へと持ち込むのだという。
そこで再錬成という処理を施せば、素材を再利用して、新品同様の状態に戻すことができるらしい。
もちろん、それなりの手数料は払う必要がある。
だが、一から新品を買い直すよりはずっと安く済むそうだ。
なるほど、この世界にも「リサイクル」のような仕組みがあるんだなと俺は思った。
そうこう考えているうちに、どうやらテラとフラムの勝負が決したようだ。
「騎士で王を討ち取ります! キングアウトです!」
テラが弾んだ声で宣言し、青く光る移動範囲に沿って駒を力強く進めた。
テラに天性のセンスがあったのか、あるいはアシスト機能がよほど肌に合ったのか。
さっき初めてルールを知ったばかりとは思えないほど、彼女の指し筋は鋭かった。
一方で、負けた側の盤面を見て俺は思わず遠い目になった。
(フラムよ……お前、守りはどうしたんだ。全軍突撃でもさせていたのか?)
ちらりと覗き見たフラムの陣地は、もはや、がら空きという言葉すら生ぬるい状態だった。
「ぐぬぬぬ……! もう一回よ、もう一回!」
フラムが悔しそうに身を乗り出し、再戦を迫る。
「いいでしょう、受けて立ちます」
テラは余裕の笑みを浮かべて、トントンと駒を初期位置に戻し始めた。
相変わらずというか、なんだかんだで二人はすっかり意気投合しているようだ。俺が作った最新型キングスが、その仲を深める良いスパイスになっているのなら、開発者として嬉しいもんだな。
あとの機能としてとりあえず盛り込んだのは、対戦を振り返ることができる「リプレイ機能」と「残りの魔力残量を表示する機能」だ。
今の対戦でどう駒を動かしたのか、途中で止めながら確認できるようにした。
これなら、うまい人から「ここはこう動かしたほうがよかった」といったアドバイスをもらいやすいだろう。
もっとも、魔導基盤に書き込める魔導文字の量には限りがある。
今のところ、過去二戦分までのデータを記録するのが精いっぱいだが、ひとまずはこれで十分だろう。
魔力残量を表示する機能だが、これによって、あとどれくらいで魔力切れになるかを視覚的にわかるようにした。対戦のいいところで急に魔力が切れて、場がしらけてしまうのは一番の問題だからな。
(今の感じだと、魔力が満タンの状態でも三十分くらいしか持たないか……)
俺は盤面の端に表示されている小さな魔法ゲージを凝視する。
一戦に三十分以上かかることも珍しくない。
やはり魔力の持ち時間は、今後の大きな課題としてつきまといそうだ。
だが、初めての試作にしては、それなりの物が出来たのではないだろうか。
俺は、熱戦を終えた盤面を見つめながら、確かな手応えを感じていた。
これなら絶対商業ギルドの審査に通るだろう。フラム、テラ、先生……みんなに協力してもらってるんだ、絶対に売ってみせる!
そう決意した俺だった。
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