13 商業ギルドライセンス
もし仮に、俺が魔導基盤を使ったボードゲーム……とりあえずは馴染みのある『キングス』を作ったとして、それをどうやって売るかが問題だ。
別に商人になりたいわけじゃないからな。
委託販売や、権利関係の話を今のうちに聞いておく必要がある。
ついでに『商業ギルドライセンス』も、作れるなら作っておきたいところだ。
俺は受付ウンターの中から、空いている場所を見つけて女性に声をかけた。
「こんにちは。新商品……まだこの世界には無いと思う物を作って、販売したい場合はどうしたらいいですか?」
「こんにちは。そうですね、実物を見てみないとなんとも言えませんが、ご自身で店舗を持つ場合と、こちらで販売を委託する場合で手続きが異なりますね」
受付の女性は、プロらしい手慣れた様子で説明を続ける。
「販売委託の場合は、まずその商品をギルドが査定し、売れると判断されない限りは成立しません。ギルドの棚に置く以上、一定の基準はありますから」
「なるほど。まずは審査ってわけか」
「ええ。そして売れると判断されたら、具体的に販売期間や個数、各種手数料などを決めていくことになります。売れた分については翌月にまとめて『商業ギルドライセンス』に入金されますが……お客様は、ライセンスはお持ちですか?」
「いえ、持ってないです。できれば作りたいのですが」
「あたしも持ってないわね」
横からフラムが口を挟む。
「承知いたしました。こちらの商業ギルドライセンスですが、金銭の預かり機能がございまして、王都に限らず各地の商業ギルドで自由に出し入れが可能になります。そのため、作成の際には身分証のほかに、金貨一枚以上の預け入れをお願いしております。もちろん、商品を委託販売して、手数料を引いた売上額が金貨一枚を超えた場合も、そのままライセンスを作成することが可能です」
なるほど、キャッシュカード機能付きの銀行口座みたいなものか。
お金が絡む以上、それなりの信用が必要なのは当然だろう。
……しかし、今の俺の手持ちには金貨一枚なんてものはない。実に悲しい現実だ。
隣のフラムなら持っていそうだが、借りてまで作る必要もないだろう。
さすがの俺も、そこまでクズにはなりたくない。
「わかりやすい説明、ありがとうございます。まだその新商品は完成していないんですが、できた時はこちらに持ち込めばいいんですか?」
俺が再び質問すると、受付の女性はにこやかに頷いた。
「はい、それで構いません。ただ、専門の者が立ち会って査定いたしますので、事前になにを持ち込むかなどの連絡はいただきたいですね」
「わかりました。ありがとうございます、また来ます」
俺はそう言って礼を言い、今度こそ商業ギルドをあとにした。
「商業ギルドすごかったわね」
「そうだな」
俺はフラムの隣を歩きながら、さっきまで見て回った売り場を思い返した。
ギルドの中をくまなく見たが、俺が考えているようなゲームはどこにも置いていなかった。
これなら、きっといけるはずだ。
よし、帰ったらさっそくこの魔導基盤に、魔導文字を打ち込んでやるぞ。
そう心の中で強く意気込んだ、その時だった。
「さて、カイト。次は服を見て回るわよ」
フラムが当然のような顔をして、俺の腕を軽く引いた。
「いや、俺、早く帰って作業を……」
「なによ。アタシの買い物には付き合えないっていうの? アタシはカイトの用事に付き合ってあげたのに?」
フラムがじろりと俺を睨んでくる。
「うぐ……」
それを言われると弱い。なんやかんやフラムには色々と協力してもらっているのだ。
「はぁ……。わかったよ。付き合えばいいんだろ」
俺は小さくため息をつき、おとなしくフラムの後ろをついていくことにした。
しかし、女の買い物は長いとはよく言ったものだ。身をもってそれを知ることになった。
そもそもフラムは綺麗なのだから、正直どんな服だって似合うはずだ。
わざわざ俺に見せる必要なんてないだろうに、フラムは「ねえ、どっちがいいと思う?」と、しょっちゅう意見を求めてくる。
俺はそのたびに、「こっちの方がいいんじゃないか」「いや、そっちの方が似合うと思うぞ」と、自分なりに答えていた。
適当にあしらうのも悪いし、何よりフラムが楽しそうに服を合わせている姿を見ていると、無下にはできなかった。
そんなやり取りを何度も繰り返しているうちに、気づけば日は落ち、街はすっかり夕暮れの色に染まっていた。
買い物を終え、夕闇が迫る王都を二人で歩く。
「久しぶりに買い物できて、王都を回れて楽しかったわね」
フラムが満足げに微笑む。
俺は死ぬほど疲れたけどな。両手にはフラムが買った荷物がどっさりだし、自分の魔導基盤だって持っているんだ、こっちは。
「……そうだな」
なかば投げやりに、短い相槌を返す。
「それに、こんな美少女とデートできてカイトも良かったでしょ? これでも私、結構モテるのよ」
フラムがいたずらっぽく笑いながら、俺の顔を覗き込んできた。
そりゃあそうだろう。こいつは普通に、誰が見ても美女の部類に入るはずだ。
「そうだな。客観的に見ても綺麗だと思うぞ」
「そ、そう? ……ふふ、そうよね」
直球で答えると、フラムは少し意外そうに目を丸くしてから、照れくさそうに笑った。
何はともあれ、フラムの機嫌がいいのは助かる。こいつの機嫌を損ねると魔力の充填を頼みにくいし、これからこの世界にはないテーブルゲームを作るにあたって、フラムの協力は不可欠だからな。
だが、その前にやるべきことがある。まずは……クレイマン先生に基盤を割ったことを謝りに行こう。
俺は結局、学園の女子寮の前まで荷物持ちとして付き合うことになったのだった。
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