11 魔法使いでいいじゃん
商業ギルド。
一番街に立ち並ぶ建物の中でもひときわ巨大で、王都にあるすべてのギルドの中で最大の規模を誇る。
目印は、銀色の天秤が描かれた存在感ある看板だ。
天秤の片方の皿には金貨が詰まった袋が、もう片方には書物や巻物が載せられ、それらが寸分の狂いもなく釣り合っている。
ここは希少素材や専門アイテムの売買だけでなく、商品やアイデアの権利保護、さらには委託販売まで請け負う商売の総本山だ。
新規商会の設立手続きはもちろん、前世でいう銀行の役割も兼ねており、資金の預け入れや融資までも行っている。
「へえ、金とアイデアが同じ価値ってことか」
看板のデザインを見上げて、俺は小さく呟いた。
つまりここは、中央銀行と特許庁、さらには巨大な流通センターを合体させたような場所というわけだ。
俺の持ち込むゲームのアイデアも、あの銀の天秤に乗せるだけの価値があるはずだ。
俺たちは重厚な両開きの扉を押し開けて、中へと足を踏み入れた。
「へえ……ここが商業ギルドなのね。はじめて来たわ」
フラムが物珍しそうに、きょろきょろと辺りを見回す。
「ああ、俺もはじめてだ。まずは中を見て回ろう。特に魔導基盤の値段は確認しておきたいな」
商業ギルドの一階は、一般に広く開放されているようだ。
どうやら『商業ギルドライセンス』を持っていなくても、自由に入場して買い物ができる仕組みらしい。
吹き抜けになった高い天井の下、大理石の床には商談に励む商人や、目当ての品を探す客たちの足音が響いている。
俺たちはひとまず、一階に並ぶ専門アイテムの売り場を見て回ることにした。
並んでいるのは、希少な素材を使った武器や防具の数々だ。どれもこれも、見ているだけで高そうなのが伝わってくる。
ふと、俺は隣を歩くフラムに疑問を投げかけた。
「そういえばフラム。おまえ、魔法使いなのに杖とか持たないんだな?」
前のダンジョン研修のときも、こいつは手ぶらだった気がする。
「ははーん、カイトったら遅れてるわね」
フラムがにやりと笑う。なんだ、そのちょっとムカつく言い方は。
「今の魔法士の流行りは杖じゃなくて、この指輪なのよ」
フラムは右手を広げて見せてきた。人差し指には、綺麗な赤い宝石のついた指輪がはまっている。
「その指輪が杖の代わりなのか?」
「そうよ。杖って殴る武器にはなるけど、私たちの本職は魔法でしょ。持ち歩くのも面倒だし、今は魔力との相性がいい宝石を使った指輪が主流なのよ」
まあ、確かにそういうゲームもあったな。魔法使いが絶対に杖を持たなきゃいけない決まりなんてないし、自分が戦いやすいスタイルが一番だろう。
ちなみに俺個人としては、魔法使いの武器ならオーブや魔導書のほうが好みなんだけどな。単純に好みがそうってだけなんだけど。
歩きながら、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「それにしても、フラムは頑なに『魔法使い』って言わないよな」
「そうよ。魔法士ってのが、国が決めた正式な呼び方だしね。まあ、魔法使いでも意味は通じるけどさ。魔法士って言ったほうが、なんだかかっこいいじゃない」
フラムは胸を張って、自慢げに言い切った。
なるほど、その理屈はよくわかる。
メイジ、ウィザード、ウォーロック、ソーサラー……。前世のゲームでも、魔法を扱う職業の呼び方はたくさんあった。
それぞれに「学問として修めた者」とか「契約で力を得た者」みたいな細かい定義がある場合も多いが、結局は自分が一番しっくりくる呼び方を使うのが一番だ。
そのほうがセルフイメージも上がって、魔法の威力も上がりそうな気がする。いわゆる「形から入る」ってやつだ。
まあ、俺には魔法の才能なんてこれっぽっちもないけどな。
次にやってきたのは、これから俺が作ろうとしている娯楽、カードゲームやボードゲームが並ぶコーナーだ。
『キングス』一つとっても、一般向けの木製のものから、水晶のような光沢を放つ高級品まで、ピンからキリまで揃っている。
ただ、やはりこういう娯楽品の扱いは、他の実用品の売り場と比べると規模が小さいし、種類も少ない。
「うわあ……高いわね。これなんて大金貨五枚よ。確かに豪華だけどさ」
フラムが特別仕様のキングスを指差して、呆れたようにつぶやく。
大金貨五枚。前世の感覚で言えば、ざっと五十万円くらいか。
今の俺にとっては、どうあがいても手が届かないとんでもない大金だ。
だが、考えようによってはチャンスでもある。
こういう貴族向けの娯楽品を自作して、このギルドで売ることができれば、一気に大金持ちになれる可能性があるってことだ。
「よし、フラム。次は魔導基盤を見に行くぞ」
「はいはい、付き合うわよ。それにしてもどれくらいの値段なのかしらね」
俺はフラムを連れて、ゴーレムの専門道具が置かれている売り場へと向かったのだった。
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