14話 遠出しよう
博物館で私の部屋を整理していると、三枚のチケットが出てきた。
「なんだっけこれ……あ、華乃子のお父さんたちからもらったヤツだ」
確か、華乃子とそのお付きのお詫びとしてもらったんだっけ。
有効期限は書かれていないけど、早めに使っておいたほうがいいのかもしれない。というわけで、丁度三枚あるので巡先輩と怜太さんを誘ってみた。
「ほう、旅行か」
「で、行き先は?」
「それは……今から三人で考えようかなって」
すると、怜太さんが巡先輩の顔を見て呟いた。
「FK2で移動だけは勘弁してくれよ」
「おやおや、そんなに嫌かい?」
「あいつ足が硬ぇんだって」
「じゃあ私のルーミーで行きますか?」
「でもそれだと荷物がな……コンパクトカーだし」
「やっぱりボクのFK2が必要じゃないか!」
「ダメダメ、ダメダメ、ダメダダメダメ!!」
太鼓のリズムを刻みながら怜太さんが叫んだ。
「前に天井に頭をぶつけた経験でもあるんですか?」
「いや、違う。腰痛だ」
「え、その歳で」
怜太さん、見た目は若そうだけど。
「部活はしてたけどな、大学に入ってからほぼデスクワークなんだよ」
「……なら、ベタですけど『草津温泉』はどうですか? 温泉でリラックスしましょうよ」
「群馬県……かなで君はそこに行って何をしたいのかな? 温泉以外にもあるんだろう?」
巡先輩はお見通しか。
「榛名湖に行きたいです!」
「おま、山登りじゃねえか! それだと」
「やっっぱりボクのFK2の出番だ!!」
「こうなるんだよぉ~!!」
博物館から草津温泉までだいたい100キロほど。片道2時間半だ。
「やっぱり峠道は楽しいねぇ~!」
国道152号線に入ってから、巡先輩はずっとこんな調子だった。ドライバーはハイテンションなのに、FK2はおだやかに峠道を駆け抜けていく。
「な、何か前よりも乗り心地がいいな……逆に不安になるぞ」
怜太さんが言った通り、サスペンションの固さがノーマルよりも柔らかめだった。
「そりゃあそうさ! 友人に調整してもらったんだ」
「友人……ですか?」
「そう。彼女は赤色のヨタハチに乗っていてね、機械全般の修理を得意としている。ボクの115系も何度か見てもらったことがあるんだよ」
「へえ~」
白樺湖に近くなってくると、スポーツカーがちらほらと現れ始めた。目の前にはWRブルーの前期型VAB、後ろには湘南色のヴィヴィオ、スバル車に挟まれた。
「後ろのヴィヴィオ、なかなかのセンスだね」
「あれに乗る勇気……そんなに出ませんって」
「巡と同じなんじゃねえのか?」
「……少し寄り道をしてもいいかな?」
「ここで寄り道といえば……ビーナスラインですか?」
「そう。あのヴィヴィオのオーナーと話してみたいんだ」
「チェックインまでに間に合うのかよ?」
「ほら、ボクは時間のマネジメントが上手いから」
こうして、私たちを乗せたFK2はビーナスラインに寄り道していくことになった。
巡先輩とヴィヴィオのドライバーが意気投合して長く話しこんでしまった結果、群馬県に入ったのは夕方のことだった。
「熱くなりすぎだって」
「いや〜、電車方面でも詳しい人だったね! つい熱中してしまったよ!」
「二人とも、早速チェックインしちゃいましょう?」
今回選んだのは旅館で、そこそこ評価が高い場所だった。二ツ宮グループの旅館は何回か利用したことがあるけど、結構満足度が高めだった。
「予約していた翫です」
「少々お待ちください。...チケットはお持ちでしょうか?」
「はい、三枚です」
カバンからチケットを取り出すと、その部屋まで案内された。もちろん、怜太さんだけ別の部屋になっている。
「これでようやく、のんびりと過ごせる…」
と、エレベーター内で呟いていた。
私と巡先輩が泊まる部屋は二番目に良い部屋で、窓からは温泉の湯気が至る所で上がっているのが見えた。
「ザ・草津といった風景だねえ」
「長野じゃああんまり見られそうにないですよ」
「なあ、俺こんな広い部屋使っていいのか?」
怜太さんは右斜め前の部屋に泊まるけど、一人で使うにしてはかなり広い。
「なら私が」
「本当にやめてくださいこりごりです冗談じゃない」
怜太さんは言葉を区切らず、一息で言った。
「巡先輩、さすがにダメですよ。倫理観、倫理観」
「冗談だよ」
「冗談に聞こえないから怖えんだよ…」




