12話 211系
211系は1985年から1991年の間に製造された車両、要するに国鉄時代の車両である。直流1500Vで、最高速度は時速110キロ。高速化改造車やスーパーサルーン『ゆめじ』の場合は時速120キロも出せる。『ゆめじ』は元の面影がないけれど……。
111系や113系、115系といった陳腐化した近郊型車両から置き換えるために開発された。軽量なオールステンレスの車体、簡単で便利なボルスタレス台車、電機子チョッパ制御よりも安価に回生ブレーキが使用可能な界磁添加励磁制御、応答性が高い電気指令式ブレーキ、省エネルギーに配慮した新機軸……語りだすと止まらない。
界磁添加励磁制御というのは、直巻整流子電動機を使用しながら、界磁制御用電源を別に設けて界磁電流制御による回生ブレーキを行う鉄道車両の速度制御方式だ。自転車で例えるなら
・電動機=ペダルと後輪
・抵抗制御=ブレーキ
・添加励磁装置=電動アシスト
といったところだろうか。
ドアは片側に三か所という国鉄近郊形電車の基本的な構成ではあるが、両端にある出入口は少しだけ車端に寄せてある。
座席は0番台・1000番台がセミクロスシート、2000番台・3000番台・5000番台・6000番台は全てロングシートになっている。ロングシートの理由は『長距離通勤客の増加に伴う混雑に対応するため』らしい。
主電動機は713系向けに開発されたものを使用していて、120キロワットである。低回転域のトルクを381系よりも強化したうえ、別の近郊型車両よりも大きめの歯車比を採用した。16:83らしい。
定格速度は時速46.0キロで、113系・115系よりも時速6.5キロ低い。一方で、ユニットあたりの引張力は7,580重力キログラムとなっていて一割ほど強くなっている。
ちなみに、JR東による改造が行われた。例えば、0番台のグリーン車を寒冷地に転用するために改造したり、113系2階建てグリーン車の2形式が211系へ改造編入されたりだとか。他にもたくさんある。
「かなで、かなで!」
「ん、え、何?」
華乃子に呼ばれて我に帰った。もう結構奥まで進んできたみたいだった。
「かなで、すごいわね。あれだけ怖がらせる仕掛けがあったのに無反応だもの」
「そ、そんなにあった? 211系の資料読んでたから全然分からなかった」
「……鉄道ってそんなに面白いの?」
「ハマるハマらないは人によるけど、私からしたらものすご~く面白い。大学に通うのやめて、全国の鉄道路線を巡ってもいいんじゃないかなってくらいに」
「だ、大学はやめないで」
「え?」
急に華乃子が半泣き状態になった。
「気軽に話せる がいないのよ……」
「ご、ごめん、もう一回言ってもらっていい?」
「……気軽に話せる友達がいないの」
「あ~はいはいなるほど。……ごめんもう一回言って?」
「ぶっ飛ばすわよ!? 何回も言わせないで!」
「ここよ……一番印象に残ってるのは」
「つまりは一番怖かったと」
「違う」
目の前には厳かな雰囲気を醸し出している扉があった。立派な部屋なんだろうな。
そんなところが華乃子の印象に残っているのだから、私が耐えられるのだろうか。
ギギギギ……
「重っ。なにこれ」
「え、前はそんなに重くなかったのに……」
部屋の中は応接間で、高級そうなソファにテーブル、本が置かれていた。本当にここが怖い場所なんだろうか?
バタン、カチッ
背後の扉が勝手に閉まり、鍵がかかった音がした。
「く、来る……」
「なんか扉が閉まる音、重々しかったね。乗務員扉を閉める時みたいな音を想像してたよ」
「そんなこと言ってないで心の準備をしなさいよ!」
バサッ
「ひゃいっ!?」
「……」
私と華乃子は音がした方向を向いた。無音の部屋の中で、右隣にあった本棚から本が落ちた。
『Bible』
「……?」
「な、何あれ」
「分かんない」
そうして再び前を向いた。
目の前に異形の人物がいた。
「出たァァァ!!!」
華乃子の叫びは警笛並みにうるさかった。心臓に悪い。
そういえばさっき、華乃子は『所持品でぶっ飛ばすタイミングがある』って言ってたっけ……まさに今なんじゃ。
私はノートを丸め、最近イラついたことを思い浮かべた。
「エキスパート14なんてほぼマスターだろうがっ!!」
そして思いっきりフルスイングした。
「ブヘアッ」
異形は背中から本棚にぶち当たり、衝撃で崩れてきた本によって埋められた。フルコンボで大草原。
「お、鍵見っけ」
「か、鍵?」
「とりあえず差し込んでみようよ」
本の中から飛び出してきた金メッキの鍵を手に取り、扉の鍵穴に差し込んだ。軽い力で解錠され、私と華乃子は部屋から脱出した。
それ以降は華乃子が叫んでいたのは覚えてはいるけど、どんな内容だったかは印象に残らなかった。理由は単純。211系に気を取られていたからである。
そういえばさっきの異形、思いっきり声が漏れていたけど、まさか人形じゃなかった?
……あ~あ、私やっちゃった。




