第3話『凛奈、失踪事件を追う』
「……この村で、また“神隠し”が起きたって知ってた?」
そう呟いたのは、高校2年生の探偵――朴 凛奈。
黒髪に眼鏡、凛とした佇まい。
地元・茨城の高校に通いながら、探偵事務所を構え、週末は東京からの調査依頼にも応じる“JK探偵”である。
彼女が朝食の席で持ち出したその話題に、家族は一瞬手を止めた。
「神隠し……って、また昔の話じゃなくて?」
「うん。先週、こっちの山の上の集落で、中学生の男の子が消えたの。誰にも見られず、家からフッと消えたみたいに」
傑が腕を組む。
「事件か、事故か……それとも」
「“土地の記憶”だと思う」
凛奈の言葉に、信恵が苦笑する。
「また超常現象とか言い出すんじゃないの?」
「でも、ここにはあるんだよ。“人が消える道”って」
凛奈の目には、ただの高校生にはない“鋭さ”と“責任”が宿っていた。
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それから数日後。
凛奈は傑と共に、事件のあった村へと向かった。
案内してくれたのは、村の自治会長の星野という年配の男性だった。
「安川さん……まさか本当に来てくださるとは」
「いえ。家族が地元で暮らすようになってから、こういう話も他人事じゃないので」
「実はですね……凛奈さんが調べてくれたんです。“この村の古い地図”を。そこに、“消えた道”が載っていたんです」
それは、今は地図から消された、古い山道だった。
かつて戦中に使われた避難ルートであり、戦後も不法投棄や暴走族の拠点になった場所――
今では、地元でも“封印された道”として口にされない場所だった。
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その夜。
ゲストハウスに戻ると、凛奈の様子がいつもと違っていた。
「凛奈……お前、何か知ってるのか?」
傑の問いに、彼女は小さくうなずいた。
「……実は、私、失踪した男の子のSNSアカウントにだけアクセスできたの。
彼、最後の投稿でこう書いてた。“僕の兄も、この道で消えた。おばあちゃんには近づくなって言われた”」
「家族ぐるみで、何かを隠してるってことか」
「たぶん、これはただの迷子じゃない。“何かから逃げた”事件だよ」
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翌朝――
凛奈と傑は、“消えた道”の入口まで行く。
草むらをかき分けながら進むその途中、傑がぽつりと呟いた。
「凛奈……怖くないのか? お前、まだ17だぞ」
「……傑さんが現役でマウンドに立ってた時、世界中から期待とプレッシャーがかかってたでしょ?」
「まあ、確かにな」
「私は、あれをテレビで見て、こう思った。“ああ、背負うって、かっこいい”って」
傑が、わずかに笑った。
「……お前みたいな子が、うちにいてくれてよかったよ」
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その日の夕方。
傑と凛奈は、古い廃屋で一人の中学生の男の子を発見した。
驚くほど落ち着いていたその少年は、こう語った。
「僕は……兄の声が聞こえた気がしたんだ。昔、ここで“あの人たち”と何かあって、それから、誰もここに近づいちゃいけないって……」
“あの人たち”――
それはかつての不法集団であり、村の一部の人々が“見て見ぬふり”をしていた過去だった。
その闇を少年は直感的に感じ取り、姿を消したのだ。
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「……凛奈、怖くなかったか?」
帰りの車の中、傑が問う。
「ううん。だって私、家に帰ったら霧亜と祐美子がいるし、
ゲストハウスに帰ったら、いつも傑さんがご飯作ってるし」
「それ……俺が一番危なっかしいな」
2人は笑い合った。
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後日――
凛奈の活躍が、地元紙に掲載された。
「高校生探偵が村の失踪事件を解決!」という見出しが、MIRAI COTTAGEの食卓を彩った。
その記事を見ながら、成旼がひとこと。
「凛奈……あなたがいてくれて、本当に良かった」
凛奈は言った。
「私は、ただ――家族が心配しないように動いただけだよ」
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その夜。
縁側で、傑が独り言のように呟いた。
「俺もまだ、守れるものがあるんだな」
家族とは血ではなく、“誰かの居場所でいられるか”だ。
風が吹き、どこか遠くでホルンの練習音が響く。
それが、この家の“平和の証”だった。




