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第4話『霧亜と祐美子、未来を語る夜』



秋の風が、茨城の里山に静かに吹いていた。


夕焼けの中、霧亜きりあ祐美子ゆみこ、姉妹は縁側に座り、校庭で拾った銀杏の葉を並べていた。


「ねぇ、お姉ちゃんは……将来、何になりたいの?」


「んー、パパに勝つ人」


「それって……野球選手じゃなくて?」


「ううん。プロバスケ選手。日本代表になって、パパに“かっこいい!”って言わせたいの」


小さな妹の目が、まるくなる。


「わたしは……ホルン吹きながら、世界中の人に音を届けたい」


「それ、すっごくいいじゃん!」


姉妹は笑い合い、風に舞う葉を見上げた。



その夜、食卓で話題に上ったのは――2人の進路だった。


霧亜は現在、小学6年生。

地元の中学に進むつもりでいたが、最近、県外のバスケット強豪中学から特別枠での入学打診があった。


一方、祐美子は小学2年生ながら音楽的センスがずば抜けており、地元の中高一貫の音楽コースを持つ名門学校から“将来の特待枠”でのスカウトが届いていた。


成旼が、そっと傑に声をかける。


「……どうする? 霧亜も祐美子も、親元を離れる覚悟が必要かもしれないわ」


傑は黙って茶碗を置いた。


「そうだな……でも、“手放す”のとは違う。“背中を押す”んだ」



夜、霧亜が傑の部屋をノックした。


「パパ、ちょっと話せる?」


「もちろん。おいで」


傑の膝に座りながら、霧亜は真剣な顔をした。


「もし……わたしが遠くの中学行ったら、家のこと、寂しくなる?」


「なるな。めちゃくちゃ寂しい。でもな」


傑は、そっと娘の頭に手を置く。


「それ以上に、お前の夢が叶う瞬間を、近くで応援したい」


「……うん」


「だから、ちゃんと見せてくれ。“霧亜のドリブル”と“夢へのパス”を」



翌朝、祐美子もそっと母の袖を引いた。


「ママ……わたし、音楽学校行きたい。でも、友達と離れるのイヤ」


「そうね。祐美子は、ちゃんと人とのつながりを大切にする子だもの」


成旼は優しく微笑む。


「でもね、“音”には言葉がいらないの。祐美子の音が、新しいお友達を呼んでくれるよ」


「……そっか。じゃあ、わたし、パパの胴上げのときの曲、作る」


「えっ?」


「“さよならマウンド”って曲にするの。泣かない曲ね」



数日後――

家族会議の末、霧亜は県外のバスケ強豪中学へ。

祐美子は地域の名門音楽コースに進むことが決まった。


旅立ちの日。


傑と成旼は、朝の駅で2人を見送った。


「パパ、ちゃんと泣かないでね」


「泣かねぇよ」


そう言いながらも、目の奥は滲んでいた。


「行ってらっしゃい。胸張って、未来にパスを通してこい」


「うん!!」


列車が動き出す。

小さくなる娘たちの背中を見送りながら、傑はそっと拳を握った。


(もう一度、父としての勝負が始まる)



その夜。

ゲストハウスの中庭、焚き火を囲んで傑と成旼が寄り添っていた。


「子どもって、いつの間にか“巣立ち”の準備してたんだね」


「ああ……俺たちの方が準備できてなかったかもな」


「でも大丈夫。“帰る場所”は、ここにあるから」


パチパチと火が爆ぜる音が、2人の沈黙を包んだ。



家族が育ち、巣立ち、やがてまた還ってくる。

そんな未来を信じながら、

傑の心には、静かで確かな“プレイボール”の音が鳴っていた。



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