第2話『信恵と茉美、国境を越えたステージ』
――春。
茨城・下妻の「MIRAI COTTAGE」には、新しい風が吹いていた。
桜の並木道を歩く2人の女性――
1人は日本で躍進中の若手女優・朴 信恵。
そしてもう1人は、韓国のトップスター女優・龍雷神 茉美。
ふたりは今、同じ家で、同じ空気の中で、異なる道を進んでいた。
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「信恵、最近忙しそうだね」
「ええ。連ドラの撮影、舞台の稽古、それに来月は映画の主演で韓国行きもあるので…」
「それだけ活躍してるんだから当然よ。すごいよ、あなたは」
茉美はそう言いながらも、どこか言葉に“影”を落としていた。
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その日の夜。
成旼は台所で晩ご飯の支度をしながら、傑に小声で打ち明けた。
「……茉美、何か悩んでるみたい」
「俺も、気づいてた。なんか、張り詰めてるなって」
実は、茉美には“ある問題”が迫っていた。
韓国で主演予定だった大型連ドラ――だが、撮影直前に匿名掲示板で過去のプライベート写真が流出し、スキャンダル扱いされてしまったのだ。
写真は過去のもので問題はなかったが、
ネット上のバッシングと「イメージダウン」という圧力に、韓国側制作が放送を保留。
茉美の心は、張り詰めた糸のようにギリギリだった。
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「……私、演じることって、誰かのためになってるのかな」
縁側に腰かけた茉美は、傑にぽつりと打ち明けた。
「子どもたちに顔を見せるのが、怖くなる時があるの。SNSで叩かれて、過去を掘られて、“偽善者”だって言われて……」
傑は黙って聞いていた。
「俺もな、韓国で打たれた時、“外国人に期待しすぎた”って書かれたことがある。
でも――マウンドに立って投げた球だけは、嘘じゃなかったよ」
茉美がそっと顔を上げる。
「演じることも同じだ。
誰が何を言おうと、カメラの前のあなたが“本物”なら、それだけで救われる人がいる」
茉美の目に、光が戻り始めていた。
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一方その頃、信恵もまた、新たな壁に直面していた。
日本映画界では急速に評価が上がる一方、韓国では「なぜあの子が主役を?」という声もあり、
一部メディアでは“成旼の姪”という肩書ばかりが強調される始末だった。
ある夜、信恵は傑に言った。
「私、自分の名前だけで立てていると思ってました。だけど――“傑さんの姪”“茉美さんと一緒に住んでる”って言われるたびに、怖くなります」
傑は少しだけ考えて、ゆっくりと言葉を選んだ。
「信恵。人の後ろに立っても、自分の足で歩くことはできるんだよ」
「え……?」
「俺は、田中将大や大谷翔平、呉昇桓の背中を見て育った。でも、誰かの背中にくっついていただけじゃない。自分のマウンドを、自分の腕で勝ち取ったんだ」
「……私のステージも、自分で立てる?」
「もちろん。信恵は、もうとっくに“自分の名前”で勝負してるよ」
その夜、信恵は何かを吹っ切ったように、自室で台本を読み始めた。
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数週間後。
信恵は主演映画**『風を編む日』**で国内新人賞を受賞。
茉美もネットを逆手に取ったSNSライブ配信で見事に好感度を取り戻し、韓国ドラマの主演に返り咲いた。
彼女たちは、別々の国で、同じ時期に“再出発”を果たした。
「じゃ、行ってきます」
ゲストハウスの玄関口。
スーツケースを引きながら、信恵が笑う。
「次に帰ってくるときは、“日本と韓国をつなぐ女優”になってるかもしれませんよ?」
茉美も背後から手を振った。
「お互い、いつかレッドカーペットで再会しようね」
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縁側で見送る傑と成旼。
「信恵も茉美も、強くなったな」
「うん……スグルさんがいたからだよ。あの子たちの背中を、あなたが支えてくれた」
「いや、俺なんか――ただの、茨城のコーチだよ」
「でもね、世界で一番“温かいマウンド”だと思う」
2人の後ろで、霧亜と祐美子がホルンを吹き鳴らす。
静かな春の夜に、響き渡る未来の音。




