第60話 ドローン戦
人型ドローンはタワーから50メートル程離れたところで止まると、ぐるぐると周回を始めた。
その足元では黒く四角いメンテナンスハッチがタイルのように佇んでいる。
「よりによってあそこで待機するのか」
「どうやらあいつ、タワーからあまり離れる事は出来ないようだな……」
「こっちも近づけないですよ」
「どちらにしても、あのタワーの中に入らないと始まらんか」
ハンスは軽く毒づくと「別働隊にはその場で待機、被害がさらに出るようだったら撤退するよう伝えろ」とメガネの隊員に話した。
そして、隊員達を見渡してから、近くでAKを持っている小柄な若い女性隊員に目を付けると名前を聞いた。
「君の名前は?」
急に名前を聞かれた女性隊員はびっくりしたように答える。
「えっと、フォンです」
「よし、フォン。君とケイビーは今から俺とあのメンテナンスハッチに入る」
「え!?」
「僕も……ですか?」
名前を呼ばれて、二人は戸惑った。そんな大事な任務にまさか選ばれるとは思っていなかった。
「ああ、お前もだ。プレートの操作役とルリがいなきゃ扉も開かん」
プレートの上でルリも神妙な顔つきで聞いている。
「いいか、メンテナンスハッチからタワーに抜ける」
「あ、あの。なぜ……私なんですか? しかも3人だけって」
目を白黒させながら、フォンが聞く。
「小柄だからだ。通路が狭い。多人数じゃ動けん」
「身体が小さいのが理由で?」
ハンスは頷いた。
「最優先目標はタワー内のドローンの管制室だ。そこを制圧する」
「俺たちはどうする?」
ひげの男がハンスに聞く。
「残りの人員は人型ドローンの牽制だ。俺たちの援護も頼む。俺たちがハッチに入ったら一度引いてくれ」
「引くのか?」
「引いた後、警備ドローンの機能停止を確認したら、タワーに突入してくれ」
「わかった」
「それと、俺がいない間の指揮は頼む」
そっとヒゲに耳打ちすると、ヒゲは黙って頷いた。
「よし、準備はいいか? 俺たちはこのビルを回り込んだ反対側からハッチに近づく、牽制頼む」
全員が頷いた。ハンスたちはビルとビルの隙間に入っていった。
「俺たちは派手にやるぞ!」
ヒゲは叫ぶと、ビルの間を縫ってハンス達の反対側から人型ドローンの側面に攻撃を開始した。
数十人の放った銃弾が、雨のように人型ドローンに叩きつけられる。
銃弾をものともせず、金属音を響かせながら、三体の人型ドローンがヒゲたちへ突進してきた
「弾をものともしないのか!」
ヒゲ達は一瞬怯んだが、ドローンの後ろでハッチに向かって走るハンスが見えた。
「今、振り向かせるわけにいかん、5メートルの距離を維持しながら撃て撃て!」
ヒゲたちは、AKを撃ちながら後ろに下がった。
突然、後ろからバチッというスパークする音が鳴った。
振り向くと、最後尾の男が白目を剥いて倒れていた。
その背後。
いつの間に現れたのか、十機ほどの球形ドローンが無音で浮かんでいた。
「挟まれた!」
ヒゲが声を上げたと同時に、10機のドローンがバチッと光った。
正確に10人が麻痺して動かなくなった。
前からは人型ドローンがすぐ目の前に迫ってきている。
「全滅するぞ!」
誰かが叫ぶ。
ハッチの方を見ると、人型ドローンの向こうでハンス達がハッチを開くのに苦労している様子が見えた。
「あと一分でいい、ここで持たせろ。後ろの球形を撃ち落とせ!」
人型に向けた銃口を球形ドローンに向けるが、侵入者を捕捉したドローンはランダムに回避運動を重ねるので当たらない。
一機のドローンが攻撃のために一瞬動きを止めた。
その機を逃さず、ヒゲが球形ドローンの上部を撃ち抜くと、球形ドローンはピーッという異常発信音をさせながら、地面に転がった。
前方で銃を構えてい数人がうめいて倒れた。
一番近くに迫っていた人型ドローンがパラライザーを放ったのだ。いつの間にか前衛が攻撃範囲に入っていた。
「散開して球形を狙え! 俺たちがいるだけで人型の囮になれる」
散開するが、ドローンに追われてひとりまたひとりと倒れていく。
残りの2体の人型もすぐ目の前に迫って来ていた。
ヒゲはハッチの方に目をやった。ちょうどハンスたちがハッチの中に入るところだ。
「よし! 人型は相手にするな! 球形に集中しろ」
隊員に指示を出すと、ヒゲは球形ドローンをまた一機撃ち落とした。
「球形の後ろに回り込むように動け! 動きが止まったところを狙い撃て!」
人型ドローンに気を取られなくなった分、全体の動きが良くなった。
「数ではこっちが上だ、慌てなければ勝てる!」
球形ドローンを囲んだ隊員が次々と撃ち落としていった。
やがて静かになると、宙に浮いているものは一機もいなくなった。
ハッチを見ると、人型ドローンが戻っていたが、そこにハンスたちの姿はなかった。
「なんとか、中に入れたようだな……」
ひげは息を吐いた。
ハンスたちはメンテナンスハッチを開き中に入ると、人ひとりが通れるほどの穴をタラップで降りていった。
最小限に抑えられた照明は暗く、穴の底が見えない。
まるで地の底まで降りていくような感覚に囚われていた。




