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12 タローは文化なり

12 タローは文化なり


 客と話をしている。

「タローさん、いや、フルタさんだ。ごめんなさい」

「いいですよ。最近間違ってタローさんって呼ばれることが多くなって、いちいち気にしていたら話が進みませんから」

「ごめんなさいね。インターネットを見てもテレビを見ても、タローさんばかりだから。フルタさんの顔見たら反射的にタローさんって口に出てしまうのよ」

「気にしないでください。タローさんの方は超有名人ですからね」

「どこででもタローさんですよ。同じ顔ばかりですからね。みんな飽きないのですかね。いえ、決してフルタさんの顔を見て言っているわけじゃありませんから」

「そうですよね。タローさんなりにいろいろな体形をしていたり、服装をしていたり、肌の色もずいぶん違っていますから、一人多様性を演出して、それなりに飽きられないように工夫しているんじゃないですか」

「日本人の中でも、髪型の違うタローさんが登場して、リーゼントやアフロの髪型は受けましたね」

「口髭をはやしているタローも登場しましたね。その頃は、髭が似合っているからおまえもはやせよといわれたものです」

「近頃は、タローさんも日本を飛び出して、白人も黒人もみんなタローさんですからね。「タローを探せ」の初めの頃は、タローさんは日本人の専売特許だったんですけどね」

「タローが黒人の中で発見された時は、世界中が驚きましたからね。顔は黒いんですけど、よく見るとタローだったんですよね。びっくりですよ。黒人のタローがニューオーリンズの劇場でトランペットを吹いていたんですから。あれは世紀の大発見でしたね」

「私も女房から教えてもらった時は、ビックリしましたからね。あの発見があってからは、アフリカのマサイ族やピグミー族からもタローが発見され、ヨーロッパの白人からも続々とタローが発見されていきましたからね」

「もともと黄色人種のくせに、しっかりと黒人や白人の人種に溶け込んでいましたものね。全然違和感がありませんでしたよ」

「溶け込んでいるのは当然で、ただ顔をすげ替えただけですから」

「まあ、そうですけど。あれでワールドワイドになりましたね」

「でも、こんなに鼻の低い白人はいないと思いますけどね。肌の色はともかく鼻まで高くするとタローじゃなくなるんですかね」

「やっぱりタローの基本は崩しちゃあいけない、という不文律があるんじゃないですか。品質の保証ですよ。ISOを取得しているんじゃないですか。作者もいろいろと苦労があると思いますよ」

「そう言えば、初期の頃、インターネット上にタローもどきが頻繁に発見された時期がありましたね。あれ、作者の失敗作だったんですかね。作者もトライアンドエラーを重ねていたのかもしれませんね」

「これじゃまるで生物の進化と同じじゃないですか」

「こんな短期間にタローも急速なスピードで進化しているんだから、すごいことなんですね」

「そう言えば、ご存知ですか。一部の中国人がSNSで、「タローは中国起源だ」、と主張していることを」

「えっ、そうなんですか」

「かれらはすべての文化の起源が中国でないと許せないんじゃないですかね」

「わかる気がしますが、それにしてもそもそもタローは文化ですか?」

「もう立派な文化ですよ。タローが日本発祥なのは明白なのに、中国に乗っ取られようとしています。ある中国人はタローのモデルは自分の村の珍さんのおじいさんだと言い張っているそうですよ」

「じゃあ、そのおじいさんはタローとそっくりなんですか」

「いえ、おじいさんはすでに死んでいるので、似ていたかどうかわかりませんが、孫にあたる珍さんはどことなくタローに似ているそうですよ」

「タローは一年前に登場したんですよ。そんなに昔からいるわけがないでしょう。それにそのおじいさんの生存中にインターネットはありませんでしたよ」

「珍さんの地元では、タローの仮面を被って練り歩く祭りが昔からあったんだけれど、最近途絶えてしまったというんですね。それを今年から復活したというのですが、その仮面はどう見ても現代のタローをモデルに作られているはずですよ」

「祭りがあると言うんですか? なにか凄い話ですね」

「中国では他の話も飛び交っているんですよ。四千年前の墳墓からタローの遺体が発見された、ということをSNSに書き込んだ人もいるんです。発想が荒唐無稽ですが、ある意味、ロマンを感じさせますね」

「どうせなら、北京原人にまでさかのぼればいいんですけどね」

「そのうちそのような仮説も出てくるんじゃないですか」


                                    つづく

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