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11 人面魚

11 人面魚


 フルタはホソカワと話をしている。

「最近、おまえの顔が犬や猫に貼り付けられているらしいな」

「えっ、今度は人面動物かよ」

「鯉にも付けられていたのを見たよ」

「それ昔流行った人面魚と同じじゃん。山形県の鶴岡市の善宝寺という寺の池にいたんだろう。まだいるのかな?」

「そりゃあ、どうか知らないが、それよりはもっとリアルだろう。なにしろ本物の人の顔が張り付けてあるんだから」

「なにが楽しくて鯉に人の顔を貼り付けんだよ。鯉もディープラーニングをして いろいろな表情を作りだすのか? 表情は固定しているんじゃないのか。昔の人面魚の表情も固まっていたぜ」

「昔のことは知らないけれど、新しい人面魚も犬や猫に比べたら表情は乏しいらしいんだが、目玉が動くと微妙に表情が変化するらしいんだ。それがまたいいと言う奴がいるんだよな」

「そんな奴の趣味がしれないよ」

「そうそう。カブトムシやカメムシなんかの昆虫にもおまえの顔が合成されてたぞ。そうした虫をコレクションしている奴がイギリスにいるらしいんだ」

「カブトムシにおれの顔って、どんな顔しているんだよ」

「あとから見せてやるよ。なかなか笑えるぞ」

「やっぱりおれを笑い者にしているんじゃないか」

「いや、これはおまえじゃなくて、あくまでタローだから」

「ほかの奴にとってはタローかもしれないが、少なくともおまえにとってはフルタだろう」

「いいじゃないか。細かいこと言うなよ」

「細かくはないだろう。おれがカメムシになってるなんて恥ずかしくておふくろには言えないよ」

「前世の因果だと思って受け止めろよ」

「何言ってんだ。いくらなんでもカメムシにされるほど前世で悪いことしたとは思わないけどな」

「まあ、まあ、冷静になって。ちょっと言い過ぎたよ。しかし、これはしょせん遊びなんだから」

「この遊び、どこまでもエスカレートしていってるからな。それにしても、さすが博物学の国、イギリスだな。あいつらなんでも収集するからな。そのうち人面動物が大英博物館に陳列されるんじゃないのか」

「実体がないからな。まあ、コンピュータ上のバーチャル博物館に入るかもしれないな。時代は進んでいるから、国立のバーチャル博物館があってもいいものな。どうせなら大英仮想博物館ってのはどうだ。権威がありそうでいいだろう。その博物館におまえの顔が収蔵されたら名誉なことだぞ」

「なにが名誉なことか。博物館に入ってしまったら、永遠に残ってしまうんだぞ。末代までの恥だな。ご先祖様に申し訳ないよ」

「おれの見た中では、タコの顔におまえの顔が被せてあるのが最高だと思ったけどな」

「想像してみるだけでおぞましい。おれの顔で遊ぶんじゃないよ」

「あっ、思い出した。博物館に陳列されるかどうかは別として、子供用の絵本が出ているぞ。本のタイトルなんていったかな。そうだ「タロー君の動物図鑑」だ。色々な動物がタローの顔になっているやつ。本の中のQRコードでタロー動物の動画まで見れるんだぜ。なかなかいいアイデアだろう。ベストセラーだってよ」

「今じゃあ、タローで通っているけど、それはもともとおれの顔だぜ。かってに動物の顔にしやがって」

「白状すると、おれも「タロー君の動物図鑑」を買って楽しんだんだ。だけど、やっぱり人間の顔じゃないと豊かな表情ってものが生まれないんだ。それでも、子供用の絵本としてはなかなかよくできてるよ。子供の創造力を養うというか、動物が好きになるというか。そういう教育的なことに、おまえが貢献していると思うんだ」

「でも、金魚を見て、おれの顔を思い浮かべる子供が出てくるんだろう。情操教育としてそれはどうなんだろう」

「あっ、知ってるか」

「その知ってるか、という接頭語はやめてくれないか。どうせ知らないんだから」

「「タロー君の動物図鑑」の会社から3Dカメラが売り出されるそうなんだ。それこそ部屋の水槽の中で泳ぐ金魚を見たら、それがタローの顔になっているんだって。和むらしいぞ」

「それ気持ち悪いだろう」

「いや、癒されるそうなんだ。口から時々あぶくを吐くときの表情なんか最高らしいぜ」

「ああ、玩具にされて、おれは情けないよ」

「これは子供用というよりも独身者に受けているらしいけどな。意外と女性の購入者も多いらしいぜ」

「いったい何を見てんだよ。ペットの猫や犬か。おれが猫になっているのか。おれ、女性の膝の上でゴロニャンとにたついているのか。うわっ、エグ」

「だから、それはおまえじゃなくタローなんだから。おまえ、もう自分のことを忘れろよ」

「おまえ都合のいい時だけタローだって言ってるんじゃないのか。あれはおれの顔だろう。忘れられる訳ないじゃないか」

「でも、おれが教えなければ、おまえだって知らないで過ごしたんだろう。別におまえに何も迷惑かかっていないじゃないか。タローのおかげでお客さんと話す時に話題ができてプラスに作用しているだけなんだろう。最近、警察官が来て、犯人扱いされたのかよ」

「そう言えば静かだな。警察官、来ないな。防犯カメラにニセフルタは登場していないのかな」

「登場し過ぎててきっと相手にできないんだよ。それにそれはニセフルタではなく、タローだからな」

「そうか、防犯カメラに写っている奴はみんなタローになんだ。するともうおれは犯罪に巻き込まれることはなくなったんだ。アリバイを証明しなくてもよくなったのかもしれないな」

「すると、クララさんと同棲する理由はないんじゃないか」

「そうだな。互いに監視する必要はないな。クララさん、アパートを出ていくのかな」

「彼女、何か言ってたか」

「いや、今朝も普段と変わらなかったけどな。でも、初めの頃の緊張感はなくなったな」

「彼女が出ていく日は近づいているんじゃないのか」

「脅かさないでくれよ」

「一年一緒に住んでて何もないんだろう」

「何もないけどさ。だけど、ずっと一緒に住んでんだぜ。いなくなったら寂しいじゃないか」


                                 つづく

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