第八章 侵入者
第八章 侵入者
ミリュウは意外と早く『学びの塔』にやってきた。
ラジュエルがあの宿に送っていって十日目である。周りの学生に聞いてもそれはかなり早いほうだという。
女子学生はいることはいるが、数は少ないのでミリュウはみんなの注目を浴びた。
ラジュエルが彼女と知りあいだと知ると、出会いのきっかけから彼女の素性まで根掘り葉掘り聞き出したスティーノが、
「へええ。いいですねえ。狼があんな綺麗な子を連れてきてくれたんですか。いいなあ。僕も獣学をやっていればよかった」
あんまり羨ましがるので苦笑した。
「それはたまたまだよ。別に獣学とは関係ない」
「でもダッジオ師って、あれで奥さん結構美人らしいぜ」
別の学生が教えてくれる。
「ええっ! なんでなんですか! あんな野蛮人なのに」
「野蛮……まあ、否定しない」
「おまえが言っていいのか、ラジュエル。また厳しくなるぞ」
「うわあ、それは困る」
「男らしいって言えば男らしいのかもな。方向がちがうけど」
友人たちとこんなことを言って笑っていることが、実はばれているのだろうか。ばれたときの訓練の厳しさは今は想像しないことにする。
ミリュウは神官の娘だからか、とりわけ語学に堪能だった。
儀式のときにだけ使う特別な用語もそらんじていたし、王侯貴族や神職だけが使うテルミ語の読み書きもできる。
あるときは言葉学のトゥーリオ師がミリュウだけ特別に部屋に呼んで長く話し合っていたと、友人たちが話していた。
「ちくしょー、女の子はなんでトゥーリオ師にばっかり夢中になるんだ」
「ちょっとかわいいと思うとすぐトゥーリオ師にくっついてる」
「トゥーリオ師は結婚してるの?」
訊いてみると、たいてい誰かが知っている。
「それがしてないんだって。ずるいよなあ」
「ずるいずるい」
「そういえば、もうじき視察旅行でしばらくいなくなるんだってさ」
「このまま左遷されてしまえ」
言われてみれば、師匠たちはときどき半月ほどいないときがある。
それは『視察旅行』でいなくなっているのかと初めて知った。
都でないどこかの地方に、会わなければいけない人がいたり、事件があったりすると竜や馬に乗って遠くまで行くことがあるそうだ。
トゥーリオ師は嫌いではないが、そう思う気持ちも今はわかる。
ミリュウとは何を話していたのだろうか。勉強のこと? 魔法のこと? あるいはそれ以外だろうか。といってもどんなことを話すのか想像はつかない。
ただ、なんとなくもやもやとした気分が残る。友人たちの言うように、本当にトゥーリオ師がどこか遠くに行ってしまえばいいのにと考えている自分に気がついた。
なぜだろう。魔法防御の服を着るのは嬉しくはないがもう慣れた。
ミリュウのことが気になっているのだろうか。でも、彼女は早く魔法学をマスターして故郷に帰りたいだろう。そのためには師匠にしっかり教えを受けるのは必要なことにちがいない。
ぼうっとしていると講義をしているトゥーリオ師に、
「ラジュエル。眠いなら帰ってもいいんだよ」
言われて、教室中のみんなに笑われた。恥ずかしかったが、いい魔法使いになるためには自分もきちんと学ばないといけないのだと思い出す。
「いえ、大丈夫です。ちゃんと聞きます」
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