第六章 獣使い 其の一
第六章 獣使い
『白い火柱の儀式』のあと、ラジュエルを呼び出したのはダッジオだけではなかった。なんと『学びの塔』施設長のファードルから、翌日の午後呼び出しがあったのだ。
一人で来るようにと言われたので、不安に思いながらシャボン玉に乗ってふわふわとファードル師の部屋を訪れる。
師の部屋には、最初に『魔傷』を治してくれたケーファ師、植物学のアンジェニカ師、言葉使いのトゥーリオ師など数人の師匠が揃って、学生はラジュエル一人だったのでとても気後れした。
カディオルがいてくれたらこんな時、どういう風に振る舞ったらいいのかわかるのになと思いながら、たどたどしく
「失礼します」
と入口を一歩入ったところで足を止めた。
「来なさい」
招いたのはケーファ師だった。近づいていくと、
「傷を見せて」
と言われたので、ボタンをはずして傷を見せた。自分で見ても全く変わらないように見えるうっすらした傷をケーファ師は、ふうむ、と眼鏡を上げてゆっくり見据えると、また瓶の薬を塗った。その様子を緑使いが横から見ている。
「古い魔物ですね」
アンジェニカ師が眠くなるような声で言うと、ファードル師が白い眉をひそめた。
「ビルディラ州にはまだこんな魔物がおるのか。その魔物はしょっちゅう出るのかね」
「さあ、僕はその町に行くのは子供の時以来でしたし、魔物は初めて見ました。でも、その町にいた男が『見えない敵』と戦うんだというようなことを言っていました」
魔法使いたちはひそひそと声を落として彼らだけで話し始めた。あまりに静かなので、もしかしたら彼らは声に出さないで意志を伝え合うことができるのかもしれないとさえ思えた。言葉使いのトゥーリオ師の声だけがときどき聞き取れた。『アルダムド師』とか『力あるもの』とか言っているようだった。一度チェルザードという名前が聞こえた。あの隻眼の男のことも話しているのだ。
「ともかく君は今後このようなことがないようよく気をつけるように」
「はあ」
ファードル師に言われたが、何をどう気をつければいいのかよくわからない。
「傷の手当てをもっとしっかりやっておきましょう。私が処方します。後で私の部屋へ来なさい」
アンジェニカ師に優しい声でそう言われてようやく安心する。自分で何とかできることではないのだ。
シャボン玉でアンジェニカ師の部屋へ移動すると、師は窓を開けて何かを呼んだ。呼ぶ声は聞こえなかったが風の吹く感じ、彼女の遠くを見る視線で、何かに働きかけたのだと分かった。
窓のすぐ外にばさりと音がして何かが飛来した。




