第五章 学びの塔 其の一
第5章 学びの塔
高い塀に囲まれた町の中央に塔がそびえ立っている。門から塔までの間には広場があり、その周りには沢山の平屋や2,3階建ての建物、厩、厨房などがある。内側から見ると『喜びの門』は、なんの変哲もないただの石造りの門に見えた。
「おうい、新入りさんはこっちだよ!」
赤ら顔で陽気な顔をした小太りの中年男が、平屋建ての建物から歩いてくる。ついて行くと以前に『魔傷』を治してくれた老人が机に向かって何か書き物をしている部屋に来た。たしかオウムがケーファ師と呼んでいた。
「久しぶりじゃな。傷はその後大丈夫か」
「あっ、はい。すっかり忘れてました」
ふぉふぉとケーファ師は笑うとペンを一度置いた。
「ではもう誘惑はやってきておらんということじゃな」
「誘惑……。もしかして、あなたは僕が片目の男のことを思い出していることをおっしゃってるんですか?」
ケーファ師は片方の眉をきゅっと上げてラジュエルに鋭い視線を向けた。
「『荒野』をどう思うね」
「え? いえ、僕は『荒野』については、都に来てカディオルからはじめて聞いたんです。悪い奴らなんですよね?」
ふむ、とケーファ師は難しい顔をした。
「悪い、そうじゃな、今のところはそういう認識で構わんじゃろう。いずれ必要になればそれ以上の知識が入ることもあるが、『荒野』は悪いと思っておいた方がいい」
よくわからない言い方だった。だがそう言われて自分がまるで悪いことをしているのを見つかった子供のように感じているのに気がついた。後ろめたい気持ちで胸がどきどきする。
どうしてだろう。あの男に『荒野』は歓迎していると誘われたからだろうか。しかし、もう今となっては関係ないはずだ。それとも、自分がきっぱりと彼のことを忘れ去ってしまわないでいつまでも思い出しているからだろうか。
「何かあったのか?」
「ううん。もう過ぎたことだよ」
カディオルに答えながら、急に、この罪悪感は『荒野』にどこか心惹かれていたからだと気がついた。それがケーファ師の言う『悪いものを呼び寄せてしまう』ということだろうか。
「邪心は捨て去りなさい」
見透かすように言うケーファ師の言葉が、妙に恥ずかしかった。
「捨てているつもりです」
師は黙ってうなずいた。師とラジュエルをかわるがわる見比べていた赤ら顔の男は、師がこれ以上言葉を発しないのを見ると、
「宿泊所に案内しよう。こっちだ」
とまた二人を伴った。




