お姉様のお披露目会 1
第3王子と会ってからいくつか経った後、
お姉様のお披露目会当日がやってきた。
お姉様の大切な日の当日とあって、朝から侍女たちは大忙しである。
そう、ファルナー王国において貴族の子女のお披露目会であるデビュタントは子女たちにとって、とても大切な日だ。
…何故かというと、これから社会に出て1人の発言力のある女性となるような日だから。
ファルナー王国において、子女たちはデビュタントを終えてから一人前の女性となる。
…といっても、まだお姉様は13歳なので大人の庇護下にある存在ではあるが…。
発言力のある女性になる、という事は…きちんと考えて物言いをしなければならなくなる、ということである。
「すみません、失言でした。」と言って許されなくなる、というような事だ。
デビュタントを終えた子女は淑女となり、子供のような物言いはこれから許されなくなる。
そうして、晴れて淑女になってからファルナー学園中等部に入学することになっている。
名門ファルベルン公爵家の長女、ローゼのお披露目会ということでお偉いさんが沢山くるらしい。
…お偉いさん方が沢山くるらしいということで、お姉様は今朝から少しばかり緊張した面持ちで過ごしていらっしゃる。
「…お姉様、」
と声をかけると、お姉様はやはり強張った顔で笑顔を作って答えた。
「…なぁに、ライネ。」
「…お姉様、ライネがいます。お姉様のボディガードであり、絶対的なお姉様の味方である、このライネがいます。それに付け加えて、お姉様を溺愛しすぎてどうにかなってるアルフレッド殿下と心強いお父様だっていらっしゃいますから…!!
きっと!!!心配されることはありません!!
それに、今までマナー教育をしっかりと人一倍勉強して姿勢も美しく思わず見張ってしまうような教養を持つお姉様が失敗するとは思えません。
…ですから、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ、お姉様。」
どうにか、お姉様の緊張や心配事が減らせればいいと思いながらお姉様の手を握ってニッコリと笑う。
「…………ッッッ!!!!ライネ、貴方って子は…!!!!本当に………ッ!!!」
突如として口元を押さえて蹲ったお姉様。
えぇッ!!!何故ッッッ!?!?!?!?
「………ッッ!?!?!?!?お姉様!?!?どうなされたのですかっ!?!?!?」
蹲ってプルプルしているお姉様の背中を撫でて聞くと、
「ライネが、私の可愛い可愛いライネが、本当に天使だったッ…!!!!!!!!!はぁ、ライネ…!!!!私の天使ッッ!!!!!」
そんな声が聞こえてきたので、むっとして答える。
「聞き捨てなりません!天使なのはお姉様の方です!!!!!」
私がそういうと、お姉様はバッと起き上がって私の肩を掴んだ。
「いいえ!!!!真に天使なのはライネ、貴方よ…。あぁ、ライネ…私の天使。大好きよ。」
うっとりとした表情で私の頬に右手を当てて微笑むお姉様に私もうっとりした表情で「お姉様…私も、大好きです…誰よりも愛しております、お姉様…。」と呟く。私が呟いたそれに、笑顔で「相思相愛ね、私たち。」とお姉様は仰って下さって、もう、言葉では表せないほど嬉しかった。
「あぁ、お姉様…!!!!」
と私の頬にある右手にそっと自分の手を重ねるようにして当てながら、お姉様と私の2人だけの空間に入ろうとした時にそれは起こった。
「ローゼ、浮気は許さないよ♡」
「ライネ、お前、何やってんだよ!!」
そんな声が聞こえた次の瞬間、お姉様と私は引き剥がされた。
そう、その声を出した野郎2人組によってである。
憤慨しながら「放せっ!!!!」と声を上げて私の首の後ろを持っていた張本人、オーガを振り払う。
お姉様は、と探すとアルフレッドクソ野郎に壁ドンされながら言葉責めされてた。
なんか、ところどころの声が聞こえてくるんだが、「ローゼ、浮気をするような悪い子には何が必要かわかるかな?」とか、「そうそう、お仕置き♡」とかいうような甘ったるい声が聞こえるので、『お姉様に仇なす敵は全て討ち亡ぼす!!』とばかりにそちらに突撃すると、アルフレッドクソ野郎はチッと舌打ちしてサッと私の攻撃を避けた。
「なんで避けるのよ!!!!!!(怒)」
「あんな猪のような頭突きを食らったら、いくら私でも吹っ飛んでしまうだろう?
イノシシライネちゃん?」
「はぁ??????なんですって????」
と、ギャンギャン騒いでいると、
ガチャリとまた扉が開いてウォールが入ってきた。
「全く…。殿下達2人してローゼ様を呼びに行ってから帰ってこないと思えばまだここにいらっしゃったんですね…。
…ローゼ様。そろそろお着替えの時間ですので、移動なさって下さい。」
お姉様がハッとしたように急いでこの部屋から出て行った後、はぁ〜と溜息をついて眉間をほぐすウォールの近くに行く。
…日々、私たち(王子を含む)が起こす騒ぎの後始末に翻弄されるウォールは色々と疲れが溜まっているようだった。
「…ウォール、どんまい。」
思わずそう零すと、「本当に、誰のせいなんでしょうねぇ?」と冷笑された。本当にすまんかったからそんな目で見ないでください。