第3王子
パンツ事件から幾年か経ち、
お姉様がファルナー学園中等部に入学することになった。
それに伴って、ファルナー王国ではファルナー学園に入学する前に淑女はデビュタント、つまり、お披露目会をすることになる。
今日は、そのお姉様のデビュタントの打ち合わせをするためにお城に来ている。
お姉様は来て早々、お城でお父さんと王妃様と婚約者であるアルフレッド野郎と共に打ち合わせを始めて、
いつも絡んでくるオーガはちょうど勉強中でいないし、口煩いウォールも家に残って勉強中だ。
…つまり、私はボッチである。
王妃様とは初対面だったが、とても美しい人だった。
彼女の名前は「ロスタルシア・サースル」。
隣国サースル王国の長女で、見るものを魅了するようなとても美しい外見を持つが、性格はとても豪胆で過激。
つまり、外見詐欺である。
…しかし、我がファルナー王国現国王である「フラルド・ファルンツ」様はロスタルシア様のそんなところに惚れたのだという。
そんな王妃様は、私の挨拶にニッコリと笑って「よろしくね、可愛いライネちゃん♡」と握手して下さった。
…私も打ち合わせに入るつもりで私もついてきたが…完全にお邪魔虫だったので抜けてきたのだ。
だってさ、ドレスの色とか決めるのにアルフレッドが「君には僕の色を纏ってほしいな」とかいう小っ恥ずかしいセリフを並べまくって、それに赤面して頷きまくるお姉様。
そしてそれを微笑ましそうに見ているお父さんと王妃様。
もうだめだ、と思ったね…。
あれは、完全にお姉様とアルフレッドの2人の世界に入っていた、とだけ公言しておきます。
そんなわけで…ライネ11歳、ボッチでお城の中庭にある薔薇園を見ています。
ファルベルン家の薔薇園には劣るが、この薔薇園も素晴らしい出来である。
宮殿の中にあるということで、隅々まで丁寧に手入れされた美しい薔薇に誘われるように近づいてそっと触る。
「本当に、綺麗だな…」
思わずそう呟く。
そして、ボーッと眺めていると…どこからともなく泣き声が聞こえた。
「…?なに…?」
声が聞こえる方へ、薔薇のアーチをくぐり抜けて向かう。
そうすると、そこには美少年がいた。
少年の髪は薄い水色で、サラサラとしたその髪をボブにして切り揃えていた。
「(…?誰だ?)あの、大丈夫…?」
声をかけると少年はビクッと身体を竦ませて、恐る恐る、といったようにこちらを見た。
淡い水色の目から雫が次から次へとこぼれ落ちる。
「だ、だいじょうぶ…だか、ら…うっく、ひっ…あぅ…うっ…ひぅう…。」
「うん、大丈夫じゃないね。
・・・・・・胸、貸したげるから思う存分泣いていいよ。」
初めはハンカチを貸してあげようと思いポケットをまさぐってみたのだが、どうやら私はハンカチをどこかに置き忘れてしまったらしい・・・。
しょうがないので私の胸に少年の顔を押し付ける。
すると、少年はグリグリと顔を私の胸元に押し付けて泣き始めた。
…私の今日の服装はシャツにネクタイとベストと、それに黒スカートといったようなシンプルな服装だ。
ドレスは着ていないので、少年の顔が何か凹凸に引っかかって痛くなることはない、はずだ。
♢♢♢
やっと泣き止んだ少年は、ポツポツと自己紹介を始めた。
…なんと、この少年は第3王子であったようだ…まじか…。
「洋服、ダメにしてしまって、ごめんなさい…。
そして、ありがとう。
…お姉さんとは、はじめまして…だよね…?
僕の名前はエルンス。一応、第3王子です。」
「どうも、丁寧にありがとうございます。
私の名前はライネ・ファルベルン。
ファルベルン家の次女でございます。
エルンス王子だとは知らず、数々の言動…大変申し訳ありません。」
恐縮すると、彼はブンブンと頭を振って「大丈夫です!僕は全然社交界に出ていないから知らないのも当然だと思いますから。」と言った。
「いえ…それでも、です。私が失礼なことをした事実は本当ですから…ですが、慈悲を下さりありがとうございます。」
と頭を下げて告げると、彼は悩ましげにこちらを見た。
「あの…ファルベルン家って、アルフレッド兄様の婚約者であるローゼ嬢がいらっしゃる家ですし…。
そんなに畏まらなくていいですよ…?
それに、オーガ兄様とも仲が良いらしいじゃないですか…。
ですから、その、先ほどのようにもっとくだけて話していただけると、嬉しいです…。」
そう言って上目遣いでこちらを見た。
かわいい。
「…そうですか、それでは…エルンス、よろしくね。」
「…!!はい、ライネ姉様。」
エルンスはそう言ってふにゃりと笑った。
♢♢♢
それから少しばかり下らない話をした後、気になっていたことを言ってみた。
「…ところで、どうしてあんな所で泣いていたの…?
あ、いや、言いたくないんなら言わなくてもいいんだけど…少し、気になって…。」
私がそういうと、エルンスは下を向いてポツリ、ポツリと喋りはじめた。
「…あの、僕のこの髪と目の色をみて、どう思いますか…?」
「どうって…水色…?ですよね?」
「えぇ、そうですね…水色です。
……僕は、この水色が嫌いなんです。」
「それはまた、どうして…。」
「…兄妹の中で、僕だけが水色の髪を持っているんです。
そう、僕、1人だけ。
1人だけこの水色を持っているということだけで、色々と好奇の目に晒される。
…それが、なによりも苦痛で…。
僕の水色はきっと、他国から嫁いできたお母様の水色を受け継いでいるんです…。
最初は僕だって、兄妹の中で1人だけ持っている髪色だから単純に嬉しいと思っていました。
だけど…沢山の好奇に晒されて、1人だけ色が違うということで誹謗中傷を書かれて…僕は、もう、うんざりなんです。
この髪も、この、目の色も…。
兄様と違う、薄い空色の目の色はお母様も持っていません。
お母様の血筋の隔世遺伝だと、医者は言っていました。
…もう、嫌なんです。
王家で、金髪でないのはおかしい…と、僕は王家の血筋が入っていないのだろう、と言われることが辛くて…。
今日は、僕の信頼していた侍女がコソコソと僕の目の色と髪色はおかしいと、言っていたのを聞いてしまいました…。
もう、僕は…耐えられないんです…。」
そう言って、虚ろな顔をしたエルンス。
…確かに、ファルンツ家の血統であることを示す「金髪」はとても重用されることは事実だ。
けれど、エルンスは水色の髪を持って生まれた。
それをおちょくられてしまったのだろう…。
…だがしかし、エルンスの水色の髪は決して悪いものではないはずだ。
「エルンス、こんなの慰めにもならないだろうけど聞いてほしい。
…あなたのお兄さんであるアルフレッドやオーガは金髪でしょ?
ファルナー王国にとって金髪は王家に近しい存在、または王家にしか持たないモノだけど…。
だけどね、貴方のその髪は特別なものだよ。
だって貴方のお母様である、ロスタルシア様の母国であるサースル国では「水色の髪」こそがサースル国の王族の血統を示すものだもの。」
そう、サースル王国での王族の血統を示すのはまさしく「水色の髪」なのだ。
ファルナー王国とサースル王国の同盟を固くするための婚約であった、ファルナー王国現国王様とサースル王国長女であるロスタルシア様の婚約、ないし結婚において、両国の血統を目に見えて示す子はとても重要な役割を果たす。
…第2王子が生まれても、その子が金髪だったことには王妃様と国王様は焦ったらしい。
ちなみになぜそんなことを知っているのかというと、前にファルベルン家の資料室に行った時に見た「サースル王国の歴史・特色」という本に載っていたからである。
国王様と王妃様が焦った時の話はお父さんから聞いた。
……そのようなことを続けざまに言えば、彼は「僕の髪が、この国の役に立つ…?そんなに、特別なの…?」と、ポツリと言ったので大きく頷く。
「うん。それはもう。
めちゃくちゃ重要な役割を果たしているよ。事実として国王様と王妃様はエルンスが生まれて、物凄くホッとしたらしいし。
…だから、そんなに自分の髪を疎ましく思わないでさ…もっと胸を張って堂々とこの髪を見せつけてやればいいよ。
侍女のいうことなんて気にしなくていい…って言っても無理だと思うけど…。
まぁ、気を強く持って堂々としてな!」
そう言ってエルンスの背中をバシンッと叩いてやる。
すると、「ちょ、痛いよ、ライネ姉様!」と苦言を上げながらも憑き物が取れたように笑みを浮かべたエルンスを見て、私も晴れやかな気持ちになったのである。
その日から、エルンスはお城に行くたびに「ライネ姉様!」と、笑顔で出迎えてくれるようになった。
第3王子に懐かれたようですな…。
オーガはそれを見て、「おい、お前エルンスに何したんだ…?」と聞いてきたぐらいだ。それに、「あー、ちょっとね。」とはぐらかせば、オーガはふくれっ面になって「俺に言えないことかよ…お前の1番は俺だろ?」と言ってきたので「は?私の1番はお姉様だけど?」と言い返してやったら溜息をつかれてしまった。解せない。




