悪妻を目指したら毒殺されそうになりました/何が起きているんだ?
★アイネ毒殺未遂事件直前、フィン・ライリー視点になります。
その日ぼくは、年末開催の王宮舞踏会と晩餐会の席順を決めるという会合でかなり疲れていた。ほとんどの貴族が参加するというのに、ライリー家当主は来そうもない。父の社交嫌いにも困ったものだ。
正直、同じ年の義母に会うのも気が引けるというのはある。
今年はアイネを同伴しなければならないだろう。
――母が生きていたなら――ぼくは『母』という存在を知らないのだ。
そんなことを考えながら屋敷に戻ると、メイド長のモリーが気まずそうにぼくに話しかけた。
「旦那様、少々お話が……」
何事だろう?
そういえばこのところアイネはぼくの帰りを迎えない。
どことなく不貞腐れているので、扱いに困っている。
少し――寂しいな。
屈託のない妻の微笑みを思い出し、フッとニヤけた。
「何だ、メイド長。今日は王宮の仕事があったから疲れているんだ。言いたいことがあるのなら手短に頼むよ」
「お疲れのところ誠に申し訳ありません……若奥様のことなのですが……こんなことを申し上げるのは心苦しいのですが……最近様子がおかしいのではありませんでしょうか。無意味な外出が多いですし、お金使いも荒くはありませんか?」
もちろんそんなことは知っている。
アイネの動向については執事、最近では内緒で着けている護衛からの報告がある。護衛についてはぼくと執事しか知らないし、知らせる必要もない。
屋敷内での出来事については全て把握しているつもりだ。
それに彼女が使う金額などたかが知れているし、ほんのはした金だ。ぼくの妻は無駄遣いできない性格をしている。家計をよく理解している、ぼく以外の男に目移りをしない、出しゃばることもしない良妻なのだ。
金遣いが荒い面倒な女性など妻にするわけがない。
ぼくの隣で可憐に微笑むアイネは理想の妻なのだ。
「何を言っている、アイネの買い物など可愛いものだ。購入したアクセサリーは安物、あとは雑貨。服や小物は既製品。観劇やコンサートへはぼくが取り仕切った」
「し、しかし……伯爵家の奥様が毎日外出など、外聞が悪うございませんか?」
「そのうち飽きるよ、元々そんな活発な性格ではないから。田舎から首都に出て来たから街へ外出することが新鮮なんだろう」
王宮主催の舞踏会に参加するまでは領地から出たことがなかったアイネは、超が付く箱入り娘だ。都会に来たから目移りもするだろうし、いろいろ珍しいんだろう。
「し、しかし……先日のお茶会へはかなり露出の多い、相応しくないドレスで参加したそうではないですか」
「それは……お茶会に慣れていないからだろう。とにかく、そんな他愛もないことで妻を非難するんじゃない」
「ですがここのところ晩餐のメニューやアフタヌーンティーのお菓子にも文句を言われまして……」
「食生活は大事だ。体の細いアイネに合うメニューを考えてもいいんじゃないのか? 今後そのようなことを言ったら減給の対象にするから、そのつもりで仕事をするように」
「も、申し訳ありません……」
あぁ、イライラする。
たかが使用人が伯爵家の奥方を批判するなどあってはならない。よくない傾向だ。
いつからこんなことに?
些細な事のように見えた問題。
いや、問題にすらならないと思っていた。アイネは結婚後ずっと屋敷にこもっていたから――あえてそうさせていたこともあるが――外の世界に興味を持ったんだろうと。
だがそれにも限度がある。
そろそろ外出を止めさせ、理想の妻に戻ってもらわなければ。
このことをもっと重要視していればよかったと気付いたときには遅かった。
そんな矢先、あの陰惨な事件が起きたのだった!
※
「キャーッ、わ、若奥様! 若奥様が!」
「奥様は毒を……」
「あぁ、アイネ……」
二十代半ばにして、やっと見つけた理想の唯一。
妻が死んでしまうなどということなど、あってはならないのに……なぜこんなことに……。
☆ ☆ ☆
【ということで、プロローグに戻る】
★時系列としては、このあとプロローグ→20話になります。
★フィン・ライリー(アイネに自分の理想を押し付けているモテクズ男)の華麗なる世界崩壊の予感がします。
★土地や財産を失って没落しても、貴族籍を返上しなければ(もしくは国家への反逆を行うなどして剥奪されなければ)貴族の称号は残るのだそうです(ネット調べです)。
★参考にした背景は産業革命などにより貴族が没落しはじめた時代です。




