悪妻を目指したら毒殺されそうになりました/お前を痛めつけて石女にしてやる!
★アイネ毒殺未遂事件前夜です。別邸視点です。
「最近ライリー様が来なくなったわ!」
別邸では、ダフネという愛人の一人が苛立ちを抑えられずにいた。この日もダフネはフィン・ライリーのために隅から隅まで脱毛しているところだった。
ニール男爵家の姫――ダフネは子爵家次男で海軍士官の婚約者からそう呼ばれ、年末には結婚するはずだった。何もかもが輝いていたはずだった。
けれども男爵家没落と同時に婚約者は去って行った――。
(あんな男、こっちから願い下げよ!)
ミケーレの婚約者も去って行ったが、そもそもミケーレは男にも結婚にもあまり興味がない。日々の暮らしが良ければそれで満足していた。
「だったら何なの、ダフネ?」
「十日以上も別邸に来ないなんて。今まではどちらかを抱いて好き勝手に楽しんでいたくせに! どういうこと!?」
「忙しいんじゃないの?
このブリオッシュ、美味しいわ。朝からカフェオレを飲めるのも嬉しい。実家が没落してからは低級な黒パンしか食べられなかったから――素敵なドレスも用意してもらえるし――贅沢な暮らしができるのも、ライリー様のおかげね。日中はこうして刺繍や編み物をしていられるもの。次の生活も楽だといいけれど、フフッ」
フン!
おっとりしたミケーレだから何も気にしてないのね。まぁ、男に淡白なミケーレだから仕方ないか。
「きっとあの小娘のせいよ!」
「欲求不満なのね、ダフネ。自分で慰めたら? 夜は気兼ねなくぐっすり眠れるからわたしは歓迎だけど」
「だって悔しいじゃない。本当ならわたしがライリー様の妻になっていたはずなのに!」
「ニール男爵家がお金に困っていたときライリー様に言われたわよね、保護はするけれど妻にはできないって。いずれ落ち着き先を見つけてくれるって」
「あんなこと言いながら、わたしたちを愛人同様にしたくせに……」
「それはダフネが迫ったから……」
「わたしのせいだって言うの!?」
「違うの? できれば子供を産んでほしいとは言われたけれど、わたしはそんな気はない。だってその子はあの奥様の子になるんでしょう? それに、わたしたちが愛されているなんて思ってるの? おめでたいわね」
「アリッサから聞いてるわ、あの二人、寝室はいつも別なんだって。初夜だってなかったそうよ」
「ねえダフネ、ライリー様は、わたしたちに対して好きとか愛しているとか、一度も言ったことなんてないのよ」
「それは……そうかもしれないけど」
あんな子供が妻ですって?
本当のライリー様を知らないくせに、笑っちゃうわ。男なんて全然知らないんじゃない?
死ぬまで男を知らない、お飾りだけの哀れな子。
「ねぇダフネ、わたしもう愛人はやめようと思うの」
「何言ってるの、ミケーレ」
「だって本妻が来たんだもの。わたしたちはもう必要ないんじゃない?」
「大丈夫、そんなことにはならないわ」
「断言できるの?」
「あの人は後継者が欲しいのよ。あの年で子供が一人もいないのよ? 本妻よりも先にわたしたちが子供を産めばいいの。そうすれば妻になれるかもしれない」
「でも……わたしは子供よりも安定した将来がほしい。ニール男爵家は没落しただけだから、わたしたちはまだ貴族だし。後妻でも何でもいい、早く紹介してくれないかしら。そのうち落ち着き先を見つけてくれるって言ってたのに。貴族が難しかったら準男爵家とか地主でもいい……軍の士官や医官でも構わないわ」
「それならミケーレはそうすればいいじゃない」
――わたしの方が先にライリー様に見初められたのに、あとからボーッとした頭の悪そうな小娘がフラフラやって来て『妻』だなんて、笑わせるわ!
わたしはパーティーでライリー様に声をかけられたのよ。わたしの方が美しいし、体だって素晴らしいわ。ミケーレだって、わたしほどではないもの――。
とにかくわたしが一番なのよ!
フィンを悦ばせられるのはわたししかいない。わたしがフィンの妻になれるはずなのよ!
「少し懲らしめてやるわ、一生子供を産めないようにしてやる!」
「だめよ、そんなことやめて!」
「ジギタリスの花を絞ってシュガーに混ぜたものをアリッサに渡すわ。最近流行しているダイエット用のシュガーを手に入れたから、ぜひ奥様のティーに入れてと言えばいい。あの女を痛めつけてやる!」
「そんなものどこで見つけたの!? というか、よくそんな毒草知ってたわね」
「森の隅に自生してたわ。少量だから誰にも分かるはずない」
「そんなこと言っても騙せるわけがない」
「アリッサは馬鹿だから見分けなんてつかないわよ」
「ダフネ……それは犯罪よ……お願いだからやめて……怖いわ」
「ミケーレも共犯だからね!」
「そ、そんな……」
「明日から二日間、アンとかいうあの小娘の侍女が休暇をもらうってアリッサから聞いてる。そのときがチャンスよ!」
★何事にも完璧なはずのフィン・ライリー。挙動不審な二十一世紀的アホの子アイネに翻弄され、ウッカリなチェック漏れからの悲劇が。




