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18 少女は戦場に向う

 校舎裏の人気のない温室に続く裏道を、真ん中に私、右に美紅、左に珠ちゃんと3人並んで歩いていた。

 放課後、美紅のおかけで会長と話し合う事になったが、私的には宇宙人とのファーストコンタクトに向う気分。


 「絶対に話が通じないよ美紅……」

 「してもいないのに結論を出すのは早計よ」

 「でもさ、私は中庭でちゃんと謝ったんだよ。それなのに追いかけ回すって頭おかしくないか」

 「もしかしたら瑠璃ちゃんを好きになった……とか?」


 何故か付いて来た珠ちゃんがとんでもない発言をする。

 それにあの態度の何処に愛がある??


 「有り得ないわね」


 私の代わりに速攻で美紅が否定してくれるが、他人にされると何故かムッとしてしまうのは何故だろう?


 「そうかな…、でもBLとか乙女ゲーでも生徒会の逆ハーってよくあるよ」

 「珠ちゃん、そんな厨二病的発想は現実的に起こる確率はほぼゼロよ。そもそもハイスペックな美形が揃った生徒会なんて現実味が無いわ」

 「でも桜花の生徒会は全員美形だよ。何気に王道生徒会だし!」


 珍しく珠ちゃんが興奮して突っ込む。


 「その全員が瑠璃に恋すると言うの? 冷静に考えても瑠璃に、そこまでの魅力は見つけられるかしら」


 美紅の目が私を見定めるので、さり気無く美脚をアピールしたくなる。

 

 「全員はないだろうけど、会長様が瑠璃ちゃんに拘る理由が他に思い当らないよ」


 私をそっちのけで論じ始める二人。


 「う……ん、確かに人は自分ないモノを恋愛相手に求める場合があるわね。何かの本で読んだけど、違う遺伝子をもつ相手同士が交配した方が、よりよい遺伝子が残せるから、本能的に自分とは正反対の異性に惹かれるらしいわ。特に人間がそれぞれ持つ固有の香りが「良い香り」と感じる相手が遺伝子的レベルで相性が良いと言う説があるの」

 「つまり、会長様は瑠璃ちゃんから発せられる香りに惹かれてるって事?」


 それって私の体臭って事?

 思わず嗅いでみた。


 「一つの仮説よ。ただ人間の嗜好は単一じゃない。特に、この情報過多の時代に更に細分化され千差万別になっていると思うの。そう考えれば会長の趣味が瑠璃だと否定はできないわね」

 「そうでしょ! 瑠璃ちゃんが男の子なら夢のカップリングなんだけどな……」


 夢見る腐女子になる珠ちゃん。

 その目には私が性転換しており、俺様生徒会長×平凡の妄想が繰り広げられている気がした。


 「美紅、地味に私を貶めてないかい。それに珠ちゃんまで私をネタにして妄想しないでよ~」


 「ごめんね…瑠璃ちゃん」

 「だけど会長が瑠璃に恋愛的に興味があるなら、結構厄介な事態かもしれない」


 珠ちゃんは素直に謝ってくれるが、美紅はスルー。


 「ない、ない、それは絶対にない。 それに、私にだって選ぶ権利はある! あんな顔だけの自己中な俺様は、絶対に御免こうむる」


 あんなの彼氏だとストレスで胃に穴が開くぜ!

 今でさえ繊細な私の胃はシクシク傷んでる。


 「えっえー、会長様なら許せるよ。だって王道生徒会長様なんだよ」

 「なら珠ちゃんが会長と付き合うのを想像してどうよ」

 「うっ……ごめんなさい。私も無理」

 

 珠ちゃんも瞬時に会長と付き合うシュミレーションをすると同意してくれた。

 そのまま3人でわいわい話している内に林を抜けて温室の前に到着する。


 「こんな所に温室があったなんて知らなかった。もっと素敵なガラス張りで大きいのかと思ってたけど、小さいね」

 「公立高校で植物園並の温室は無理だし、あるのも珍しいんじゃない。しかも年代物だけど、メンテナンスは大丈夫? 地震が来たらガラスの破片が雨のように降ってきそう」

 「入部して短いし私も良く分かんない。でも中に薔薇の鉢植えが一杯あって綺麗だよ」


 私は、そう言いながら温室のドアを開けようとするが鍵が掛かっていた。


 「まだ部長は来てないみたい。待とう」

 「園芸部の部長さんてどんな人」

 「メガネをかけて背が高くって優しい人かな」

 「如何にも貧乏くじを引きそうなタイプ?」

 「そう、そう、そんな感じ、って、何を言わせるのよ美紅!」

 「だって、今こっちに、それらしき人物が走って来てるから」


 美紅が前を指さすと、部長がメガネをずり落としながら慌てて私たちの方に走って来る。


 「待たせて、ごめーん白鳥さん。ホームルームが長引いてしまったんだ」


 はぁ、はぁっと息を切らせて私達の前に立ち止まるが、よほど急いで走ったのか額に汗がにじんでいた。


 「私達も今来た所なんで大丈夫です」

 「それなら良かった。 他の子は友だちかい」

 「はい。 生徒会長と会うので付き添いで、美紅と珠ちゃんです」


 二人を紹介すると部長も「2年で部長の長瀬です」と照れ臭そうに名乗った。


 「曽根先輩から経緯は聞いたよ。生徒会長が分かってくれるといいね」

 「曽根?」

 「副会長をしてる人。僕が1年の時から生徒会で色々とお世話になってたんだ」

 「もしかしてパシリにされてたんですか」


 副会長が人の良さそうな部長を下僕のように扱っているイメージが浮かんだ。


 「パシリ? 前の部長の代わりに生徒会の会合に出席してたから、部の予算で困っているのを助けくれたり面倒見のいい先輩だよ」


 いい先輩!?

 認識が違い過ぎて、私が今朝に会った腹黒副会長とは別人ではないだろうか……と疑念を抱いたが黙っておく。

 それから部長は急いで温室の鍵を開けてくれる。


 「狭いけど、どうぞ」


 皆でぞろぞろと中に入ると、薔薇の匂いがして珠ちゃんが反応する。


 「いい匂いだね。薔薇の温室ってなんか素敵な気分になるから不思議」


 それはきっと腐女子だからだよ珠ちゃん。薔薇の温室…BLのイベント発生場所として昔からの鉄板だ。


 「皆がそろうまで僕は水やりをするから、白鳥さんたちは座っていて」

 「私もします」

 「いいよ。ホースで撒くから直ぐ終わるし」

 「でも」

 「今日はお友達もいるから。その代り明日は薔薇に肥料をやりたいから手伝って欲しいんだけどいい?」

 「分かりました」



 そして部長がホースで水遣りをする横で私たちは椅子に座って会長たちを待つのだった。


 


 「だけど副会長たち遅くないか…なんか緊張して来た」


 あの会長と会うかと思うとドキドキして来るので胸を押さえる。


 「瑠璃ちゃん、ファイトだよ。俺様キャラは、気弱でいくと引き摺られるだけだからね」

 「うん」


 珠ちゃんらしいオタク的アドバイスをありがとう。


 「いざとなれば私が処理してあげるから安心して」

 「うっ…ん」


 魔王様……何をお考えでしょうか?


 二人の熱い友情に少し感動していると、外から人の気配。いよいよ来たかと身構えるとドアが開く。


 「お待たせ~ イチゴちゃん」


 現れたのはチャラさ全開の男だった。

 一気に気が抜ける私。


 「ハル先輩か……」

 「相変わらずつれないな。それより今日は可愛い子が二人もいるなんてラッキーだな。君たち名前を教えて」


 ハル先輩はキャラメルブラウンの髪と青のカラーコンタクトの目をキラキラさせて早速ナンパし始める。私の時と態度違うぞ、コラ~~~~~。


 「えっ」

 「……」

 

 顔を赤らめ戸惑う珠ちゃんと、無表情で無言を通す美紅。


 「ハル、こんな所で止めてくれ。女の子たちが困ってるだろ」

 「はーい那奈ちゃん」


 素直に言う事を聞くハル先輩の様子に、珠ちゃんの目がキラリと光るのを私は見逃さなかった。

 きっと今珠ちゃんの脳内は平凡メガネ×チャラ男の妄想が始まっている。それともコアな腐女子なら、この反対でも萌てそうだ。そう察してしまう私も、随分と腐に毒されているかも……。


 「ハル先輩、問題の会長は何時来るんですか」

 「もう直ぐ副会長が連れて来るんじゃないかな?」


 その時、外から騒がしい声が聞こえて来た。


 『おい! この縄をほどけ』

 『大人しくしろ黒羽。話し合いが終わったら解いてやる』

 『俺は罪人か!』

 『女子生徒にストーカー行為するのは、れっきとした犯罪者だ』

 『俺が何時イチゴをストーカーしたんだ』

 『調べはついてる。今朝の校門で待ち伏せ、先週は1年の教室に態々出向いて呼び出すパワハラ、中庭でセクハラ、しかも暴言に暴力まで振るっている。これがストーカーでないと否定できるか』

 『はぁ~~~っ? 俺はそんなつもりないぞ』

 『ストーカーの常套句だな』

 『曽根、ふざけるな!』

 『高波、黙らせろ』


 ゲフッと言う不気味な声と共に静かになる。

 思わず温室内の私達は息を呑み、何が起こっているのかと入口に視線が釘付けになっていた。

 そしてゆっくりとドアが開き、先ず入って来たのは副会長、その後ろから気絶した会長を担いだイケメン武士と続いた。


 「待たせたようだな。目立つ黒羽を人知れず連れて来るのに手間取ってしまた。高波、黒羽を椅子に座らせて縄で括り付けろ」

 「いいですけど……後が煩くなりそう」

 「そうだな。口にガムテープでも貼っておくか」


 武士はコクリと頷くと、空いてる椅子に会長を座らせると慣れた手つきでロープで縛ってから、何処からかガムテープを取り出すと口に貼る。まるで誘拐の犯行を目撃しているようで空気が凍る。

 私でさえも会長が気の毒になった。


 「曽根先輩、少しやりすぎじゃないでしょうか」


 部長が見兼ねたように副会長に自制を促した。


 「この男には、これぐらいの扱いが丁度いいんだ。現にここに連れて来るのに、どれだけ苦労したと思っている。イチゴに会わせてやるから捜すなと説得するのも一苦労。その上、放課後まで会う場所を隠していたら、休み時間の度にしつこく聞きに来る始末。しかも一般生徒に見られないように校舎裏に連れて来て、この場所を告げた途端に訳の分からない事を喚き出したんだ」

 「どんな事を?」

 「『イチゴめ、俺に告白するために呼び出したんだな。やっと素直になったか! まぁー少しぐらいなら付き合ってやらなくもない』とドヤ顔を俺に見せ、 そして『お前は、ここまででいいぞ。イチゴは恥ずかしがり屋だからな』と勘違いもたけだけしい事を言い出したから縛ったんだ。恐らく自由にしたら更に暴走を始めるだろうが、いいんだな」


 副会長がロープに手を掛けようとするので私は速攻で止める。


 「封印を解かないで! まじ怖いっす!」


 何だその勘違い!

 どうして私が会長に惚れている設定??

 思考がカオスだよーーーー!

 入学式で睨んだだけで何故そうなる!!


 「流石に会長~~。ここまで独善的だとすっげ~ウケるんだけど~~」


 ハル先輩は他人事だと思って楽しそうにする。


 「想像以上の愚者ね。こんなストーカーに付き纏われたら私と瑠璃の芸人への道の妨げになるわ。いっそうの事、精神科にこのまま搬送しましょう」


 芸人への道が気になるけど、美紅に私も激しく同意! ――実際に入院させるのは無理だろうけど。


 「瑠璃ちゃん! やっぱりこの展開は会長様が瑠璃ちゃんを好きなパターンだよ! 早く恋愛フラグを折らないと大変だよ」


 珠ちゃんは真っ青になって心配してくれる。

 だがその内容には同意したくなかった。


 会長が私を好きだとーーーー!

 ありえねぇーー!

 

 いや……薄々と感じてはいたけど、あまりにも王道のセオリー過ぎて拒否していたのかも……。


 「どうしよう……私の青春が~~。 ラブコメのヒロインなんて望んでないよ。 珠ちゃん、フラグの折り方教えてくれ」

 「瑠璃ちゃん、ごめん。私にも分かんない。だって殆どがつかまちゃう終わり方だから」


 珠ちゃんに泣きついてみるが、これまで読んで来た愛書の中には逃げ切るパターンは無かったようだ。

 私も記憶に無い~~。


 「この際、美紅でいいから、会長を何とかして」

 「この際とはどういう事?」


 美紅は眉をひそめて不機嫌になる。


 「非人道的手段をお願いします!」

 「人聞きが悪い……まるで私が冷酷非道な人間みたいじゃない」


 どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。だけど案外美紅は自分が分かっていないじゃないかと思っていると、ハル先輩が不思議いそうに会話に割って入る。


 「ねぇー、ねぇー、瑠璃ってイチゴちゃんの名前?」

 「そうです! こんな時にどうでもいいこと訊かないで!」


 今はそれどころじゃないので、少々ヒステリックに行ってしまった。


 「あれ? でも何で、あっ君はイチゴって呼んだの?」

 「イチゴのパンツだったから」


 コラ武士! 今更その話をするな。口止めしておくべきだったと後悔したが遅かった。

 この事実は美紅たちにも言っていなかったのに……。


 「なんでパンツのガラを知ってんの」

 「転んだから見えた」

 「イチゴはそう言う意味だったのか。だが今日はサクランボ柄だったぞ」


 コラ副会長! お前まで話にのるなーーー!


 「副会長はどうして?」

 「フェンスから落ちた時に不可抗力で見てしまった」

 「そっか~、 じゃあ今日はチェリーちゃんだね」


 そう言ってハル先輩がにっこりと私に微笑むのを見てブチ切れる。


 「ハル先輩のすっとこどっこいーーーー! 人が真面目に悩んでるのに、私のパンツのガラを茶化すなんて会長並のKYだよ……うっえぇーーん、えん、びぇえーーん」


 ここは一旦感情を吐き出してやる。


 「ハル! 女の子を泣かすんじゃない。 大丈夫白鳥さん。 まだ使ってないからこのタオル使って」


 泣く私にタオルを優しく差し出してくれるので、ありがたく受け取る。そして遠慮なく涙と鼻水を拭くと柔軟剤のいい香りがした。そう言えば久しく我が家の洗濯ものからは消えた香りに懐かしくなる。

 アロマの香りに癒されるぜ。


 「ご免よ、チェ…瑠璃ちゃん。今度、」

 「スペシャルイチゴショート…」

 「分かった……」


 女の涙は高くつくんだよ!

 

 「全く、これじゃ埒が明かない。パンツの話はこれで止めだ。後は俺が取り仕切る」


 何だよ……副会長も私のパンツの話に加わったくせにと思ったけど、今のところ、この場を納めるのは腹黒メガネしかいなかった。私は深々と頭を下げる。


 「お代官様、宜しくお願いしますだ」

 「お前……KYだと人の事を言えんぞ」


 副会長にツッコまれ、少しふざけすぎたかと思ったけど、自分なりに気分を切り替える為だった。


 だって、やってらんないよ~~。


 椅子に縛られて気を失う会長――どんな状況でも絵になるな男を見ながら、何故私なんだと呪いたくなった。

 


 

 


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