20・終焉
どかからか聞こえる『私』を呼ぶ声。
だんだんと大きくなってくるソレに、しかし身体は反応しない。
動きたいけど、動けない。
答えたいけど、答えられない。
そんなもどかしさに意識を持って行かれた、その瞬間に。
「ざっつよーうっっ!!」
みぞおちあたりに受けた衝撃。
ぐふぅっと乙女にあるまじき声が漏れ、肺の空気が一気に抜けた。
「・・や、ヤエ、さ・・」
げふげふとせき込みながらも、ようやく覚醒した意識を衝撃の根元に向ければ。
「起きたか。いつまで寝ている気だ」
手間かけさせるな、と、何時もの如く偉そうな主の姿。
ぷかぷかと目の前に浮いているその姿に、どうやら戻ってきたのだと知った。
「ヤエさま、できれば、もう少し優しく起こしてください」
無駄だと知りつつ、そう苦言を呈して。
「ところで、一体どうなっているのですか?」
終わった記憶の無い、ウェランの最期を問いかけた。
凝り固まった身体をほぐすように、暖かなお湯の中で伸びをする。
両手両足を伸ばしてもまだまだ余裕のある浴槽に半分沈みつつ、ヤエさまから聞いたウェランの最期を整理する。
神様という存在が勝手だということは解っていたが、それでもコレは酷いと思う。
まぁ、そもそもの価値観どころか存在すら違うのだから、当然なのだが。
「しかし、強制撤去は無いわ」
用が無くなったら捨てるとか。
まぁ、初めからウィン様は私のことを借り物だ、と言っていたが。
よくよく聞けば、今回のウェランツァイは元々『精霊王様の寵児』では無かったらしい。
ただ、いいタイミングで生まれた王女に活性化する魔物の駆除をさせる役目を押し付けようと思ったら、あっさりと死んでしまって驚いた、と。
もともと、ヤエ様には魔物の駆除終了まで、という約束で私を借り受けていたらしい。
なら、初めから言ってくれ、と思いつつ。
でも、面倒が無くて助かった、とも思いつつ。
ウェランツァイの最期は、あの場でウィン様がヤエ様に私を差し出し、ヤエ様の振った鎌によって強制撤去で終了。
父上も叔父上も何が起こったのか理解できないまま、ウェランツァイの亡骸だけが残った、と。
うん、ないわー。
パニックに陥ったであろう事が容易に想像できる。
外で待っていたギルジェモも、さぞかし驚いたことだろう。
きっと、たぶん、父上と叔父上は、ウェランの婚約者にギルジェモを考えていたはず。
どのような思惑があったのかはわからないが、あの叔父が噛んでいることだけは確か。
既に終わったことだが、気になるといえば気になる。
今更、知る術は無いのだが。
役割の終わった仮初の人生をいつまでも考えていてもしょうがないので、このあたりで思考を止める。
毎度の事ながら、今回もヤエ様は「しばらくはゆっくりさせてやる」とおっしゃっていた。
いつまでがゆっくりかは不明だが、せめて一週間は自分の身体で過ごしたい。
そのためにも、腹ごしらえ。
次の行動を決めて、さくっと湯船から上がって。
「よし、うどんにしよう」
腹具合と相談して、食べるものを決める。
御手軽冷凍麺がストックされていたはずだ。
こってりはしばらく無理なので、やまかけうどんにでもしよう。
お腹が慣れたら、久しぶりにとんかつが食べたい。
そんな、色気より食い気な思考で台所に立ちつつ、つかの間の平穏を心から願った。




