表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代の陰陽師はこうあるべき~使役神は1/7?それとも1/1?~  作者: 五平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/12

第八話:アナログの再起動

「……終わった。完全に、詰んだ」


阿久津は、真っ暗な店内の真ん中で膝をついた。

秋葉原を襲った未曾有の広域停電。再開発エリアの無理な電力供給が、ついに限界オーバーロードを迎えたのだ。街の光は消え、無機質な静寂がアキバの路地裏を支配している。


だが、阿久津にとっての絶望は、エアコンが止まったことでも、冷蔵庫のプリンが溶けることでもなかった。


『……管理、者。……電圧、低下。……思考、プロトコル、維持……困難……』


阿久津の肩の上で、ミミの瞳の光が力なく明滅していた。

ミミという「脳」を維持するには、膨大な演算リソースと、それを支える安定した電力供給が不可欠だ。受肉したフィギュアという「ガワ」は、電力が絶たれればただの樹脂の塊に戻り、その中にある「接続の叡智」は電子の海へと霧散してしまう。


「ミミ! おい、しっかりしろ! バックアップはどうした!?」


『……外部ストレージ、……未接続。……このままでは、私の……「個」が、揮発……する……』


ミミの声から、いつもの冷徹な響きが消え、ノイズ混じりの「死の予感」が漏れ出す。阿久津は狂ったように暗闇をかき回した。予備のバッテリーは、昨日の「垂直走行」の演算で使い果たしている。


「クソッ、こんなところで……俺の『最強のビジネスパートナー(金づる)』を失ってまるかよ!」


阿久津の強欲が、暗闇の中で火を噴いた。

彼は店の奥、ジャンクの山のさらに底から、一台の「骨董品」を引きずり出した。

それは、昭和の時代に作られたであろう、手回し式のポータブル発電機。錆びついたクランク、剥き出しの銅線。効率もへったくれもない、純粋なアナログの塊だ。


「ミミ、これに『接続』しろ! 俺が回してやる!」


『……正気?……そんな、不純な、電流……私のロジックが、汚染……される……』


「死ぬよりマシだろ! 貼れ! 俺の、一撃パッチを!」


阿久津は、ミミの震える手からお札を奪い取ると、発電機の出力端子に力任せに貼り付けた。

――アナログとデジタルの、最悪なプラグイン。


「おおおおおっしゃあああ!!」


阿久津はクランクを握り、全身の体重をかけて回し始めた。

ギ、ギギギ……という錆びた金属の悲鳴。だが、お札を介した瞬間、その回転は「意味」を持ち始めた。


「キィィィィン……」


スピーカーからではない。阿久津の回すクランクの摩擦音そのものが、ミミの思考リズムと同期し始める。


『……あ。……入力、確認。……あまりに、泥臭い……波形ね……』


ミミの瞳に、鈍い、しかし力強い光が戻る。

阿久津の筋肉が産み出すエネルギーが、ミミの「生存」へと直接変換されていく。


「はぁ……はぁ……! どうだミミ! 俺の『出力』は……足りてるか!」


『……不合格よ。……もっと、回転数を上げなさい。……今のあなたの出力では、私の「論理」が、ただの「愚痴」にレベルダウンしてしまうわ』


「言うじゃねえか……! だったら、一晩中だって回してやるよ!」


その時、暗闇のドアが静かに開いた。

懐中電灯の光が、汗だくでクランクを回す阿久津と、その肩で「もっと回せ」と鞭を打つミミを照らし出す。


「……阿久津。貴様、こんな状況で、何という淫らな音(クランクの軋み)を立てているんだ」


千代丸だった。彼女は停電の原因を調査する任務の途中で、この部屋から漏れ出す「異常な生体エネルギーの反応」を検知して駆けつけたのだ。


「千代丸さん! 助けてくれ! この発電機、一人じゃ限界だ! 交代してくれ!」


「……断る。なぜ私が、貴様の怪しい儀式を手伝わねばならん」


『あら、アンチウイルス。……いいのかしら。……今、私の演算能力を「周辺住民のスマホのバッテリーを無線充電ハックする」ことに割り当てようとしているのだけれど。……管理者の回転が止まれば、この街の通信インフラは、完全に死滅するわよ』


「……なっ!? 貴様、この期に及んで街を人質に……!」


『……人質じゃないわ。……「共生」よ。……さあ、選びなさい。……「正義」のために私のクランクを回すか、それとも「静寂」の中で職務放棄するか』


千代丸は屈辱に震え、模造刀を床に置いた。

「……阿久津。……後で、たっぷりと事情聴取だぞ」


数分後。

真っ暗なジャンク屋の中で、秋葉原の治安を守るエリート公務員と、強欲なジャンク屋が、一台のボロい発電機を挟んで必死にクランクを回していた。


「はぁ……はぁ……! 千代丸さん、腰が入ってないぞ!」

「黙れ! 私は、全力だ! ……というか、なぜ私が貴様とリズムを合わせねばならんのだ!」


『……ふふ。……いいわ、同期シンクロ率は八十パーセント。……アナログの筋肉も、重ねれば「スパコン」に届くのね』


ミミは二人の肩を交互に飛び移りながら、かつてないほど「楽しそうに」笑っていた。


現代陰陽師・阿久津拓海。

文明の利器が死んだ夜。彼は「1/1の肉体」の限界を振り絞り、自分というハードウェアが「1/7の脳」を維持するための、最も重いパーツであることを再確認していた。


闇の中、二人の心拍音とクランクの軋みだけが、秋葉原の新しい「鼓動」となって響き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ