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第二章 男の享楽 1.


 雨が降っている。

すでに振りだしてから三時間近く経過しているが、雨は全く止む気配を見せない。そんな外の情景に苛つきながら、男は未だ目を覚まさない少年にその苛つきをぶつけた。

「おい、いつまで寝てやがんだ! いい加減にしろよ!?」

 大声で怒鳴れば、雨宿りにと入った洞窟中に声が反響して、思わず耳を塞ぎたくなる。

湿気のせいで、集めた薪は役に立たなかった。何だかそれでさえも目の前で眠る少年のせいに思えてくる。

連れてきたのは、自分なのだが。

 男は自分のおかしな考えを軽く笑い飛ばした。

「ハッ、んなわきゃねぇよな……」

 ただ、少年の故郷である町から出てきて、少年が一度も目を覚ましていないことは事実だった。寝息は聞こえてくる。第一手加減をしたのだから、死んだはずはない。

 火の点かない焚き火を挟んで、反対側。何も敷かずにそのまま濡れた地面に寝かせたために、少年の白いシャツが泥に茶色く汚れている。

 自分の物ではないし、特に気にすることはなかった。連れ歩くこと自体が予想範囲外なのだから、少しくらい乱暴に扱っても文句を言わないで欲しいものだ。

 町で伺った彼の性格からすれば、まず間違いなく文句を言ってくるのだろうが。

「起きろ、とっくに昼だぞ。あまり俺の足を引っ張るな」

ぺしぺしと軽く少年の頬を叩く。少年はすこし身じろぎを見せたが、起きようとはしない。

「人が優しく起こしてやってんのによ……」

男の苛々は積もる。全く、すやすやと幸せそうな寝顔だ。

 いっそのこと、息の根止めてやろうか。そんなことも考える。だが男には、そうできない理由があった。

「畜生が……さっさと起きろってんだよ!!」

腹いせに、思い切り少年の頭を引っ叩く。パシン、と軽快な音が洞窟に響いた。

「いって……! 何? 何!?」

 さすがに少年がガバリと上半身を起こした。少年の顔を覗き込むようにしていた男は、突然の少年の動きに思わず後ずさりした。

「やっと起きやがった……」

 目を覚ましたばかりの少年は、まだ寝ぼけているのだろうか。きょろきょろと辺りを見回し、最後に男の顔を見て視線が止まった。

「あれ……アンタ誰?」

 男は思わず溜息を吐きたい衝動に駆られる。なんてめでたい奴だ。完全に平和ボケしている。

この先しなければならない苦労が、目に浮かぶようだった。

「あぁ、思い出した! 俺たしか、盗み、やって……そんで」

 少年は、不安そうに男を見上げた。少年の体が小刻みに震え始める。

「逃げてんだよ、追っ手から」

 男は明後日の方向を向きつつ、台詞を続けてやる。立っているのが面倒になり、男は少年から少し離れたところに腰を降ろした。

少しずつクリアになっていく脳内に愕然としながら、少年は男に詰め寄る。

「ここ……どこだよ。どこなんだよ! 帰せ、俺を町に帰せよ!!」

叫んだ。頭が覚醒し、記憶を取り戻して、今の状況を把握した。

 やっぱりこれか、と男は今度こそ溜息を吐いた。やってられない。なんでこんな面倒なことになってやがる。

 男は既に、返答も面倒になってきていた。ベルトに吊るされた小さなポーチから煙草を取り出し、マッチで火を点ける。

「ギャーギャー喚きやがって、うるせぇんだよ。貴様はもう後戻り出来ねぇんだ、覚悟決めろ」

マッチを足元に落とし、底の厚いブーツで踏みつけた。そして名も知らない少年を睨みつける。

少年はその視線に怯えたように男から視線をずらし、膝を抱えて丸く縮こまってしまった。

 少年の視線の先は、雨で視界もほとんどない外。出て行きたいのに、現在自分がいる場所もわからないのだ。薄ぼんやりと、木々が見える。森の中なのかもしれない。迷ったら危険。そのくらいは、少年の今もまだ混乱する頭でも理解できた。

「ねぇ……名前、教えてよ。俺、アルゼってんだ……」

 視線はそのままに、アルゼは男に話しかける。

「……ロゼルグだ。やっと決めたのか? 手間のかかる奴だな」

一瞬、男は名乗るのを躊躇うように顔をしかめた。が、最終的にはアルゼへの皮肉の言葉と共に名乗ってくる。

「ロゼルグ、さん? ねぇ俺、これからどうなんのかな……」

 アルゼは素朴な疑問をぶつけた。こんな状況に置かれた人間なら、まず誰しもが真っ先に思う疑問だろう。アルゼの中には、不安ばかりが積もっていく。

 町から出た。

たったそれだけのことで、アルゼは不安だった。

「命は一応守るっつっただろうが。まぁそれも俺の気分次第だ。精々頑張って俺の機嫌でもとってろ」

 ロゼルグが、煙と一緒に言葉を吐き出す。正直、アルゼの感じている不安などどうでもいい。

ただ自分の置かれている状況を理解し、自分しか頼れないことを知るなら、それでいい。その心がどこまでも黒く染まれば、それで良かった。

「でも、いつまでも逃げ切れるわけないだろ? どうせすぐ捕まって、ロゼルグさんの言う通りなら、死刑に、なるんだ……」

 アルゼはどうしても、いつもの明るい考えになれなかった。

男がやったのだろうか。左腕に適当に巻かれた布に顔を埋める。

俺の周りには今、黒い空と出会ったばかりの怪しい男しかない。俺、やっぱり死ぬんだ。

暗い考えばかりが渦巻く。自然とアルゼの目には、涙が溢れてきた。

 雨はまだ、止みそうにない。



 新章突入です。

まだまだ小説は続きます。どうぞお付き合いを宜しくお願い致します。

 さて、今回は登場済人物の軽いプロフィールでもと思いまして。


・アルゼ……年齢18。身長172cm、茶髪の猫毛。

       明るい性格と思考を持つ。唯一彼の持つ影は、左腕の黒い痣。

・ロゼルグ……年齢25。身長178cm、黒い短髪。

        性格は乱暴かつ粗悪。暴力は最早彼の癖。

        猫被りが上手い。

・エリエファ……年齢18。身長168cm、長くて薄い金色の髪。

         優しい、温和な性格は誰からも好まれる。幼馴染であるアルゼに、いつも気を配っている。


作者の至らない稚拙な文章とキャラクター達で織り成す物語ですが、これからも精進していきたいと思います。

新章で気合を入れなおし、これからも執筆活動に励みたいと思います。

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