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詰所を離れ、神殿へと向かう。王宮の傍にある大神殿とは別にこの国には各所に小神殿がある。フェルが通っていた神殿は小神殿で、貴族街と平民街の狭間にあった。
神殿の前にはまだいくつかの瓦礫が残されていた。火事になった時に建物の一部が焼け落ちたらしい。まだ数日しか経っていないのだ。フェルがあの夜の事を思い出し、無言で見つめているとオルレが欠伸をしながら近寄ってきた。
「なあ、あんたと同じ年ぐらいで、神殿に通ってた女の子をしらないか? 2~3日ほど前の話なんだが」
突然問われ、フェルは背中に冷汗が流れた。この男は以前の自分の姿を見たことがあったのだろうか?
「俺も何度か見かけたことがあったんだが、何故だかその容姿を想い出せねえんだ」
ほっとしたと同時に、今のは態度に出ていなかったかと挙動不審になる。
「おっと困るなあ。その子は人見知りでね。知らない男性から口説かれるのには慣れてないんだ」
サナトスが肩を抱き引き寄せてくれ、フェルはそっと息を吐く。
「やだなあ。そんなガキ……お嬢ちゃんを口説いたりしねえよ」
「……君は人を探しているのかい?」
「まあね。ここが放火だって聞いてるかい? それに関係する子を探している。名前だけでもわかればなあ」
サナトスが名乗るなと言われていたのはこういう意味もあったのだろうか。
「ほぉ? それは初耳だね。もう少し詳しく教えてくれるかな?」
「へへ。いいぜ。そのかわりお代は上乗せしてくれよ」
「ああ……聞きたいことが聞けたらね」
サナトスが指を鳴らすと辺りが暗くなる。不穏な気配にフェルはサナトスにしがみついた。
「大丈夫さ。少し魔法を展開するよ。吾輩から離れないようにね」
「な……何が……う……あ……」
オルレの足元からいきなり触手が飛び出す。にょろにょろと動き、体を拘束すると頭に絡みついた。先ほど詰所でサナトスが杖を動かしたのは、オルレの陰に触手を忍び込ませていたからだった。
「ひぃあ……が……」
「君が探しているという子について知っている事を話せ」
「神官の事を聞いて回っていた女の子だ。この辺をうろついてちょこまかと調べていた」
「ほぉ、それで……?」
「あんたの事を調べている子がいると神官に伝えた」
「……っ……」
フェルの肩が揺れる。安心させるようにサナトスがしっかりとフェルを抱き込んだ。
「それでその神官は何をした?」
「あの方に相談するって言っていた」
「あの方とは誰だ?」
「知らねえ。それ以上は何も知らない…………その子を探せと頼まれただけだ」
「吾輩は知っている事を話せといったはずだ」
「……俺はあの夜。警備を緩めろと頼まれただけで……」
「いくらもらった?」
「金貨5枚……もう使っちまったからない……」
「誰にもらった?」
「……警護に当たっていた騎士だ。名前は……セ……レス」
「フェルを探せと言ったのもセレスか?」
「…………そ……うだ……でもしゃべったら殺される……」
「そうかわかった」
今の話で『あの方』と呼ばれる人物とセレスという騎士が浮かび上がった。少なくともこの二人が関係しているのだろう。『あの方』という呼び名からして位が高い人物の可能性が高い。
「オルレ……貴様にはいいモノをやろう」
ずるずると音がするが、フェルはまだサナトスに抱き込まれていて顔をあげることが出来なかった。
「ここを出たら吾輩と話したことは忘れろ。だが吾輩の声には答えるのだ」
「…………仰せのままに」
「もう顔をあげてもいいよ」
サナトスの声にフェルがあたりを見回すと景色は元に戻っており、オルレも気だるげに立っているだけだった。触手が生えまわっていた跡すらない。
「師匠……」
「怖い思いをさせたかい?」
確かに怖かったが、眉をへの字にして情けなくこちらを覗き込むサナトスにフェルは何も言えなくなる。
(狡いわ。そんな顔するなんて)
「そういやこの神殿、建て替えが決まったらしいぜ」
オルレが前を歩く。今目の前で起こっていた事など何もなかったように。きっともう何も覚えていないのだろう。フェルはゾッとしたが、頭を撫でてくれるサナトスの大きな手が温かくて怖くはなかった。
「そうかい。無理言って悪かったね。お礼はこれでいいかい?」
サナトスはオルレに金貨を一枚渡した。
「うひょ! 道案内だけで金貨がもらえるなんて。ついでに神殿に紹介しようか?」
「……そうだな。そうしてくれるかい?」
オルレは上機嫌で神殿の中へと入っていく。近くにいる神官に声をかけると手を振って帰っていった。
「師匠、あの人はもういいの?」
「ああ、道はつけてあるからな」
フェルが思い出すのがつらくて記憶の奥に追いやっていた過去の場面に何かが……。




