知合いですか?
「妙な気配が上階からしたと思ったら……デューク。いったい何しに来たんだい?」
(デュークって名前の人なのね。上階からというのならこの人も師匠と同じように転移が使えるのかもしれない)
サナトスはすっとフェルを後ろから羽交い絞めにする。下から見上げたサナトスは淡く微笑んでいるが、目が全く笑っていない。抱きつかれたフェルは不本意ながらも、この不穏な空気を感じとって、しばらく様子をみることにした。
「あんたがまた何かを始めたって噂を聞いたからさ。見定めに来たのさ」
デュークと呼ばれた男は、どうやらフェルに会いにきたらしい。
「悪いがこの子は吾輩のモノだよ?」
「紹介ぐらいしてくれてもいいんじゃないのか?」
「いやだね。冷やかしなら間に合っているよ」
「お気に入りなんだな。それなら尚更気になるね」
あきらかに威嚇しあっているが、二人はとても息があっているように見える。
「会話が弾んでらっしゃいますが、お二人はお友達なのですか?」
「お友達ではないかな」
「友達ではないな」
「では知り合いのかたですか?」
「こんな奴知っていたかな?」
「お前、さっき俺の名前呼んでただろ?」
どう見ても知り合いだろう。見ず知らぬの者同士がする会話でないことくらいはフェルにもわかる。
「君はコレを気に入ったのかい?」
サナトスがフェルに向かってたずねる。デュークに至ってはコレ呼ばわりだ。このまま機嫌を損ねては面倒だと、経緯を説明することにする。フェルはせっかくの読書時間を潰されたくなかった。
(……これはかなり拗らせてる? 師匠って子供みたいなところがあるのね)
「いいえ。師匠。私は先ほどいじめられていたのです。読みたい本があったのですが手が届かず、背伸びをしているところにこちらの方が現れて、本を先に取ってしまわれたのですよ。その本をこちらに渡して欲しいと要求をしていただけで喜んではおりません」
「言いつけるなよ。ちょっとからかっただけだろ?」
デュークが口をへの字に曲げる。こちらの大人も子供じみている。
「でも跳ねていただろう?」
「物理的に届かなかったからです。好きで飛び跳ねていたわけではないのです」
「そうなのかい。人間は嬉しいと飛び跳ねるのではない?」
「時と場合によります」
サナトスは腕を組んで思案している。何か思い巡らせているようだ。
「……なるほどな。理解した。人間とは複雑な生き物なのだな」
(私が跳ねるのはペットが尻尾を振るのと同じだと思われていたのか)
「師匠、私はあの本が読みたいのです」
とにかく時間がもったいないと、フェルはサナトスの袖を掴んで、デュークが手にしている本を指差した。
「あれかい? わかった」
サナトスが指を鳴らすとデュークの手から本が消え、フェルの手元に本が転移した。
「ありがとうございます!」
「あちらのソファーで読んでおいで。吾輩は少しコレに話があるからね」
「はい。わかりました」
「うん。良い子だ」
フェルが手にした図鑑は厚みがあって上質紙が使われていた。パラパラとめくってみたが、中の解説は細かい分類ごとに書かれていて、絵柄も鮮やかな色彩で精密に描かれていた。
「すごくわかりやすい。まるで本物の植物のようだわ」
フェルはすぐに図鑑に夢中になった。サナトスがその様子を見て口角をあげた。
「ふふ、やはりあの子は君より吾輩の方を気に入ってるね」
「……いや、そんなこと俺はひとことも話題にあげてないだろ?」
「ん?……そうだったかな」
「あんたがそんなに浮かれているなんてな。数百年ぶりか?」
「可愛い子だろ? 吾輩によく懐いているし」
「へえ。その昔、そうやって手をかけた子に殺されかけたことがあるのにか?」
「…………あの子は勇者だったのだから仕方がないのだよ」
「ってことは、あんた、わかっていて可愛がっていたのか」
「だって気に入ったのだからしょうがないじゃないか」
「困った性癖だな…」
「放っておいてくれないか」
「そういえば、その子も似たような雰囲気がするな」
「わかるかい? 多分あの子の子孫だと思うよ」
「は? あんた……執拗だな。諦めが悪いというか」
「やめてくれないか。狙った獲物は逃がさない精神なだけだ」
「うわぁ……その子が気の毒に思えてきた……」
「煩いな。それより君こそ、その衣装はなんだ?」
「仕事の途中なんだよ。あんたの気配がしたから立ち寄っただけだ」
「仕事……? 何かあったのか?」
「ああ。いたずらな精霊が時戻りの時間草をあちこちの本の間に隠しちまったのさ」
「それは厄介だな…。で、どこぞの夜会に飛ばされていたというわけか?」
「まあそんなとこ。回収できたからいいけどさ」
「残りの数はわかっているのか?」
「おそらくあと1枚…………おい!」
「師匠…………」
突然の呼びかけの声と共にシュン! とフェルの姿が消えてしまった。
「フェル!」
出会いの偶然は必然である……。Byサナトス




