↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケおじ元魔王は、凄腕薬師でアル  作者: ゆうきぼし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/31

扉の先には

 ムスクの匂いが漂う店先。早いものでフェルがここに来てひと月が経とうとしていた。お客も週に2~3人しか現れない。サナトスが言うには本当に薬を必要としている者しかこの店には入って来られないらしい。

「……本当だったのね」

「ふふ。入口に目くらましの術がかかっているのさ」

 サナトスが煙草の紫煙を(くゆ)らせながら返事をする。彼が愛用している煙草は薫草を用いているらしく、ムスクの香りがした。フェルもこの香りは好きで、これなら吸ってもいいと銘柄指定をしている。


 今日は手元にあるいくつかの魔草を、保管するために二人で種類分けをしている。フェルはサナトスから魔草の扱い方を少しずつ教えてもらっていた。管理ぐらいはできるようになりたいと必死で勉強中だ。


「師匠、この二枚の葉はよく似ていますが、どこが違うのですか?」

「よく見てごらん。葉の形がこちらは尖っていて、こちらは少し丸いだろう?」

「本当だ! 同じ大きさの葉なのに。これは目視で確認できますね」


「これはね、実は同じ茎から生えるんだ。半月の双草(ジェミニ)という名で、棘のある方には麻痺毒がある。使う時は乾燥させて粉末だ。少量であれば鎮痛薬として使える。丸い葉の方はすりつぶして汁にすると万能解毒薬が作れる。だが使いすぎると中毒性依存となる。どれも配合と分量が大事だ」


「解毒……というと私が飲んだお薬の元ですか?」

「ああ。そうだな。あの時はこの魔草を使ったよ」


 フェルは早速手帳に描きこんでいく。客が来ないときはこうして自分だけの魔草図鑑を書き溜めていた。

「うん。良く描けているよ。吾輩の助手は絵も上手だね」

「ありがとうございます!」


 小さなころからフェルは絵を描くのが好きだった。妹のために絵本を描いてやったこともある。母は本を読むのが好きで、家にはかなり貴重な書物もあったのだが、父が亡くなり生活が苦しくなるごとに売りに出してしまった。


「私、本が好きなんです。いつかは自分の本を出したくて絵の練習も沢山しました」

「そうだったのかい? どんな本が好きなんだい?」

「どんな本でも読みますよ。夢物語や経済学、論理的思考、行動経済学……」

「……それは人間の子供が読む本なのかい?」

「いえ、母が持っていた本です。母は経理関連の仕事をしていたので、合理的な考えの人でした」

「なるほど、それが君にも反映されているのかな?」


「ある程度はそうかもしれません。本は読めば知識になるので好きです。師匠の扱う魔草の本とかもありますか?」

「そうだね。確か……。入って右手の扉の部屋が図書室につながっていたかな?」

「え? 図書室があるのですか!」

「まあね。かなりの数の本があったと思うよ。覗いてみるかい?」

「はい是非!」


 フェルが嬉しくて、ぴょんぴょん飛び跳ねるのを見てサナトスがにこにこする。どうやら人間は嬉しいと跳ねるのだと認識してしまったようだ。


「今日はもう店じまいにして君が好きそうな本を探しに行こう」

「え? いいんですか?」

「うん。いいんだよ」

 フェルは、この人はきっとお金持ちだから、気まぐれにしか仕事をしないのだと思った。

(本当は大貴族なのかもしれない? 衣食住が保証されるのならなんだっていいわ)


 いつものように店から私室へ繋がる扉を開けると長い廊下が現れる。すぐ手前がフェルの部屋でわかりやすいように扉には『フェルの部屋』とプレートをかけてもらった。今度の給料で実用性のある柔らかいクッションや肌触りの良い毛布を買いに行く予定だ。


「ほら、あの扉だよ」

「師匠。私には全部同じに見えます」

「それは困ったね。では色を付けよう。何色が好きなのかな?」

「それは図書室をイメージする色ですか? 本棚のイメージなので木の色ですかね……」

「ではこの扉は木目にしよう」

 

 パチンとサナトスが指を鳴らすと扉が木目になる。


「魔法を使ったのですね!」

「ふふ。さあ行こうか。お嬢さんお手をどうぞ」


 ダークブラウンのスーツ姿になったサナトスが、紳士のように片手を差し出す。フェルがその手に自分の手を乗せるとふわりとひだまりのような淡いオレンジ色のワンピース姿になった。

「まあ。どこかの令嬢になったみたいです」

「雰囲気が大事だからね。今日は吾輩が君の執事だ」


 扉を開けると紙の繊維と乾いたインクの匂いがした。視線の前には見渡す限りの本棚が聳え立っている。高い側窓からは柔らかい陽光が斜めに差し込み、空中を舞う小さな塵の粒子を黄金色の光の粒へと変えていた。中央には螺旋階段があり、優美な唐草模様を纏い、上層階へと続いていた。


「……凄い。知識の空間だわ」


 天井までぎっしりと埋め尽くされている本棚には、革装丁の重厚な背表紙、金箔押しのアラベスク模様、羊皮紙の古書までが規則正しく並んでいる。


「この階の物は読んでも構わないよ。ただし、この階より上や下には行ってはいけないよ」

「はい。迷子になってしまいそうですものね」

「それはちょっと困るな。ここはいろんな意味で広すぎてね。探すのに時間がかかってしまうんだ」


「その言い方だと見つけ出してもらうのに数日はかかりそうですね」

「……数年かもしれないね」

「…………どんな場所なのだ」



本日は夕方の回はお休みします。

雨に濡れて風邪をひいてしまいましたm(__)m




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。