解毒薬
いろいろと買い物をし、フェルは楽しくて仕方がなかった。サナトスが連れて行ってくれる店は不思議な品を扱っている店が多くて、どれも見たことがない物ばかりだった。きっとお金持ちの方が行く店なのだろうとフェルは思い込んでいた。
「師匠、今日は沢山買っていただきありがとうございました。ですが、下着店ではちょっぴり……いえ、かなり恥ずかしかったです」
「ははは。吾輩は初めて入ったのだ」
「いや、入らないでくださいよ。女性物の下着を手に取られた時はお店の方も目が泳いでましたよ!」
「そうなのだよ。あの店員に試着されますか?と聞かれたのだよ。ははは」
「そ、それは、そういう嗜好の方かと思われたのではないのですか?」
「いや、布が小さすぎて吾輩のものはおさまらな……」
「わーわー。それ以上は言わなくてもいいですってば!」
買い物の合間に屋台でまた買い食いをし、お腹が膨れたフェルは満足気だ。そんなフェルをサナトスは楽しそうに観察している。沢山の荷物はまた異空間に収納されたようで、瞬きしている間に消えていた。
「……さて、そろそろ詰所に行こうか」
「はい。お供します」
顔をあげるとサナトスが白衣姿になっていた。
「いつの間に……師匠は早着替えの技を持っているのですね」
「患者に会うのだから、それらしく雰囲気を出そうと思ってね」
待ちきれなかったのか、詰所の前にはブレイドが立っていた。きっとブレイドは妹思いなのだろう。
「来てくれたか。悪いな、無理を言ってしまって」
「待たせたかな?妹さんの加減はどうだい?」
「あまりよくない。寝込んでしまって、起き上がれないんだ」
ブレイドの家は詰所の裏手にある住民街だった。石畳の通りに面して整然と並ぶ住宅の屋根には、赤褐色の素焼き瓦が整然と敷き詰められており統一感をだしている。集合住宅のようで、小さな煙突からは絶えず煙が立ち上っている。分厚い木製の扉を押し開けると、こじんまりとした部屋の窓辺に布団が敷かれており、女の子が横たわっていた。
「妹のイリスだ。10歳になる。最近は日中もずっと横になっているんだ」
離れていても、息がしづらそうなのがわかる。呼吸が荒いようで、時折咳の音が聞こえていた。
「イリス、兄ちゃんだ。体の調子はどうだ?」
「うん。だい……じよう……ぶ……ケホッケホッ」
乾いたような咳の音がする。サナトスと出会った頃のフェルの咳の音に似ていた。
「咳が出るのかい?」
いきなりサナトスに話しかけられて怯えるように、女の子は布団に潜ってしまった。
「おや、吾輩は嫌われてしまったかな?」
「悪い、イリスは人見知りなんだ」
眉をさげたサナトスにブレイドはすまないと言って妹の枕元に近寄ると小声で話しかける。
「イリス、この人は見た目は派手だが、薬師さんだ。お前の様子を見に来てくれたんだ。顔をだしてくれ」
「ほんとに?」
イリスは布団からそろりと顔をだす。可愛らしい子だが、目元が赤い。
「こんにちは。ちょっとだけ問診してもいいかな?」
「……はい」
「咳はいつからだい?」
「よくわかんない。前からときどき出ていたの」
「そうかい。少し触っても良いかい?」
「はい」
サナトスが女の子の手をとり、何かを思案するように首を傾げた。フィルの方を見ると軽くうなずく。
「師匠? 何か分かったのですか?」
「フェルの咳の症状とよく似ているね」
「え? ブレイドさん、イリスちゃんは神殿の癒しの施術をうけてましたか?」
「ああ。体調を崩した時とか。薬を飲むよりも即効性があるからな」
「はあ。これは、民衆にとってあまり良くない事態じゃないのか。強い刺激を浴び続けると体内に蓄積し毒となるのだがな…」
「どういうことだ? イリスはかなり悪いのか?」
「いや、吾輩の薬で楽になると思うよ」
サナトスは懐から薬瓶を取り出した。フェルは見覚えのある色に青い顔になる。
「念のために薬を何種類か持参してきたのだ」
「し、師匠。さっき買った屋台のお菓子も出してあげてください」
「ああ。そうだね、そうしようか」
「……お菓子があるの?」
イリスの顔が明るくなる。
「では、少し苦いがこれを飲んでごらん」
「苦いの?」
イリスは口元をぎゅっと結んだ。渡された瓶を見て、ブレイドを見つめなおす。
「疑ってるわけじゃねえけどこいつは市販の薬で余計に悪くなったんだ。その……」
「市販薬のせいではあるまい。おそらくだが、元々光属性の魔法を浴びすぎて、体に蓄積されていたものが、今回魔力だまりの影響を受けて免疫反応が出てしまったのだろう」
「では師匠、私の場合もそうだったのでしょうか?」
「ああ。同じような境遇だったからな。フェルも魔力だまりの影響を受けていたのかもしれない」
「お姉ちゃんもイリスと同じだったの?」
「ええ。でもお薬を飲んだら治ったの」
「それを飲んだら、口直しのお菓子をあげるよ」
さきほど屋台で買ったベリーのタルトをイリスに見せると、瞳を見開いて大きく頷く。一口飲んで、むぐぐとなるが、涙目で全部飲み干した。
「くは……にがーい……ぐぅ……おぇ……」
「ブレイドさん、水はありませんか?」
「あるぞ。ほら、イリス、水を飲め!」
「うん……」
イリスは水を飲んだ後、タルトを美味しそうに頬張った。食べ終わる頃には咳は静まり体調は良くなっていた。
「先生、感謝するぜ。妹を助けてくれてありがとう! お礼に困ったことがあったら何でも言ってくれ。力になるぜ!」
「はは。それは頼もしいな。では何かあれば頼ってみよう」
公開時間が遅くなってしまいましたm(__)m




